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本編
8月 ①
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「はああぁぁぁぁ」
何度目のため息だろう。
夏休みの課題はほぼ終わった。
晩ご飯の席でそう言うと、義兄から問題集を渡されてた。
「はああぁぁぁぁ」
またため息が出た。
だがこれは課題に対してのため息ではない。
さっきのため息も含めて、全てだ。
あれから半月以上経ったのに、あの時のことを何度も思い出してしまう。
あの日、気絶したオレは皇貴先輩に保健室に運ばれた。
気絶した後に薬を飲まされたのか、目覚めると身体の熱は治まっていた。
しかし、完全に発情期に突入したため、それは一時的のものだと数時間後に思い知った。
処方された薬を飲みつつ身体の疼きに堪える日々は1週間近く続いた。
あまりに辛くて、あの日に飲んだ薬はもうないか保健医に電話で聞いたが「ああ…アレはねぇ…もう、ない、かな…」と歯切れ悪く言われた。
自分で買おうと薬の名前も聞いたのだけど、なんか濁された。
結局、何の薬だったんだ?
発情期が終わった時、すでに終業式は終わり、夏休みに突入していた。
発情期中、一度だけ瑠可が訪ねて来てくれたけど、オレのフェロモンに充てられるといけないから、ドア越しで少し話をした。
あの日、なかなか帰ってこないオレを瑠可は心配してくれたらしく、申し訳なくてドア越しに謝罪した。
そんなオレに、瑠可は「無事で良かった」と言ってくれた。
夏休み中は寮が閉鎖されるため、発情期が終わって実家に帰省したオレを待っていたのは、大量の課題だった。
夏休みの課題+発情期中に出されていた課題+義兄からの課題。
多すぎね?
最初は課題に追われてあの日のことを思い出す余裕もなかった。
今は逆に思い出しすぎて課題が進まない。
あの日の感触、匂い、熱、息遣い…。
思い出すだけでオレの身体は発情期の時の様に熱くなった。
今日はもう手につかないだろう課題を放り出してベッドに転がる。
何となく持って帰った皇貴先輩のカーディガンを着てその香りを吸い込むと薔薇の香りで肺が満たされる。
持ち主の手を離れ、香りもだいぶ薄くなったが、オレより一回りも大きいそれを着るとあの日の様に抱きしめられている錯覚に陥る。
暑いけど。
「先輩…何してるかな…?」
そんなことを考えながら目を閉じたら、あっという間に睡魔に意識を奪われた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「ゆう」
「んー?」
テレビを見ながら食後のアイスを堪能していると、義父が声を掛けてきた。
「今更だけど、その肩の噛み跡どうした?」
カランーー
スプーンが落ちた。
帰省してからずっと絆創膏で隠していた。
今日は面倒くさくて貼らなかった。
まあ、だいぶ薄くなってきたし、Tシャツで隠れていたし。
って、隠していたはずなのにバレてた。
というか、普通にバレてた?
「な、なん…」
「ああ、言ってなかったけど、あそこの保健医。姉の友達の娘」
「うそ…」
保健医経由で、オレの情報は義父にダダ漏れしてた。
それはオレと皇貴先輩の如何わしいアレコレもダダ漏れということだ。
「別に怒ってるわけじゃない。ちょっと気になることがあるから教えて欲しいんだ。出来れば、写真も撮らせて貰えると嬉しいんだけど」
義父の意図が全くわからないけど、叱られていた訳ではないらしい。
「実はあんまり覚えてない。噛まれた後、身体がすごく熱くなって、なんか訳わかんなくなって…」
「そうか」
義父はテーブルに落ちたスプーンを拾って持たせてくれた。
「それ食べ終わったら、噛み跡、写真撮らせてくれる?」
頭をワシワシと撫で微笑んだ義父にこくんと頷いた。
アイスを食べ終わった後、Tシャツを脱いで噛み跡を何枚か撮られた。
「なあ、ゆう」
「何?」
Tシャツを着ていると義父が声を掛けてきた。
「その噛み跡を付けた人、どういう人?恋人?」
「こ、こ、恋人っっ…ではない。ただの先輩」
「じゃあ、その先輩のこと好き?」
「すすすすすきぃって………わ、わかんない」
嫌いじゃない。
それは確かなこと。
好きか嫌いかと訊かれたら…。
好き……。
恋愛感情だと…。
わからない。
皇貴先輩のことを考えると胸がキュッとなるこの気持ちは生まれて初めてのことで、考えれば考えるほどわからない。
ポンと頭に手が置かれ見上げる。
義父と洗い物を終えてきた義母の優しい眼差しがあった。
「ゆう、今すぐ答えを出す必要はないよ。今ゆうの中にあるその気持ちにはいつかちゃんと名前が付くから、それまで大切に育てなさい」
「…う、ん」
「ふふ、楽しみね」
2人の優しさに訳もなく鼻の奥がツンと痛くなった。
「まあ、その前に俺が出した課題をクリアしてからだけどな」
「うっ…」
風呂上がりで肩にタオルを掛けた義兄が、オレの後ろで腕を組んで踏ん反り返っていた。
鬼義兄め。
何度目のため息だろう。
夏休みの課題はほぼ終わった。
晩ご飯の席でそう言うと、義兄から問題集を渡されてた。
「はああぁぁぁぁ」
またため息が出た。
だがこれは課題に対してのため息ではない。
さっきのため息も含めて、全てだ。
あれから半月以上経ったのに、あの時のことを何度も思い出してしまう。
あの日、気絶したオレは皇貴先輩に保健室に運ばれた。
気絶した後に薬を飲まされたのか、目覚めると身体の熱は治まっていた。
しかし、完全に発情期に突入したため、それは一時的のものだと数時間後に思い知った。
処方された薬を飲みつつ身体の疼きに堪える日々は1週間近く続いた。
あまりに辛くて、あの日に飲んだ薬はもうないか保健医に電話で聞いたが「ああ…アレはねぇ…もう、ない、かな…」と歯切れ悪く言われた。
自分で買おうと薬の名前も聞いたのだけど、なんか濁された。
結局、何の薬だったんだ?
発情期が終わった時、すでに終業式は終わり、夏休みに突入していた。
発情期中、一度だけ瑠可が訪ねて来てくれたけど、オレのフェロモンに充てられるといけないから、ドア越しで少し話をした。
あの日、なかなか帰ってこないオレを瑠可は心配してくれたらしく、申し訳なくてドア越しに謝罪した。
そんなオレに、瑠可は「無事で良かった」と言ってくれた。
夏休み中は寮が閉鎖されるため、発情期が終わって実家に帰省したオレを待っていたのは、大量の課題だった。
夏休みの課題+発情期中に出されていた課題+義兄からの課題。
多すぎね?
最初は課題に追われてあの日のことを思い出す余裕もなかった。
今は逆に思い出しすぎて課題が進まない。
あの日の感触、匂い、熱、息遣い…。
思い出すだけでオレの身体は発情期の時の様に熱くなった。
今日はもう手につかないだろう課題を放り出してベッドに転がる。
何となく持って帰った皇貴先輩のカーディガンを着てその香りを吸い込むと薔薇の香りで肺が満たされる。
持ち主の手を離れ、香りもだいぶ薄くなったが、オレより一回りも大きいそれを着るとあの日の様に抱きしめられている錯覚に陥る。
暑いけど。
「先輩…何してるかな…?」
そんなことを考えながら目を閉じたら、あっという間に睡魔に意識を奪われた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「ゆう」
「んー?」
テレビを見ながら食後のアイスを堪能していると、義父が声を掛けてきた。
「今更だけど、その肩の噛み跡どうした?」
カランーー
スプーンが落ちた。
帰省してからずっと絆創膏で隠していた。
今日は面倒くさくて貼らなかった。
まあ、だいぶ薄くなってきたし、Tシャツで隠れていたし。
って、隠していたはずなのにバレてた。
というか、普通にバレてた?
「な、なん…」
「ああ、言ってなかったけど、あそこの保健医。姉の友達の娘」
「うそ…」
保健医経由で、オレの情報は義父にダダ漏れしてた。
それはオレと皇貴先輩の如何わしいアレコレもダダ漏れということだ。
「別に怒ってるわけじゃない。ちょっと気になることがあるから教えて欲しいんだ。出来れば、写真も撮らせて貰えると嬉しいんだけど」
義父の意図が全くわからないけど、叱られていた訳ではないらしい。
「実はあんまり覚えてない。噛まれた後、身体がすごく熱くなって、なんか訳わかんなくなって…」
「そうか」
義父はテーブルに落ちたスプーンを拾って持たせてくれた。
「それ食べ終わったら、噛み跡、写真撮らせてくれる?」
頭をワシワシと撫で微笑んだ義父にこくんと頷いた。
アイスを食べ終わった後、Tシャツを脱いで噛み跡を何枚か撮られた。
「なあ、ゆう」
「何?」
Tシャツを着ていると義父が声を掛けてきた。
「その噛み跡を付けた人、どういう人?恋人?」
「こ、こ、恋人っっ…ではない。ただの先輩」
「じゃあ、その先輩のこと好き?」
「すすすすすきぃって………わ、わかんない」
嫌いじゃない。
それは確かなこと。
好きか嫌いかと訊かれたら…。
好き……。
恋愛感情だと…。
わからない。
皇貴先輩のことを考えると胸がキュッとなるこの気持ちは生まれて初めてのことで、考えれば考えるほどわからない。
ポンと頭に手が置かれ見上げる。
義父と洗い物を終えてきた義母の優しい眼差しがあった。
「ゆう、今すぐ答えを出す必要はないよ。今ゆうの中にあるその気持ちにはいつかちゃんと名前が付くから、それまで大切に育てなさい」
「…う、ん」
「ふふ、楽しみね」
2人の優しさに訳もなく鼻の奥がツンと痛くなった。
「まあ、その前に俺が出した課題をクリアしてからだけどな」
「うっ…」
風呂上がりで肩にタオルを掛けた義兄が、オレの後ろで腕を組んで踏ん反り返っていた。
鬼義兄め。
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