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第97話 軍師の才

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俺たちはギルから参考に話を聞くことにした。


『今は一旦、ビアンカ様のお体のことは先伸ばしにするべきかと思われます。命に関わる状況ではないこともありますし、何らかの手がかりがあり、急がなければ捕まえられない状況でもありません。

このまま何のアイデアもなく帝都に向かえば、ここにいる全員が死ぬ可能性はほぼ100%だと思われます。帝都には、それだけ武力に特化した存在が多く在中しております。

わざわざ不利な地へ飛び込み、危険を犯してまでその博士を探すよりも、その博士を表舞台へ出させ、誘き寄せればよいのではないでしょうか?』

『そんなことが可能なのか?』


『今すぐには無理です。まずは、アラン様が今回起こした様々な事柄を平和にまとめ、帝国から王国へ直ぐに攻め込まれないようにするべきかと思われます。

このままでは、帝国はアラン様のことを理由として1~2ヶ月後には王国へ攻めてくることは必定です。

今の王国の2分した戦力では、とても帝国と戦うことは出来ないでしょう。


今の状況で外交上使えそうな手札は、まだ王国内にいるサファイア様の存在です。おそらくは後1~2日でここへ到着することと思われます。

皇帝の性格からも、実の娘のサファイア様を捕虜として人質にとっても何の効果はないでしょう…実の娘の命をも帝国のために死ねと言うお方です。

しかし、10日後に来る使者には効果はあると思われます。使者には、

「神の使徒は、王国とは関係のない個人である。王国側も大変迷惑をしている。神の使徒がしたことは、王国の責任ではない!

敵対する意志がない証明に、我々の国民を帝国へ連れ去ろうという不届きな計画の代表者であるサファイア第2皇女を捕らえているが、和平の証明にそちらへ直ぐに引き渡してもいい。」

とでも言えば、皇女を連れて帰る可能性は高いかと思われます。皇帝としても、和平の証明としてサファイア様を既に受け取ってしまった手前、無理な侵略は周辺諸国への外聞が悪いはずです。ユリウス王子が討たれるまでは、手出しはしてこないはずです。


その間に、ラトルで戦力を整え、ユリウス王子を破り、その後に起こるであろう帝国からの侵略に耐える力を準備する方が賢いかと…

幸い帝国との国境を押さえているのは王国側です。情報の規制はしやすいかと…ユリウス王子が討たれた事実を出来るだけ帝国へと漏らさぬようにすれば、1ヶ月はもたないかもしれませんが、それなりの時間は稼げるかと思われます。


おそらくは、帝国は2万を越える兵を率いて王国へ攻めてくることでしょう。しかし、その最初に攻めてくる兵たちにその博士は混じってこないでしょう。また、強者と言われるような者も数えるほどしか参戦しないでしょう。

その多くの数だけの兵を周到に準備し、罠に嵌め、悉く殺し尽くします。帝国は内戦直後の弱った王国にまさか敗れるとは思っていないので、帝都には強者達とそう多くない兵が残るだけの状況に陥ります。

慌てて再び地方から兵を集めようとしても時間がかかるので、王国の軍が帝都に攻めいる方が早いはずです。

そこまでいけば、帝国の強者たちやその博士も表舞台に出てくるしかなくなるはずです。』


『……』

皆、ギルの話が余りに予想を越えた状況を捉えた先読みだったために言葉を失っていた。

『皆様どうしましたか?やはり長々と下らない話をしてしまいましたか?僕の話なんて参考にもなりませんよね…忘れて下さい。』

『いや、そうじゃないんだ!予想を遥かに越えた立派な内容だったので、皆驚いてるんだ!!

ギルには、【軍師の才】があるようだ。状況を把握し、作戦を練る力がある。凄いことだぞ!!』

『本当ですか?これまでこのように想像したことを人に話したことはなかったので、皆様に嫌な思いをさせてないか心配だったのですが、良かったです。』


『ギルの今の話を聞いて気になったのだが、この砦を返せと帝国は必ず言ってくると思うのだが、それにはどう対応する?』


『ここは、決して王国が武力で奪ったものではありません。帝国が自らの意思で破棄し、1人残らず立ち去った建造物を王国が新たに管理を始めた場所です。

自ら破棄したものを、既に他の者が使用しているにも関わらず正当な理由なく返せというのなら、それ相応の金銭を用意してもらわないと対応出来ないと突っぱねてしまえばよろしいかと…

まずないとは思いますが、それで武力行使すれば帝国はただの侵略行為になりますしね。その時点で、帝国とユリウス王子は戦争状態となります。

その時は、我々はラトルへ急ぎ戻り、ユリウス王子の兵たちが帝国とぶつかってる間に、王宮に攻め入り、ユリウス王子の首を取り、新たな王の名で帝国へその首を差し出せばよいかと。

そうすれば、帝国の敵を倒した新たな王ということで、それ以上の侵略は出来ないでしょうし、この砦を戻すことを理由に和平を結んでもいい、その権利の話し合いの間に準備を進め、話し合いの決裂を理由に帝国と戦ってもいいのかもしれません。

ただし、この場合の戦いは先ほどよりも難しい戦いになるかと思われます。』


『よくそんなに、色々と思い付くな!たいしたものだ。

ビアンカ…俺はギルが言ってることは間違いないのではないかと思うんだ。少しでも早く元に戻りたいという気持ちは分かるが、少し遠回りしてみる気はないか?』


『うん…これだけ皆のおかげで戻れたし、皆の命をほぼ100%の確率で危険に晒すって聞いては、さすがにこれ以上は我儘では済まないわ。

話を聞いてラトルにいる皆のことも心配だし、王国の行く末も心配だし、私の体のことは少し後回しにしましょう!』


『分かった!それじゃーギルには、俺たちの戦力や能力を教えた上で、もっと詳しい作戦を練って貰おうか!?ここの兵士の皆の戦力も上げとくべきかもしれない。

サファイアの確保と、約10日後に訪れるだろう使者への準備も細かくしておこう。

これからの行動はギルの作戦を中心に皆で意見を出し合い決めていくことにしよう!!』



こうして、王国と帝国の未来に大きく関わる水面下での戦いがここに始まった。


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