金の野獣と薔薇の番

むー

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本編

1月 ①

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ついこの間始まった約2週間の冬休みはあっという間に終わった。
だが、冬休みも残り二日となった日に発情期が始まったオレは、更に1週間の休みとなった。
帰省中に発情期ははじめてだったけど、同じオメガの義母がオレにずっと付き添ってくれた。
その間、義父と義兄は義父の実家に行ってたらしい。
如月家のアマゾネスに囲まれてきた2人は、帰ってきた時、少しぐったりしていた。

今回も皇貴先輩から貰ったカーディガンのお世話になった。
でも今回の洗濯で、皇貴先輩の匂いは完全に消えて柔軟剤の匂いに変わってしまった。

「次回からどうしようかな…」

ベッドに転がりながら、無意識に左手首につけたブレスレットを撫でた。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「結季くん、おっはよー!」
「瑠可、あけましておめでとう」
「おめでとー」

教室に入ると真っ先に瑠可が迎えてくれた。
クラスの連中もオレに声を掛けてきた。

「ねぇねぇ、結季くん、ビッグニュースだよ!新しい先生が来たんだ!」
「えっ、こんな中途半端な時期に?」
「古文担当の副担任がスキー旅行で足の骨折って入院したんだってさ。しかも全治3ヶ月、ひぇ~」

近くにいたクラスメイトが腕をさすりながら教えてくれた。
確かに腕さすりたくなる話だわ。

みんなの話だと、足を骨折した古文担当の副担任が戻るまでの3ヶ月間、その臨時教員が古文を担当してくれてるそうだ。
ただし、副担任の役割はしないらしい。
春休みもあるから、実質、2ヶ月半限定だからかもしれない。

「今日は古文ないから、結季くんは明日会えるね」
「そうだな」
「すっごいイケメンだから期待してね!」
「あはは…」


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

放課後、オレは担任に社会科準備室に来るよう呼ばれた。

「で?」
「あ、あの…よ、よろしくお願いします」

呼び出した張本人の担任は「よろしく~」と言ってさっさと出て行った。

「まあいいよ。俺も勉強したかったし」
「あ……先輩、受験生でしたね、そういえば」
「どいつもコイツも俺が受験生だということを忘れやがって」

舌打ちをされて、ちょっとビクついてしまう。

「い、いいんですか?オレの面倒なんか見てて」
「ん、まあ、余裕だな」

恐縮しながら聞くと、皇貴先輩はニッと笑って答えた。
ちぇっ、恐縮して損した。

「あ、先輩。うちのクラスの副担任、入院したの知ってますか?」
「ああ、この時期に滑って転んで骨折るなんて縁起が悪いよな」
「あー確かに」

受験生には禁句のトリプルコンボじゃん。
何やってんだよ、うちの副担任。

「まあ、足の骨以外はピンピンしてるらしいから良かったんじゃね?」
「そうですね。……あっ」
「なんだよ?」

怪訝な顔をされる。
しょうがないじゃん。
これでもオレ緊張してんだから。

「代わりに来た臨時教員って、先輩は会いました?すっごいイケメンらしいっ……せ、先輩?」

怪訝な顔からムッとした顔になってますけど、オレ何か機嫌を損ねる様なこと言ったかな?

「知らね。ほら、やるぞ」
「あ、はい」


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

険悪な雰囲気も、いざ勉強が始まったら和らいだ。
オレの緊張も終わる頃には治まった。

「あ…」
「えっ?」
「着けてんだな、それ」

先輩はオレの手首のブレスレットをチョンとつっついた。

「着けろって言ったの先輩でしょ」
「ふっ、そだな」
「せ、先輩は」
「着けてるよ、ホラ」

手首のミサンガをオレに見せる。
嬉しい様な恥ずかしい様なオレの様子に先輩は笑うとオレとの距離を一気に詰めてきた。
オレは先輩の腕の中にすっぽりと埋まっていた。

「せ、せんぱぃ?」
「黙って、目ぇ閉じろ」
「イヤイヤイヤ」

迫り来る顔を両手で押し返すと、不服そうな顔でオレを見る。

「なんで?」
「なんでって…」

それはオレが聞きたい。
そりゃ、3度ほどキスはしたけど。
その内の2回は人命救助みたいなもんだったし。
クリスマスのは、なんか雰囲気でしてしまった。

そんなことを考えていたら手首を掴まれた。

「ほら、目閉じろよ」
「あ、あの…ふ……ふぇっくしょん!」

オレは先輩から顔を背けて、盛大にくしゃみをした。

「は?」
「あ、すみません」

先輩が呆気に取られた一瞬に掴まれていた手首を外して、謝罪をしながら後退りズズッと鼻を啜る。
日が落ちて部屋の中は少し寒くなっていたことにくしゃみが出るまで気が付かなかった。
そんなことを考えながら軽く腕をさすると、頭に白いものが飛んできた。

「ほら着ろ。風邪ひく」
「で、でも先輩だって」
「俺はこのぐらいじゃ風邪はひかない」

お言葉に甘えてカーディガンに袖を通すと、フワリと先輩の匂いがした。

「ありがとうございます。すごくあったかいです」
「ん、なら良かった。じゃ、帰るぞ」
「あ、はい」

そしてオレはまた、このカーディガンを貰ってしまった。

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