上 下
76 / 99

第76話 アランの変化

しおりを挟む
俺はシーンとしてしまった空気の中、話を続ける。

『俺は、皆さんの無事を知れて本当に嬉しかった。でも俺は、ユリウス王子のことや王位継承の件に関わるつもりはありません。

俺は今回の一件で、王国への思い入れはなくなりました。王国そのものがどうなろうとどうでもいいとさえ思っています。

皆さんのことは、好きだし、幸せになって欲しいと本当に思ってます。でも、だからといって、それは王国の権力を必ずしも取り戻さなければ、手に入らないものではないと考えます。』

『なっ!?何てことを言うのだ!?』
皆驚きの表情で、俺を見てくる。


『俺は、これまで何度も優先順位を間違えました。

もう少しくらいなら放っておいても大丈夫か?と油断し、それが原因で全員が死にかけた経験。

何も捨てることができず、全てを守ろうとして、結局自分自身も、その守ろうとしたものも全てを危険に晒した経験。

俺はその時、左手と右足を食いちぎられました。俺だけでなくましろも俺を守るために無理をさせたことで怪我を負い、200匹を越える強いモンスターに四方を囲まれました。


その絶望的な死へのカウントダウンの走馬灯の中、俺はビアンカのことを優先せずに、他の危険にばかり首を突っ込んでいた自分の選択に疑問の気持ちが生まれたのです。

それでも、本当に奇跡みたいな運の良さで何とか生き残れました…

しかし、それらの経験から、本当に大切なものを最優先にして、それを守るためなら他は切り捨てる覚悟を持たないと、結局何も救えないことを学んだんです。

今の俺はビアンカを救うことが、絶対的な優先事項なんです。王国の行く末とか、誰が王になるとかそんなこと気にして、回り道する余裕は今の俺には無いんです。


ビアンカの無事は、あくまでも予測でしかありません。何の保証もないんです。

もしビアンカのことを後回しにして、皆と王都を取り戻せたとしても、それでその間にビアンカに何かあってた場合、俺は今その選択をした俺自身を許せなくなります!

だから、俺はビアンカを救うことに集中させてもらいます。』


俺の言葉を聞いて、皆言葉を失っている。


『手足は、どうやって回復したの?』
アクティーが聞いてくる。

『エリーの尻尾を食べたんだ。エリーの尻尾は、あらゆる病気や怪我を癒す力があるんだ。おかげで今もこうして歩けてるよ。』

『そう…アランも大変だったのね…
分かったわ。私もビアンカの救出に手を貸すわ!!』


『アクティー!?、いいのか?』

『アランに1人で、そんな危険なことさせられないでしょ?それに、隠密行動なら私はプロよ!

だけど、アランにお願いがあるの!』

『お願い?』


『ビアンカを無事救出出来たら、国外に逃げるなんて言わずに皆と一緒に王国を取り戻して、また皆で仲良く暮らしましょう?出来ればそのための、作戦にも協力してあげて欲しいの!


それに、アランは1つ大きな勘違いしてるわ…

ハリー王子もマリア王女もエリス王女も自らの権力のために戦ってるのではないわ。この3人は、罪もなく巻き込まれ苦しんでいる民たちのために戦ってるの!

だからさっきアランが言ったように、このままこの3人が国の行く末を捨てて、自らの幸せを優先にしろというのは、アランにとってビアンカを捨てて自らの幸せを優先にしろと言われるのも同義なのよ!

そこは、皆の気持ちも分かってあげて欲しいの。


勿論、アランがそれでも国外に拘るなら、私も全てを捨てて一緒に行くけどね。』

『その時は私もご一緒しますわ…
私は、民よりもアランですわ!!』

『マリア王女…せっかく私がいいこと言ったのに、全て台無しにしてるわ…』


『ビアンカを救出した後のことは、ビアンカと話して決めたいと思っています。俺だけでは決められることではないので…

ただ、ハリーやエリスさんには失礼なこと言ったこと謝らせて下さい。すいませんでした!』


『私にはいいのですの?』


『アランは、以前とは比べ物にならないくらい成長したようだな!前はどこか周りに流されやすい感じだったが、それが無くなったようだ。

アランのビアンカを想う気持ちは分かった!全力で救ってあげてくれ!!

アクティーもアランのフォローを頼む!

そして、3人で私たちの元に戻ってきてくれるのを待ってるぞ!』

エリスが手を前に出す。俺もそれを握り、固い握手を交わす。


『アラン!せっかく会えたのに、もう離れるのは辛いけど、アランにはアランの成さなければならないことがあるんだね!?僕も僕が成さなければならないことをするよ!

だから、絶対に戻ってきて!!待ってるからね!?』

ハリーも手を前に出してきた。抱きついて来ない分、ハリーの成長を感じる…


ハリーとも握手をした後、みんなとしばらく談笑した。


ラトルに到着したのが既に夕方だったこと、久しぶりにみんなと会ったこと、ラオスにも会ってお礼を言いたかったこと、これから王都に向かったとしても王都の門は閉ざされていることから、俺は翌朝の出発とし、歓談を楽しんでいた。


この時に直ぐ出発していたからといって、未来が変わっていたかは分からない。決して選択を誤ったとは言えないほどの僅かな差であろう…


しかし、俺の知らないところで確実にビアンカには危険が忍び寄っていた…



アランが離れたことにより、誰も気づかぬうちに起きた『運の反転』…

ハリーたち王族には、王国そのものを巻き込みクーデターが起き、不利な戦況に置かれている。


牢にいたビアンカには一体どのような『運の反転』が…?


果たして、アランはビアンカを無事に救えるのだろうか?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

令嬢キャスリーンの困惑 【完結】

あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」 そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。 14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。 すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...