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本編
10月 ① side Khoki
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その報告を聞いた時、血が沸騰するほどの憤りを感じた。
何故その場に俺は居なかった?
激しい後悔に襲われた。
「私の対応が遅くなり申し訳ありませんでさした。ただ、彼はアフルァの圧に屈せず反撃しましたから、貴方が悔やむことはありませんよ」
佳都はそう言ったが、そういう問題ではない。
夏休みに入るちょっと前から、結季が俺のお気に入りだという噂が出始めたと佳都から聞かされたのは、9月の中頃だった。
出所はおそらく発情期の結季を襲ったあの3人だろう。
そこに俺が結季の練習に付き合っていたことが真実味を増してしまった。
それにより、以前から俺のことが気に入らない一部の輩に結季が目を付けられてしまった。
それが今回の事態を引き起こしたのだ。
俺が原因だったにも拘らず、自分の手で救えなかったことが悔しかった。
そんな俺に佳都は「貴方は我儘過ぎますよ」と笑われてしまった。
佳都だって、あの時すぐ駆けつけることができなかったことを少なからず悔いていた。
これ以上、この件に俺が拘るのは佳都を責めているのと同じだと分かっている。
分かっている…。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
体育祭前の週末、母親が倒れたという連絡を受け帰宅した。
行ってみたら、段差に躓いて転んだらちょっとした流血沙汰となり、居合わせた人が慌てて救急車を呼んでしまっただけだった。
怪我は軽い捻挫と擦り傷で1週間も安静にしていれば問題なかった。
父親もいるし、すぐ寮に戻っても良かったが、1週間くらいならと残って家の事を手伝った。
その1週間の不在の間に結季は襲われた。
結季の同じフットサルを選択していた佳都によって、怪我もなく済んだのは幸いだった。
その際、助けが遅くなったお詫びに何か出来ることはないかと訊く佳都に「それなら」と結季が頼んだのは、俺にタオルを返して欲しいということだった。
すぐ使えるように一度洗ったらしいそのタオルは手触りがとても良かった。
そして、ほんのり移った結季の香りが、俺の苛立つ気持ちを落ち着かれせてくれた。
「クッ…まったく、律儀なヤツ」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
生徒会長の望月佳都は、中等部の1年生の時からの付き合いで、この学園で唯一の友であり唯一の理解者だ。
俺の目の色がコンタクトではないことはもちろん、その能力も、たぶん俺以上に知っているのだろう。
佳都の家は父子家庭で、母親は佳都が物心つく前に死んでしまったらしい。
父親は会社で秘書をしていると言っていた。
「自分で言うのも恥ずかしい話ですが、私の父はずば抜けて能力が高いんですよ」
佳都が言うには、アルファである父親は運動能力はもちろんのこと、頭脳もかなり高いらしい。
能力的には会社のトップに立っていてもおかしくはないのだが、恩義のある爺さんの秘書として爺さんの一族を公私共に支えているそうだ。
佳都もこの学園に入学するまでは、爺さんとこに世話になっていた。
佳都の口調は父の影響で敬語だが、今更崩す気はないらしい。
「なあ、佳都……あいつのこと…結季のこと調べて欲しい、って言ったら出来るか?」
何となく口にしてしまった。
以前、何気ない会話の中で結季は7歳より以前の記憶はないと言っていた。
その時は特に何も思っていなかったが、放課後、結季と過ごす日々で興味が湧いた。
そして、発情期を目の当たりににして、その興味は知りたいと願望になった。
結季自身が覚えていない過去を探ることは、あいつは怒るかもしれない。
でも、あいつの過去に俺が知りたかった答えがある気がする…。
「私では無理です…」
「だよな。悪りぃ」
即答する佳都の言葉に、正直少しガッカリした。
佳都は父親のことを抜きにしても、かなりの頭脳を持っている。
いづれ父親と肩を並べるほどに成長するとも思っている。
そんな佳都ならば調べることができるのかもしれない。
そんなふうに思ってしまったからだ。
佳都は顎に拳を当てて、少し考えてから口を開いた。
「少し…時間を頂けますか?」
「?」
「私では無理ですが、父に…父なら何か情報を得ることができると思います」
意外な返答に、佳都の中にも何か思うところがあるのだろうか?
俺は迷うことなく頭を下げた。
「頼む」
何故その場に俺は居なかった?
激しい後悔に襲われた。
「私の対応が遅くなり申し訳ありませんでさした。ただ、彼はアフルァの圧に屈せず反撃しましたから、貴方が悔やむことはありませんよ」
佳都はそう言ったが、そういう問題ではない。
夏休みに入るちょっと前から、結季が俺のお気に入りだという噂が出始めたと佳都から聞かされたのは、9月の中頃だった。
出所はおそらく発情期の結季を襲ったあの3人だろう。
そこに俺が結季の練習に付き合っていたことが真実味を増してしまった。
それにより、以前から俺のことが気に入らない一部の輩に結季が目を付けられてしまった。
それが今回の事態を引き起こしたのだ。
俺が原因だったにも拘らず、自分の手で救えなかったことが悔しかった。
そんな俺に佳都は「貴方は我儘過ぎますよ」と笑われてしまった。
佳都だって、あの時すぐ駆けつけることができなかったことを少なからず悔いていた。
これ以上、この件に俺が拘るのは佳都を責めているのと同じだと分かっている。
分かっている…。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
体育祭前の週末、母親が倒れたという連絡を受け帰宅した。
行ってみたら、段差に躓いて転んだらちょっとした流血沙汰となり、居合わせた人が慌てて救急車を呼んでしまっただけだった。
怪我は軽い捻挫と擦り傷で1週間も安静にしていれば問題なかった。
父親もいるし、すぐ寮に戻っても良かったが、1週間くらいならと残って家の事を手伝った。
その1週間の不在の間に結季は襲われた。
結季の同じフットサルを選択していた佳都によって、怪我もなく済んだのは幸いだった。
その際、助けが遅くなったお詫びに何か出来ることはないかと訊く佳都に「それなら」と結季が頼んだのは、俺にタオルを返して欲しいということだった。
すぐ使えるように一度洗ったらしいそのタオルは手触りがとても良かった。
そして、ほんのり移った結季の香りが、俺の苛立つ気持ちを落ち着かれせてくれた。
「クッ…まったく、律儀なヤツ」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
生徒会長の望月佳都は、中等部の1年生の時からの付き合いで、この学園で唯一の友であり唯一の理解者だ。
俺の目の色がコンタクトではないことはもちろん、その能力も、たぶん俺以上に知っているのだろう。
佳都の家は父子家庭で、母親は佳都が物心つく前に死んでしまったらしい。
父親は会社で秘書をしていると言っていた。
「自分で言うのも恥ずかしい話ですが、私の父はずば抜けて能力が高いんですよ」
佳都が言うには、アルファである父親は運動能力はもちろんのこと、頭脳もかなり高いらしい。
能力的には会社のトップに立っていてもおかしくはないのだが、恩義のある爺さんの秘書として爺さんの一族を公私共に支えているそうだ。
佳都もこの学園に入学するまでは、爺さんとこに世話になっていた。
佳都の口調は父の影響で敬語だが、今更崩す気はないらしい。
「なあ、佳都……あいつのこと…結季のこと調べて欲しい、って言ったら出来るか?」
何となく口にしてしまった。
以前、何気ない会話の中で結季は7歳より以前の記憶はないと言っていた。
その時は特に何も思っていなかったが、放課後、結季と過ごす日々で興味が湧いた。
そして、発情期を目の当たりににして、その興味は知りたいと願望になった。
結季自身が覚えていない過去を探ることは、あいつは怒るかもしれない。
でも、あいつの過去に俺が知りたかった答えがある気がする…。
「私では無理です…」
「だよな。悪りぃ」
即答する佳都の言葉に、正直少しガッカリした。
佳都は父親のことを抜きにしても、かなりの頭脳を持っている。
いづれ父親と肩を並べるほどに成長するとも思っている。
そんな佳都ならば調べることができるのかもしれない。
そんなふうに思ってしまったからだ。
佳都は顎に拳を当てて、少し考えてから口を開いた。
「少し…時間を頂けますか?」
「?」
「私では無理ですが、父に…父なら何か情報を得ることができると思います」
意外な返答に、佳都の中にも何か思うところがあるのだろうか?
俺は迷うことなく頭を下げた。
「頼む」
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