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第90話 ビアンカの戦い
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『ぐああー!!』
『ぎゃぁああああ!!!』
ビアンカの苦しそうな叫び声は止むことなく続いている。
ビアンカの体には力が入り過ぎてるのか…体が作り替えられている音なのか分からないが…時折「ブチッ」と何かの筋か何かが切れるような音や、「ボキッ」と骨が折れるような音がしてきている。
その度に俺は不安な心を刺激されてしまう。何故こんなことに…ずっと会いたくて追いかけて、ようやく会えたのに…
こんな現実あんまりだ!!俺たちはただ一緒に普通に静かに暮らしていきたかっただけなのに…
今になってみれば、その普通に共に過ごすことがいかに贅沢なことのように思えてしまう…でも、ビアンカを失うのは絶対に許せない!
『ビアンカ!ビアンカ!!頑張れ!死なないでくれ…!!』
俺は涙をながしながら、ただ抱き締めることしか出来なかった…
既にこの拒絶反応が始まって1時間が経過しようとしていたが、ビアンカの様子は変わらず戦い続けていた。
奥にいる、ゲバンとグロクテスはこれまで特に何かをするでもなく、ビアンカの様子を見ていた。
『ヒョッヒョッヒョッ…ここまで拒絶反応の苦しみに負けずに生き残っているのは初めてです。やはり、その娘は最高の素材です!ここまでくれば成功する可能性も大いにあり得ます。』
『グロクテス博士、それは本当か!?成功すれば、皇帝陛下も喜ばれる!実験の素体の確保も容易になるはずだ!!』
しかし、ここでビアンカの様子に再び変化が訪れる…
『っ!?ゲボァー!!』
突然、ビアンカが大量の血を口から吐血したのだ。
『ビアンカーー!!』
『ヒョッヒョッヒョッ…これは、結合も最終段階に入ったようですね…
いいですね…いいですよ!もう少しです。もう少し耐えれば私の研究の最初の作品が生まれるのです。』
『ア、ア…ラ…ン………』
ビアンカが、か細い声を出す…
『ビアンカ!!目を覚ましたのか?俺はここにいる。苦しいだろうが、決して最後まで諦めるんじゃない!俺と一緒に幸せな家庭を築くって約束しただろ!?』
『うん…ずっと…ゴフっ!
アランの声…き…こ…え…て…ゲホっ』
吐血と咳を繰り返しながら苦しそうに何とか話すビアンカ…
『もういい!喋ったら駄目だ!!苦しみを乗り越えることに全力を注ぐんだ!!生き残ることだけを考えるんだ!!!』
俺は再びビアンカを強く抱き締めた。ビアンカも俺を弱々しく抱き締め返してくる。
『ヒョッヒョッヒョッ…これは薬漬けにするよりも、愛する者と一緒に生きたいという気持ちを最高に演出してあげる方が成功する確率が上がりそうですね…
ヒョッヒョッヒョッ…面白いものを見せてもらえて、例え失敗に終わっても、私の実験は大きく前に進めそうです。』
『ふざけるなー!!!
俺たちはお前のオモチャじゃないんだ!』
『ヒョッヒョッヒョッ…怒られてしまいましたねー。
ゲバン大臣、いつでも逃げれるように準備をしておきなさい。』
『最後まで結果を見ないのか?』
『ヒョッヒョッヒョッ…勿論科学者として、結果は最後まで見ます。しかし、もしあの娘が死んだとき、彼はどうするでしょうかね?怒りに身を任せて、我々を殺そうとするのではないですかね?
残念ながら、その牢の守りは彼にとって大した障害にはなりそうにありません。』
『そうか!娘の牢もナイフで斬っていたな!?』
『はい…ゲバン大臣もまだ死にたくはないでしょう?彼は、実験に失敗しても成功しても、直ぐにはあの娘を放って動くことはありません。
この施設を放棄するのは非常に残念ですが、命には代えられません。タイミングを逃さないようにして下さい。』
『全部聞こえてるぞ!今すぐ殺しに行くぞ!』
『ヒョッヒョッヒョッ…出来もしないことは言わない方がいい…
君のようなタイプの人間は、苦しんでる愛するものを放置して、効率良く動けるものではない。』
『くそっ!』
馬鹿にされているのは分かるが、図星だ!こんな状況のビアンカの傍を離れられる筈がない。俺も、今はビアンカのことだけに集中するべきだ。
『ビアンカ!みんな無事なんだよ。ラトルの村に、俺らの故郷にみんな集結してるんだ。
クーデターが起きたときみんなが助かったのは、なんとラオスのお陰なんだ!あのラオスがだぜ?
みんな、ビアンカが無事に帰って来るのを待ってくれている!!
だから、生きて帰ろう!!』
『俺はアーガイア鉱山で、リアムという凄い友達ができたんだ!ビアンカを紹介して、こんなかわいい婚約者がいることを自慢してやるんだ!
だから、必ず生きるんだ!!』
『アーガイア鉱山の側の街ではヘレンさんって勇者のジョブを持つ人と仲良くなったんだ。その街の乗り合い馬車のおばちゃんからビアンカを連れて来いって言われてるんだ!
アップルパイ作ってくれるらしい。一緒に食べに行こう!?』
『俺は小さい頃からビアンカの尻に敷かれていた気がする。これまでずっと一緒だった!これからもずっと一緒に居て欲しいんだ!!俺はビアンカを愛してる!一生愛し続けていくから、お願いだから死なないでくれ!!
俺にはビアンカが必要なんだ…ビアンカが居ないと駄目なんだよ!!』
俺は泣き喚きながら、ビアンカに語り掛け続ける。
『ビアンカー!ビアンカー!!』
ここで、再びビアンカに変化が訪れる。
ビアンカの可愛い顔が、
前歯は大きく膨れ上がり、犬歯は鋭く尖り、鼻は前に飛び出し、耳が上に尖ってきた。オレンジのお下げ頭は銀色に変わっていき、顔や体にも硬い毛が生えてきて、あっという間に全身を銀色の毛で覆われた姿へ変えていった。
その姿は、昔創作の話で見た狼男のようであるが、銀色が映えとても神秘的な姿となっていた。
『ヒョッヒョッヒョッ…
成功だ!!実験は成功した!その娘は新しく生まれ変わったのだ!
ゲバン大臣行きますよ。』
『成功したのか?やった…やったではないか!?
しかし、せっかく成功したのにここに置いていっていいのか?』
『取り戻したいなら1人でお願いします。私は彼が落ち着く前に逃げさせてもらいますよ…タイミングを逃さないよう注意してあげたのに…残念です。さようなら…ヒョッヒョッヒョッ…』
グロクテスはゲバンを待つこともなく、奥の扉を開き出ていってしまった。ゲバンも慌てて追いかけようとするも、既に扉を開くことは叶わなくなっていた。
グロクテスの結合の力で扉と壁が結合してしまったのだ。
『そんな!?グロクテス博士開けてくれ!俺も一緒に行く!!』
ゲバンの叫びは虚しく響くだけで、返事はない…
『ビアンカ!大丈夫か?意識はあるか?』
ビアンカは、先程のように苦しむ様子はないが、ボーッと呆けている様子だった。仕方ないだろう!あれだけ苦しむ状態を1時間以上耐え抜いたのだから…
俺は、これまでどう作用するか分からないので使えなかったエリクサラマンダーの尻尾から作った丸薬をビアンカの口の中に無理やり入れる。これで、内蔵へ何らかの負担が残っていても回復できるだろう。
『ビアンカ…よく頑張った!本当に生きててくれて良かった!!』
俺は、ビアンカをただ抱き締めた。
それは突然のことだった。ビアンカの目が見開かれ、
『グルゥルル…』
と獣のように喉を鳴らしたと思ったら、俺の左肩に噛みついてきたのだ。肩にビアンカの鋭い犬歯が突き刺さり、肉が抉られ痛みが走る。
『まだ混乱してるんだな?大丈夫…俺だよ!アランだよ!!』
俺は優しく撫でながらビアンカをあやしていく。ビアンカは変わらず唸って俺の肩を噛みついている。
犬は、不安だと噛むと聞いたことがある。
結合した狼の本能が、ビアンカの今もまだ続いている不安な気持ちを無意識に噛むという行動に突き動かしているのだろう…
『ビアンカ大丈夫だよ!もう大丈夫なんだよ!頑張ったね…もう心配いらないからね…俺が着いてるよ!!』
しばらくそうしてやっていると、落ち着いてきたようで、「スウスウ」と寝息を立てて眠ってしまった。
『お疲れ様!もうビアンカを好きにはさせないからね…』
俺は優しくビアンカを寝かして、ゲバンの方を見る。ゲバンは後ろは扉が閉ざされ、手前は牢の鍵が閉められ、まるで牢に閉じ込められたような状況に陥っていた。
『ゲバン大臣ですね?俺やビアンカに何か言うことはありますか?』
『ち、近づくな!俺は帝国のゲバンだぞ!俺に何かをするということは帝国に戦争を仕掛けるのと同義だぞ!!』
『何を今さら言ってるのですか?あなたが王国のクーデターを画策し、実行させた時点で戦争は始まっているのです。
俺にはあなたを殺すことに何の躊躇いもありません。俺はあなたにも帝国にも怒ってます!
しかし、あなたにはグロクテス博士の次の潜伏先になりそうな場所を全て聞きたい。もし教えてくれるのでしたら、俺はあなたを殺したりはしません。』
『そんなもの知るか!グロクテス博士はずっとここにいた筈だ!!他の場所なんてある筈がない!』
『そうですか…それでは、もうあなたを殺すのを我慢する理由が無くなりました!もう死んで下さい。』
俺は牢を切り裂き、ゲバン大臣の首を切った。
念のため、首はそこにあった木の箱に入れ込み、マジックバッグに仕舞っておいた。帝国の大臣の首だ、戦争において何かに使えるかもしれないと考えたのだ。
それからビアンカに俺の服を着せ、お姫様抱っこで抱えて地上へ戻る。
途中にいた、牢の中の人間たちは、申し訳ないが、後日バルマの人間を連れて救出に来るしかない。今の俺にはビアンカを救うことで手一杯だ。
ビアンカを元の人の体に戻すことが可能なのは、おそらくグロクテスだけだ…一番憎むべき相手にお願いしないといけないという状況に本気で嫌気がさすが、どうしていくかこれから考えるしかない…
今は難しいことは考えず、少しでもたくさんビアンカの傍に居たい…
『ぎゃぁああああ!!!』
ビアンカの苦しそうな叫び声は止むことなく続いている。
ビアンカの体には力が入り過ぎてるのか…体が作り替えられている音なのか分からないが…時折「ブチッ」と何かの筋か何かが切れるような音や、「ボキッ」と骨が折れるような音がしてきている。
その度に俺は不安な心を刺激されてしまう。何故こんなことに…ずっと会いたくて追いかけて、ようやく会えたのに…
こんな現実あんまりだ!!俺たちはただ一緒に普通に静かに暮らしていきたかっただけなのに…
今になってみれば、その普通に共に過ごすことがいかに贅沢なことのように思えてしまう…でも、ビアンカを失うのは絶対に許せない!
『ビアンカ!ビアンカ!!頑張れ!死なないでくれ…!!』
俺は涙をながしながら、ただ抱き締めることしか出来なかった…
既にこの拒絶反応が始まって1時間が経過しようとしていたが、ビアンカの様子は変わらず戦い続けていた。
奥にいる、ゲバンとグロクテスはこれまで特に何かをするでもなく、ビアンカの様子を見ていた。
『ヒョッヒョッヒョッ…ここまで拒絶反応の苦しみに負けずに生き残っているのは初めてです。やはり、その娘は最高の素材です!ここまでくれば成功する可能性も大いにあり得ます。』
『グロクテス博士、それは本当か!?成功すれば、皇帝陛下も喜ばれる!実験の素体の確保も容易になるはずだ!!』
しかし、ここでビアンカの様子に再び変化が訪れる…
『っ!?ゲボァー!!』
突然、ビアンカが大量の血を口から吐血したのだ。
『ビアンカーー!!』
『ヒョッヒョッヒョッ…これは、結合も最終段階に入ったようですね…
いいですね…いいですよ!もう少しです。もう少し耐えれば私の研究の最初の作品が生まれるのです。』
『ア、ア…ラ…ン………』
ビアンカが、か細い声を出す…
『ビアンカ!!目を覚ましたのか?俺はここにいる。苦しいだろうが、決して最後まで諦めるんじゃない!俺と一緒に幸せな家庭を築くって約束しただろ!?』
『うん…ずっと…ゴフっ!
アランの声…き…こ…え…て…ゲホっ』
吐血と咳を繰り返しながら苦しそうに何とか話すビアンカ…
『もういい!喋ったら駄目だ!!苦しみを乗り越えることに全力を注ぐんだ!!生き残ることだけを考えるんだ!!!』
俺は再びビアンカを強く抱き締めた。ビアンカも俺を弱々しく抱き締め返してくる。
『ヒョッヒョッヒョッ…これは薬漬けにするよりも、愛する者と一緒に生きたいという気持ちを最高に演出してあげる方が成功する確率が上がりそうですね…
ヒョッヒョッヒョッ…面白いものを見せてもらえて、例え失敗に終わっても、私の実験は大きく前に進めそうです。』
『ふざけるなー!!!
俺たちはお前のオモチャじゃないんだ!』
『ヒョッヒョッヒョッ…怒られてしまいましたねー。
ゲバン大臣、いつでも逃げれるように準備をしておきなさい。』
『最後まで結果を見ないのか?』
『ヒョッヒョッヒョッ…勿論科学者として、結果は最後まで見ます。しかし、もしあの娘が死んだとき、彼はどうするでしょうかね?怒りに身を任せて、我々を殺そうとするのではないですかね?
残念ながら、その牢の守りは彼にとって大した障害にはなりそうにありません。』
『そうか!娘の牢もナイフで斬っていたな!?』
『はい…ゲバン大臣もまだ死にたくはないでしょう?彼は、実験に失敗しても成功しても、直ぐにはあの娘を放って動くことはありません。
この施設を放棄するのは非常に残念ですが、命には代えられません。タイミングを逃さないようにして下さい。』
『全部聞こえてるぞ!今すぐ殺しに行くぞ!』
『ヒョッヒョッヒョッ…出来もしないことは言わない方がいい…
君のようなタイプの人間は、苦しんでる愛するものを放置して、効率良く動けるものではない。』
『くそっ!』
馬鹿にされているのは分かるが、図星だ!こんな状況のビアンカの傍を離れられる筈がない。俺も、今はビアンカのことだけに集中するべきだ。
『ビアンカ!みんな無事なんだよ。ラトルの村に、俺らの故郷にみんな集結してるんだ。
クーデターが起きたときみんなが助かったのは、なんとラオスのお陰なんだ!あのラオスがだぜ?
みんな、ビアンカが無事に帰って来るのを待ってくれている!!
だから、生きて帰ろう!!』
『俺はアーガイア鉱山で、リアムという凄い友達ができたんだ!ビアンカを紹介して、こんなかわいい婚約者がいることを自慢してやるんだ!
だから、必ず生きるんだ!!』
『アーガイア鉱山の側の街ではヘレンさんって勇者のジョブを持つ人と仲良くなったんだ。その街の乗り合い馬車のおばちゃんからビアンカを連れて来いって言われてるんだ!
アップルパイ作ってくれるらしい。一緒に食べに行こう!?』
『俺は小さい頃からビアンカの尻に敷かれていた気がする。これまでずっと一緒だった!これからもずっと一緒に居て欲しいんだ!!俺はビアンカを愛してる!一生愛し続けていくから、お願いだから死なないでくれ!!
俺にはビアンカが必要なんだ…ビアンカが居ないと駄目なんだよ!!』
俺は泣き喚きながら、ビアンカに語り掛け続ける。
『ビアンカー!ビアンカー!!』
ここで、再びビアンカに変化が訪れる。
ビアンカの可愛い顔が、
前歯は大きく膨れ上がり、犬歯は鋭く尖り、鼻は前に飛び出し、耳が上に尖ってきた。オレンジのお下げ頭は銀色に変わっていき、顔や体にも硬い毛が生えてきて、あっという間に全身を銀色の毛で覆われた姿へ変えていった。
その姿は、昔創作の話で見た狼男のようであるが、銀色が映えとても神秘的な姿となっていた。
『ヒョッヒョッヒョッ…
成功だ!!実験は成功した!その娘は新しく生まれ変わったのだ!
ゲバン大臣行きますよ。』
『成功したのか?やった…やったではないか!?
しかし、せっかく成功したのにここに置いていっていいのか?』
『取り戻したいなら1人でお願いします。私は彼が落ち着く前に逃げさせてもらいますよ…タイミングを逃さないよう注意してあげたのに…残念です。さようなら…ヒョッヒョッヒョッ…』
グロクテスはゲバンを待つこともなく、奥の扉を開き出ていってしまった。ゲバンも慌てて追いかけようとするも、既に扉を開くことは叶わなくなっていた。
グロクテスの結合の力で扉と壁が結合してしまったのだ。
『そんな!?グロクテス博士開けてくれ!俺も一緒に行く!!』
ゲバンの叫びは虚しく響くだけで、返事はない…
『ビアンカ!大丈夫か?意識はあるか?』
ビアンカは、先程のように苦しむ様子はないが、ボーッと呆けている様子だった。仕方ないだろう!あれだけ苦しむ状態を1時間以上耐え抜いたのだから…
俺は、これまでどう作用するか分からないので使えなかったエリクサラマンダーの尻尾から作った丸薬をビアンカの口の中に無理やり入れる。これで、内蔵へ何らかの負担が残っていても回復できるだろう。
『ビアンカ…よく頑張った!本当に生きててくれて良かった!!』
俺は、ビアンカをただ抱き締めた。
それは突然のことだった。ビアンカの目が見開かれ、
『グルゥルル…』
と獣のように喉を鳴らしたと思ったら、俺の左肩に噛みついてきたのだ。肩にビアンカの鋭い犬歯が突き刺さり、肉が抉られ痛みが走る。
『まだ混乱してるんだな?大丈夫…俺だよ!アランだよ!!』
俺は優しく撫でながらビアンカをあやしていく。ビアンカは変わらず唸って俺の肩を噛みついている。
犬は、不安だと噛むと聞いたことがある。
結合した狼の本能が、ビアンカの今もまだ続いている不安な気持ちを無意識に噛むという行動に突き動かしているのだろう…
『ビアンカ大丈夫だよ!もう大丈夫なんだよ!頑張ったね…もう心配いらないからね…俺が着いてるよ!!』
しばらくそうしてやっていると、落ち着いてきたようで、「スウスウ」と寝息を立てて眠ってしまった。
『お疲れ様!もうビアンカを好きにはさせないからね…』
俺は優しくビアンカを寝かして、ゲバンの方を見る。ゲバンは後ろは扉が閉ざされ、手前は牢の鍵が閉められ、まるで牢に閉じ込められたような状況に陥っていた。
『ゲバン大臣ですね?俺やビアンカに何か言うことはありますか?』
『ち、近づくな!俺は帝国のゲバンだぞ!俺に何かをするということは帝国に戦争を仕掛けるのと同義だぞ!!』
『何を今さら言ってるのですか?あなたが王国のクーデターを画策し、実行させた時点で戦争は始まっているのです。
俺にはあなたを殺すことに何の躊躇いもありません。俺はあなたにも帝国にも怒ってます!
しかし、あなたにはグロクテス博士の次の潜伏先になりそうな場所を全て聞きたい。もし教えてくれるのでしたら、俺はあなたを殺したりはしません。』
『そんなもの知るか!グロクテス博士はずっとここにいた筈だ!!他の場所なんてある筈がない!』
『そうですか…それでは、もうあなたを殺すのを我慢する理由が無くなりました!もう死んで下さい。』
俺は牢を切り裂き、ゲバン大臣の首を切った。
念のため、首はそこにあった木の箱に入れ込み、マジックバッグに仕舞っておいた。帝国の大臣の首だ、戦争において何かに使えるかもしれないと考えたのだ。
それからビアンカに俺の服を着せ、お姫様抱っこで抱えて地上へ戻る。
途中にいた、牢の中の人間たちは、申し訳ないが、後日バルマの人間を連れて救出に来るしかない。今の俺にはビアンカを救うことで手一杯だ。
ビアンカを元の人の体に戻すことが可能なのは、おそらくグロクテスだけだ…一番憎むべき相手にお願いしないといけないという状況に本気で嫌気がさすが、どうしていくかこれから考えるしかない…
今は難しいことは考えず、少しでもたくさんビアンカの傍に居たい…
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