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第82話 帝国の女
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エリーに手紙を託した頃には、時間は午後2時を回っていた。
『思ったより装備を選ぶのに時間を食った…ビアンカの情報を探さなければ!!』
俺の次の目的は、門から出てくる帝国の人間を見つけることである。
昨日の朝、王都に入ったときもそうだったが、帝国の人間は他の商人とは違い、門番に対しての態度が悪い。
しばらく門の側で様子を伺っていると、案の定態度の悪い奴らが出てきた。立派な馬車に乗ってることから、帝国でもそれなりの地位の者なのだろう。
俺は、帝国へ向かう道の方へ、先回りするために走り出す。王都からある程度離れたら、今度はゆっくりと王都の方へ歩き出す。
勿論すぐに先程の態度の悪い連中の馬車とすれ違う。
少し間をおいて、馬車の馬の足に向けて気功波を放つ。王都を出たばかりで大したスピードは出てないが、当然移動中の突然の衝撃に馬は転げ、他の馬もその影響を受け転げることになる。
馬車は横転し、馬車の積み荷はそこらじゅうに散らばっている。
俺は馬車の方へ駆け寄る頃には、馬車の中にいた人間は、馬に乗って護衛に就いてた者たちから外に助け出されていた。
『大丈夫ですか?これはひどいですね?何があったのです?』
と声を掛けた。
『分からん!突然馬が転げたんだ!!
お嬢様お怪我はありませんでしたか?』
『腕を擦りむいたわ!御者をしていた者は誰!?』
『わ、わたくしめでございます。。申し訳ございませんでした。お嬢様にお怪我をさせるなど、決してあってはならないミスを犯しました。』
御者をしていた若者は真っ青な顔で土下座をしている。
『その者を今すぐ処分なさい!』
『はっ!』
(処分?殺すってことか?
ヤバい!軽い怪我程度しかしない計算だったが、思ってた以上に性格のきつい主だったようだ…)
『ちょっと待って下さい。そんなかすり傷で、何も殺さなくてもいいでしょう?私の処方した薬なら、その程度の怪我たちまちに治ります。
それで、命だけは救ってあげられませんか?』
『あなたは何なの!?私の奴隷への躾に口を出すなんて、いい度胸じゃない!!』
『俺は通りすがりの薬師です。試しにこの丸薬をお飲み下さい。たちまちにその傷は治ることを保証しましょう。』
『怪しい奴め!お嬢様に毒を盛ろうというのではなかろうな?』
『俺が、どこの誰かも知らないその女性を殺して何の利があるんです?そんなに怪しむならこの丸薬を今殺そうとしていた男に飲ませてみればいいです!その女性よりよっぽど重症ですよ!!』
その怪しんでいた男は、俺から丸薬を奪い取り、奴隷の男の口へ入れる。すると、みるみるうちに男の傷が塞がっていく。
『なんだ、この薬は!?回復魔法並に効果があるぞ!』
『回復魔法以上ですよ!俺が調合したその丸薬は、回復魔法でも治らない病気まで回復させる力を持つ薬です!!』
この丸薬は、俺がエリクサラマンダーの尻尾から作り出したもので、食べやすく、保存がきくように改良したものだ。
『そこのあなた!その薬を私にさっさと寄越しなさい!!』
『その前に、その男を殺さない約束をお願いします。』
『分かったわ!約束しましょう。
薬を早く寄越しなさい!!』
先程と同じように男が俺から薬を奪い取り、女に渡す。女が口に入れ噛み始めるとそれだけで傷はきれいになくなった。
『この薬は…効果も凄いけど、味も悪くないわ…
あなた余程名のある薬師のようね…』
『いえ、まだこの通り成人して数年の修行中の身です。戦争が近いと聞いて、薬を売りに王都に向かう途中でした。
事故の事は不幸でしたが、誰も大きな怪我の者がいなくてよかったです。
もしご希望なら、馬も回復させましょう!しかし、ここからは私も商売です。1丸5000ルピーで如何でしょうか?』
あまり無料で配り過ぎると、逆に怪しまれるだろうから、普通の回復薬程度のお金を請求したのだが、ここでも予想以上のことがおきる。
『その発想がいかにも王国の人間らしいですわ。こんな1度信用を失った屑たちに必要なものは、薬ではなく制裁のみです。』
そう言い、女は馬の首を斬り飛ばしていく。
そして、そのまま御者をしていた男の前に行くと、両手両足を斬り飛ばす。
『なっ、何を!?』
『何をって、制裁ですわ!約束通り命は助けたわ!この後、勝手に野垂れ死ぬのはあの男の勝手です。』
(帝国の奴ら怖えー!しかし、計画とは程遠い結果になっているな…)
俺の計画…
馬車が転倒したところを救い、全員の怪我を治療し、感謝される状況を作り出す。
馬車が壊れたら、帝国に向かうのは延期されるだろうし、感謝され、今夜の食事にでも誘ってもらえるだろう。
その時にアクティーやましろにも協力してもらい脅してでも情報を得ようと簡単に考えていた。
『あなたの慈悲は無意味だったようね!?
しかし、これでは帝国へ今日旅立つのは難しそうです。一度王都に帰り、馬車を新しく用意して、明日発つことにします!』
(そこだけ計画通りでも意味ないんだよな…)
『この男はどうするんです?このまま放置するのは俺との約束を守ったことにはならないと思いますが!?確実に死ぬ状況を作ったのですからね…
この薬を飲ませれば手足は戻りませんが、血は止まり、この傷が原因で死ぬことはなくなります。薬代5000ルピー払いますか?
それとも帝国の女はみんな、ただの嘘つきなのですか?』
軽く怒気を込めて言う。
『お前!お嬢様に失礼だぞ!!』
『私どころか、帝国の女全てを嘘つき呼ばわりしますか?分かりました。その者に1万ルピー払ってあげなさい!私も王国の田舎猿に施されたと勘違いされたくはないですからね!』
『今度は約束守ってくださいね!』
そう言い、薬を男に無理やり飲ませる。血は直ぐに止まるが、出血が多すぎたのか、まだ顔色が悪い。
『何故そんな名前も知らぬ、他人の奴隷のためにそこまでするのです?金だけもらって放っておけばお前にとって一番の利益になるでしょう?』
『人の行動原理は利益だけにありません!理由などなくとも目の前にいる苦しんでる人をただ放っておく自分を許せぬのもまた人間なのです!
あなたが帝国の女としてのプライドを守るために1万ルピーを払おうとしたのとそう変わらないものてす。
あくまでも自分のためです。』
『そんな両手両足がない人間を生かしても、逆に辛いのはその男だとも思うけどね…
目を覚ませば、そのまま死なせて欲しかったと恨まれるのがオチよ…』
『そうかもしれません…でも放っておけないタチだったようです。』
『バカな男ね…その男はどうするつもり?』
『俺には王都に運んで国の者に渡すところまでしかできませんね…この男は俺の奴隷ではありませんので。
あくまでもあなたの奴隷です。もしあなたが奴隷権を破棄されるのでしたら、俺が可能な限り回復するまでは面倒をみますが…』
『こんな状態の奴隷の面倒を見ると!?やっぱりあなた相当のバカだわ!
いいわ。面白い!あなた、私と誓約しない?
内容は、この奴隷の権利一切をあなたにあげるから、あなたはこの奴隷が死ぬまでは最低限生きていけるよう面倒をみる。ただし、途中であなた自身でこの奴隷を殺すこと、または他人に殺す依頼をすることを禁じる。
それを破ればあなたは死ぬ!この奴隷のために命を賭けることができるかしら?』
『いいですよ!誓約しましょう!!今、誓約の証は持ってますか?』
『…あなた本気なの?意味が分かってるのよね?』
完全に俺が断ると信じて疑ってなかったのだろう…俺が躊躇いなく答えたことに、初めて本気で戸惑っているのが分かる。
誓約の証は持っていたようで、直ぐに内容をお互いに確認する。
『本当にいいのね?今ならまだ謝れば誓約しなくても許してあげるわよ…』
『はい!構いません!!では、早速誓約しましょう。』
こうして誓約を交わし、女は奴隷の権利を破棄し、俺はその男の奴隷主としての権利をそのまま得ることとなった。
『ここまでバカな男は初めてだわ!男なんてみんなカッコいいことを並び立てても、結局自分がかわいくて、追い込まれると最後は逃げると思っていたわ…
最後まで貫き通したバカに免じて、何か困ったことがあったら私のところへ来なさい!多少なら面倒みてあげるわ。
誓約の時に名前を書いたから、私の名前はわかるでしょう?』
『えっと…』
慌てて鑑定を使おうと試みるも…
『覚えてないなんて失礼な男ね…やっぱり男なんてこんなものよね…
私は、サファイア・バルバドスよ!今度こそ覚えてなさい!!』
『俺はアランです。』
このサファイアとは、これで2度と会うこともないと思っていたのだが、この出会いは始まりでしかなく、何度となく関わることとなるのだった。
『思ったより装備を選ぶのに時間を食った…ビアンカの情報を探さなければ!!』
俺の次の目的は、門から出てくる帝国の人間を見つけることである。
昨日の朝、王都に入ったときもそうだったが、帝国の人間は他の商人とは違い、門番に対しての態度が悪い。
しばらく門の側で様子を伺っていると、案の定態度の悪い奴らが出てきた。立派な馬車に乗ってることから、帝国でもそれなりの地位の者なのだろう。
俺は、帝国へ向かう道の方へ、先回りするために走り出す。王都からある程度離れたら、今度はゆっくりと王都の方へ歩き出す。
勿論すぐに先程の態度の悪い連中の馬車とすれ違う。
少し間をおいて、馬車の馬の足に向けて気功波を放つ。王都を出たばかりで大したスピードは出てないが、当然移動中の突然の衝撃に馬は転げ、他の馬もその影響を受け転げることになる。
馬車は横転し、馬車の積み荷はそこらじゅうに散らばっている。
俺は馬車の方へ駆け寄る頃には、馬車の中にいた人間は、馬に乗って護衛に就いてた者たちから外に助け出されていた。
『大丈夫ですか?これはひどいですね?何があったのです?』
と声を掛けた。
『分からん!突然馬が転げたんだ!!
お嬢様お怪我はありませんでしたか?』
『腕を擦りむいたわ!御者をしていた者は誰!?』
『わ、わたくしめでございます。。申し訳ございませんでした。お嬢様にお怪我をさせるなど、決してあってはならないミスを犯しました。』
御者をしていた若者は真っ青な顔で土下座をしている。
『その者を今すぐ処分なさい!』
『はっ!』
(処分?殺すってことか?
ヤバい!軽い怪我程度しかしない計算だったが、思ってた以上に性格のきつい主だったようだ…)
『ちょっと待って下さい。そんなかすり傷で、何も殺さなくてもいいでしょう?私の処方した薬なら、その程度の怪我たちまちに治ります。
それで、命だけは救ってあげられませんか?』
『あなたは何なの!?私の奴隷への躾に口を出すなんて、いい度胸じゃない!!』
『俺は通りすがりの薬師です。試しにこの丸薬をお飲み下さい。たちまちにその傷は治ることを保証しましょう。』
『怪しい奴め!お嬢様に毒を盛ろうというのではなかろうな?』
『俺が、どこの誰かも知らないその女性を殺して何の利があるんです?そんなに怪しむならこの丸薬を今殺そうとしていた男に飲ませてみればいいです!その女性よりよっぽど重症ですよ!!』
その怪しんでいた男は、俺から丸薬を奪い取り、奴隷の男の口へ入れる。すると、みるみるうちに男の傷が塞がっていく。
『なんだ、この薬は!?回復魔法並に効果があるぞ!』
『回復魔法以上ですよ!俺が調合したその丸薬は、回復魔法でも治らない病気まで回復させる力を持つ薬です!!』
この丸薬は、俺がエリクサラマンダーの尻尾から作り出したもので、食べやすく、保存がきくように改良したものだ。
『そこのあなた!その薬を私にさっさと寄越しなさい!!』
『その前に、その男を殺さない約束をお願いします。』
『分かったわ!約束しましょう。
薬を早く寄越しなさい!!』
先程と同じように男が俺から薬を奪い取り、女に渡す。女が口に入れ噛み始めるとそれだけで傷はきれいになくなった。
『この薬は…効果も凄いけど、味も悪くないわ…
あなた余程名のある薬師のようね…』
『いえ、まだこの通り成人して数年の修行中の身です。戦争が近いと聞いて、薬を売りに王都に向かう途中でした。
事故の事は不幸でしたが、誰も大きな怪我の者がいなくてよかったです。
もしご希望なら、馬も回復させましょう!しかし、ここからは私も商売です。1丸5000ルピーで如何でしょうか?』
あまり無料で配り過ぎると、逆に怪しまれるだろうから、普通の回復薬程度のお金を請求したのだが、ここでも予想以上のことがおきる。
『その発想がいかにも王国の人間らしいですわ。こんな1度信用を失った屑たちに必要なものは、薬ではなく制裁のみです。』
そう言い、女は馬の首を斬り飛ばしていく。
そして、そのまま御者をしていた男の前に行くと、両手両足を斬り飛ばす。
『なっ、何を!?』
『何をって、制裁ですわ!約束通り命は助けたわ!この後、勝手に野垂れ死ぬのはあの男の勝手です。』
(帝国の奴ら怖えー!しかし、計画とは程遠い結果になっているな…)
俺の計画…
馬車が転倒したところを救い、全員の怪我を治療し、感謝される状況を作り出す。
馬車が壊れたら、帝国に向かうのは延期されるだろうし、感謝され、今夜の食事にでも誘ってもらえるだろう。
その時にアクティーやましろにも協力してもらい脅してでも情報を得ようと簡単に考えていた。
『あなたの慈悲は無意味だったようね!?
しかし、これでは帝国へ今日旅立つのは難しそうです。一度王都に帰り、馬車を新しく用意して、明日発つことにします!』
(そこだけ計画通りでも意味ないんだよな…)
『この男はどうするんです?このまま放置するのは俺との約束を守ったことにはならないと思いますが!?確実に死ぬ状況を作ったのですからね…
この薬を飲ませれば手足は戻りませんが、血は止まり、この傷が原因で死ぬことはなくなります。薬代5000ルピー払いますか?
それとも帝国の女はみんな、ただの嘘つきなのですか?』
軽く怒気を込めて言う。
『お前!お嬢様に失礼だぞ!!』
『私どころか、帝国の女全てを嘘つき呼ばわりしますか?分かりました。その者に1万ルピー払ってあげなさい!私も王国の田舎猿に施されたと勘違いされたくはないですからね!』
『今度は約束守ってくださいね!』
そう言い、薬を男に無理やり飲ませる。血は直ぐに止まるが、出血が多すぎたのか、まだ顔色が悪い。
『何故そんな名前も知らぬ、他人の奴隷のためにそこまでするのです?金だけもらって放っておけばお前にとって一番の利益になるでしょう?』
『人の行動原理は利益だけにありません!理由などなくとも目の前にいる苦しんでる人をただ放っておく自分を許せぬのもまた人間なのです!
あなたが帝国の女としてのプライドを守るために1万ルピーを払おうとしたのとそう変わらないものてす。
あくまでも自分のためです。』
『そんな両手両足がない人間を生かしても、逆に辛いのはその男だとも思うけどね…
目を覚ませば、そのまま死なせて欲しかったと恨まれるのがオチよ…』
『そうかもしれません…でも放っておけないタチだったようです。』
『バカな男ね…その男はどうするつもり?』
『俺には王都に運んで国の者に渡すところまでしかできませんね…この男は俺の奴隷ではありませんので。
あくまでもあなたの奴隷です。もしあなたが奴隷権を破棄されるのでしたら、俺が可能な限り回復するまでは面倒をみますが…』
『こんな状態の奴隷の面倒を見ると!?やっぱりあなた相当のバカだわ!
いいわ。面白い!あなた、私と誓約しない?
内容は、この奴隷の権利一切をあなたにあげるから、あなたはこの奴隷が死ぬまでは最低限生きていけるよう面倒をみる。ただし、途中であなた自身でこの奴隷を殺すこと、または他人に殺す依頼をすることを禁じる。
それを破ればあなたは死ぬ!この奴隷のために命を賭けることができるかしら?』
『いいですよ!誓約しましょう!!今、誓約の証は持ってますか?』
『…あなた本気なの?意味が分かってるのよね?』
完全に俺が断ると信じて疑ってなかったのだろう…俺が躊躇いなく答えたことに、初めて本気で戸惑っているのが分かる。
誓約の証は持っていたようで、直ぐに内容をお互いに確認する。
『本当にいいのね?今ならまだ謝れば誓約しなくても許してあげるわよ…』
『はい!構いません!!では、早速誓約しましょう。』
こうして誓約を交わし、女は奴隷の権利を破棄し、俺はその男の奴隷主としての権利をそのまま得ることとなった。
『ここまでバカな男は初めてだわ!男なんてみんなカッコいいことを並び立てても、結局自分がかわいくて、追い込まれると最後は逃げると思っていたわ…
最後まで貫き通したバカに免じて、何か困ったことがあったら私のところへ来なさい!多少なら面倒みてあげるわ。
誓約の時に名前を書いたから、私の名前はわかるでしょう?』
『えっと…』
慌てて鑑定を使おうと試みるも…
『覚えてないなんて失礼な男ね…やっぱり男なんてこんなものよね…
私は、サファイア・バルバドスよ!今度こそ覚えてなさい!!』
『俺はアランです。』
このサファイアとは、これで2度と会うこともないと思っていたのだが、この出会いは始まりでしかなく、何度となく関わることとなるのだった。
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