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木曜日のパペットさん
元演劇部のパペットさん 6
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その週の木曜日。
当番の掃除を終えダッシュで美術室に向かった。
「先輩、こんにちはーっス!」
今週は今日まで田波先輩を見つけられなかったオレは、この前のことをまだ謝れていない。
謝っても以前と変わらずオレの相手をしてくれるかわからないけど、このまま気不味い気分でいたくない。
田波先輩とはもっと仲良くなりたいから。
頑張るオレ!
美術室の前に着き深呼吸をして拳を作って気合いを入れてから勢いよく扉を開ける。
「こんちわーー……ぇ?」
いつもと違う空気にオレは扉を開けた状態で固まった。
視線の先で、背を向ける男と肩越しにもともと大きな目が更に大きくなってオレを見る田波先輩と目が合った。
そうとう驚いたのか先輩の瞳が揺れていた。
田波先輩の体を隠すように立っている男が振り返る。
その人物にオレの目は大きく見開いた。
「ああ、倉田くんもボランティア部なんだ……。それならそうと早く言って欲しかったな、サキ」
フルフル頭を振る田波先輩の前に立っていたのは教育実習生の戸塚だった。
戸倉は田波先輩に密着するほど近くに立っていた。
視界にはオレから目を逸らす田波先輩と口の端を上げるだけの胡散臭い笑みを浮かべている戸塚が映った。
「何……やってたんですか?」
その問いに田波先輩はオレを見て、また目を大きくしたが言葉は発しなかった。
「何も……まだ、ね」
「まだって何だーー」
「あーもう演劇部に顔を出しに行く時間だ。じゃあ……またね、田波くん」
戸塚は田波先輩の頭をポンポンして教室を出ていった。
扉が閉まり改めて田波先輩を見る。
戸塚の体に隠れていた田波先輩の全身が露わになると何か違和感を感じた。
それは田波先輩の行動ですぐ分かった。
少しずれたマスクを直しながら少し乱れた制服を整えたから。
あと、左手にリスくんがいなかった。
「せ、んぱい……何かあったんですか?」
「……」
「……戸倉に何をされたんですか?」
「……」
リスくんがいない田波先輩は俯いてオレを見てくれない。
そのリスくんは一歩踏み出したオレの足元に落ちていた。
リスくんを拾い上げると埃を軽く払って宙を彷徨う左手に嵌める。
リスくんをパクパクさせた田波先輩は安心したのか深く息を吐いた。
「ありがとう」
リスくん越しに小さな声でお礼を言った田波先輩は一歩下がった。
一歩距離を置かれたオレは言葉が出なくて代わりに頷いた。
その後、一歩離れた田波先輩との距離は縮まらないどころか更に離れ、言葉も交わさないまま時間だけが過ぎた。
翌日。
校内で田波先輩を見かけ目が合ったが、すぐ目を逸らされたうえ逃げられた。
それだけのことに、オレの心臓はズキズキと泣きたくなるくらい痛かった。
当番の掃除を終えダッシュで美術室に向かった。
「先輩、こんにちはーっス!」
今週は今日まで田波先輩を見つけられなかったオレは、この前のことをまだ謝れていない。
謝っても以前と変わらずオレの相手をしてくれるかわからないけど、このまま気不味い気分でいたくない。
田波先輩とはもっと仲良くなりたいから。
頑張るオレ!
美術室の前に着き深呼吸をして拳を作って気合いを入れてから勢いよく扉を開ける。
「こんちわーー……ぇ?」
いつもと違う空気にオレは扉を開けた状態で固まった。
視線の先で、背を向ける男と肩越しにもともと大きな目が更に大きくなってオレを見る田波先輩と目が合った。
そうとう驚いたのか先輩の瞳が揺れていた。
田波先輩の体を隠すように立っている男が振り返る。
その人物にオレの目は大きく見開いた。
「ああ、倉田くんもボランティア部なんだ……。それならそうと早く言って欲しかったな、サキ」
フルフル頭を振る田波先輩の前に立っていたのは教育実習生の戸塚だった。
戸倉は田波先輩に密着するほど近くに立っていた。
視界にはオレから目を逸らす田波先輩と口の端を上げるだけの胡散臭い笑みを浮かべている戸塚が映った。
「何……やってたんですか?」
その問いに田波先輩はオレを見て、また目を大きくしたが言葉は発しなかった。
「何も……まだ、ね」
「まだって何だーー」
「あーもう演劇部に顔を出しに行く時間だ。じゃあ……またね、田波くん」
戸塚は田波先輩の頭をポンポンして教室を出ていった。
扉が閉まり改めて田波先輩を見る。
戸塚の体に隠れていた田波先輩の全身が露わになると何か違和感を感じた。
それは田波先輩の行動ですぐ分かった。
少しずれたマスクを直しながら少し乱れた制服を整えたから。
あと、左手にリスくんがいなかった。
「せ、んぱい……何かあったんですか?」
「……」
「……戸倉に何をされたんですか?」
「……」
リスくんがいない田波先輩は俯いてオレを見てくれない。
そのリスくんは一歩踏み出したオレの足元に落ちていた。
リスくんを拾い上げると埃を軽く払って宙を彷徨う左手に嵌める。
リスくんをパクパクさせた田波先輩は安心したのか深く息を吐いた。
「ありがとう」
リスくん越しに小さな声でお礼を言った田波先輩は一歩下がった。
一歩距離を置かれたオレは言葉が出なくて代わりに頷いた。
その後、一歩離れた田波先輩との距離は縮まらないどころか更に離れ、言葉も交わさないまま時間だけが過ぎた。
翌日。
校内で田波先輩を見かけ目が合ったが、すぐ目を逸らされたうえ逃げられた。
それだけのことに、オレの心臓はズキズキと泣きたくなるくらい痛かった。
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