ボッチ英雄譚

3匹の子猫

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第16話

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 光の全く感じられない暗闇の中、男はデクの使っていた棍棒を手に取り、ゆっくりと僕の方へ近づいてきました。

といっても僕にはその様子も全く見えていません。


「ドゴッ」


気づけば僕は成す術もなく殴り飛ばされていました。



イテテテテ…このままじゃ不味い。集中しろ!音であいつのくる方向やタイミングを計るんだ!!


「ドカッ」

「ゴンッ」


 集中して気配を探ってはいるのですが、僕は次々に殴り飛ばされていきます。

幸い耳を澄まして気配を探ることに集中しているお陰で、攻撃をされる直前に接近に気づくことができる為、致命傷だけはなんとか逃れている状況です。


 可能な限り反撃もしてるのですが、男はこんな有利な状況でさえ深追いしてくることはなく、一撃を加えるとヒット&アウェイで距離を取られてしまうので、僕の攻撃は全く当たることがないです。



「いい加減諦めてくれないか?これだけ殴ったんだ…痛いだろ?立ってるのもやっとだろ?お前に勝ち目なんて無いことはもう分かってるんだろ?」


「僕は…絶対に諦めたりはできません!」


「強情な奴だ!なら多少価値が下がっても気絶するまでぼこぼこにしてやるよ!!」



 男は声のしていた方とは位置をずらして攻撃を仕掛けてきます。それから数度殴られたところでようやく待っていたものがやってきました!!


《スキル 気配感知lv1 を覚えました》
《スキル 暗視lv1 を覚えました》


気配感知は、第6感により人や魔物の気配を感じとることのできるスキルです。

暗視は、暗いところでも見えるようになるスキルです。これは男も持っているスキルと同じものです。


 つまりは僕はこの暗闇の中でも男の姿を僅かながら見ることができるようになったばかりか、目に頼らずとも気配で男の位置をはっきりと把握できるようになったのです。

しかしやはりスキルレベル1では、本当に僅かばかり見える、感じられる程度で男が本気になればすぐに殺されてしまうことは目にみえています。


 僕が今生きてるのは、男が自分の方が強いという自信と、奴隷として売りたいという欲から殺されずに済んでいるのです。


 それが分かってるので、僕はもしかすると隙をついて反撃をすれば勝てるかもしれないという僅かな可能性に賭けることはしませんでした。男が油断してくれてるうちにもう少しスキルレベルを上げて確実に勝てる状況を作ろうと考えました。


そこからは偶然を装って、たまにハンマーで弾いたり、転げることで避けてみたりしながら時間を稼ぎました。

その甲斐あって、僕のスキルは続々と上がっていきました。

気配感知と暗視はレベル2に、見切りはレベル4に、受け流しはレベル2に上がりました。

ここまでくると男もさすがに僕の様子がおかしいことに気づいたようです。そっとハンマーを捨て、予備のナイフに持ち替えました。半殺しくらいにはしようとしてるのでしょう…


 僕は男がこれまでのように死角から斬りかかってくるのに併せて、男の右腕にハンマーのカウンターを打ち込みました。


「ぐがっ!!」


男の持っていたナイフは地面に転がり、男は痛みに苦しみつつもナイフを拾う為に移動しようとしています。

僕は男とナイフの間に体を移動させ、男の動きを止めました。


「お前…何故俺の位置を把握してるんだ?」


「あなたが油断してくれてる間に僕はまた成長したんです。もうあなたには負けません!!」


「フザケルなーー!!」


 男はここにきて単純に殴り掛かってきました。僕は冷静にそれに併せて男の拳にメガインパクトを放ちました。


「バシュっ!!」


男の右腕は吹き飛び、辺りには血肉が飛び散りました。



「ぐぁーーーー!!腕が!俺の腕がー!痛てーよ!

ちくしょー!何でこの暗闇でお前はそんなに動けるんだ!おかしいだろーが!!」


「大人しく捕まるのならば縛って衛兵に差し出します。抵抗するのならば、僕はあなたを殺さないといけなくなります。」


「へっ!こいつはとんだ甘ちゃんだぜ!人を殺す覚悟がないんだな!!手が震えてるのがこっからでもよく見えてるぜ!」


男は右手が無くなったにも関わらず素早い動きで蹴りを放ってきます。


「どうしても抵抗するのですね…ならば、僕も覚悟を決めます!!」



 僕はそこからは細かい記憶はありません。ただ必死に男が完全に動かなくなるまで戦い続けました。

男の言う通りだったのです。僕にはまだ人を殺す覚悟が足りていなかったようです。


 敵が自分を殺しに掛かってくるのならば、自分もその相手を殺す覚悟を持つべし!覚悟が足りなければ待つのは自分の死である。


冒険者教本その1ー死なない為の心構えにある一節です。この数年何度も何度も繰り返し読んできた本です。


この本を読むたびにこんな場面を幾度となく想像し、覚悟をしてきていたつもりでした。しかし…僕はこの言葉のいう覚悟を本当の意味でできてはいませんでした。


 男はまだ生きていました。僕の覚悟が足りないばかりに、殺すチャンスは何度となくあったにも関わらず余計に傷つけ、苦しめ、とうとう動けなくなるまで傷つけてしまったのです。

その間にも僕自身幾度となくダメージを受け、傷つけられていました。本当にギリギリの戦いでした…


 今回はあくまでも運が良かっただけです。次にこのような場面に出くわした時、僕は今のままではきっと死ぬことになるでしょう…

この世界では死はとても近い存在なのです。

油断をすると魔物だけでなく、同じ人間同士でも簡単に殺し合うのが当たり前の世の中なのです。

その中でも冒険者とは特に危険が多く、ほんの少しの心の迷いや決断の遅れが直ぐに自分の死を招く厳しい職業なのです。


そうならない為にも、今後も1人で冒険者としてやっていく為にも、僕はここでこの男を殺して強くならないといけないと思います。


 今回だけでいえば、このまま男たちを縛り上げて衛兵に差し出せばそれで解決するでしょう。しかし未来の自分の為にもここで先伸ばしにせず、人の命を奪う経験とその覚悟をここで持たねばならないと本能的に理解はしてるのです。


 僕はもう横になって動くことすらできない男の前に膝をつき、ハンマーを高く掲げました。体の芯が氷のように冷え、身体中の震えが止まりません。

ほんの数秒が何時間にも感じます。


「うあぁぁああーーーー!!!!」


僕はハンマーを男の頭に向けて振り下ろしました。


「グチャッ!」


男の頭は潰れ、あの世へ旅立ちました。


《レベルが上がりました》



「うわぁーーーーーーーーー!!!」


 僕は今も手に残る男の頭を潰した感触と、人の命を奪った嫌悪感から叫ばずにはいられませんでした。だけど、僕はなんとか人の命を奪うという経験と覚悟を持つことができました。


結局名前も分からないままでしたが、僕はこの男のことを生涯忘れることはないでしょう。





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