上 下
66 / 99

第66話 スタートライン

しおりを挟む
エリクサラマンダーのリーダーはゆっくりと俺たちに近づいてくる。そして、とうとう俺たちの目の前に立つことになる。

俺たちは、最後の時を覚悟し、様々な思い出が走馬灯のように巡っていた。



『主よ。やっと追い付けました…』

なんと、エリクサラマンダーのリーダーは人間の言葉で喋り出したのだ。

『このように囲むことになり、申し訳ありませんでした。

主たちがここから去ろうとしているようでしたので、その前に私とゆっくり話す時間をどうしても作って欲しかったので、このような強硬な手段を取らせて頂きました。

驚かせたこと、お許し下さい。』


俺も、ヘレンも、ましろさえも、今の状況についていけずにいた。


『えっと…主ってもしかして、俺のことを言っている?』

俺は、今までの数々の経験からもしかして、そういうことかと思い、状況を把握し始めていた。


『私の主はあなた様しかあり得ません。あなた様から認めて頂けるのでしたら、生涯の忠義を誓わせて頂きます。』


『やはりそうか!良かった!!
俺たちを食べようというわけではないんだね?』

『勿論です。私の子供たちが勝手に主を攻撃したことお詫びします。その怪我は先程主が持っていかれた私の尻尾を食せば、治るはずです。

私は、他の者たちより魔物としての格が遥かに上ですので、その回復の効果も遥かに優れているのです。

是非お試し下さい。』


『それは本当か?助かる。

それと…俺たちにも理由があったとはいえ、勝手に尻尾切っちゃってごめんな。。痛くなかったか?』

『滅相もありません。痛いどころか、気持ちよすぎて、何度絶頂したことか…あのような幸せが、この世にあったことを知れて、私は今までの長い魔生で、一番の幸せでした。』

『ませい?』

『私たちのような魔物として生を受けたものの、人間で言うところの人生を表す言葉です。

それと、尻尾のことは心配なさらなくても大丈夫です。

私たちエリクサラマンダーの身体は、仲間や自身の尻尾を摂取しても回復できないのですが、私たちには生まれながらに優れた回復能力が備わっているため、他の生物よりも遥かに回復能力が高いのです。

私の場合は、その速度も他の個体の何百倍も早いはずです。おそらく1日もあれば完治しているはずです。』


『そんなに早く!?凄い回復能力だな?でもそれだからこそ、尻尾に他者を回復させるような能力が備わるんだろうな…

有り難く、尻尾を食べさせて貰うよ。』


俺は、ヘレンから預かっていたマジックバッグから尻尾を取り出し、ナイフに魔力を帯びさせ、一口大に切る。それを、迷わず口に入れ食する。

すると、みるみるうちに体の再生が始まる。

『主よ、完全に身体が回復するまで食べ続けて下さい。』


俺は言われた通りに、次々に食していく。そして、5分もする頃には欠損していた、手足は完全に元に戻っていた。


『ダーリンの手足が元に戻ったにゃん!良かったにゃ…』
ましろも状況を把握し、俺が元に戻ったことにより緊張が解けたのか、脱力したようだ…


『ありがとう。君の強い生命の力を感じたよ!
恩人だな!いや…恩魔とでもいうのかな?』

『滅相もありません。主のお役に立てたのなら、それだけで幸せというもの。これからも、どんなことでも私を頼って頂きたい。

もし褒美が頂けるのでしたら、またあのように時々気持ちよく愛でてもらえれば、それが最大の褒美であります。』


『そこも、ましろと同じなんだな?たまにでいいなら、ましろと一緒に愛でさせてもらうよ!

でも、俺はここには残らないぞ?エリクサラマンダーは岩山でなくても、生活できるのか?』


『勿論です。高温、低温、乾燥、どのようなところでも生きていけます。私たちがここに住んでいるのは、岩山は他の生物には生きていくためには厳しい環境のため、一番のんびりと暮らせるからです。』


『なるほど、それじゃー!君は俺たちについてくるんだね?群れのリーダーをしているようだけど、本当に大丈夫なのかい?さすがに他のエリクサラマンダーたちは連れていけないぞ!』

『勿論です。私だけ、主についていかせてもらいます。群れは他の者に統率させるので、心配いりません。』


『分かった!それじゃ、これからよろしく頼む!!』




『ちょっと待ってください!

アランさん、状況を受け入れるの早過ぎないですか?何でこの訳分からない展開をアッサリと受け入れてるんですか!?』

突っ込みを入れてきたのは、今までの展開に全くついていけずに固まり続けていたヘレンである。


さすがに、稀少種のエリクサラマンダーを従わせ、これからの旅に連れていくことをアッサリと受け入れた俺に、色々と疑問が生まれたのだろう…


『こういう展開に慣れちゃったからですかね?』


考えたら、俺の人生このパターンだらけじゃね?

最初は、ましろ。
次に、アクティー。
その次が、ナディアとマリンか。あれはちょっと違うのかな?
次は、マリア王女。
そして、このエリクサラマンダーの稀少種。


(教皇ロメロが言ってたように、絶技には、本当に魅了の効果もあるのかもしれない。むやみやたらに使うのは、今後も控えた方がいいのかもしれないな…

まあ、俺や身内のためにだったら、躊躇いなく使うけどな!)


『慣れたって!?全然理由になってません!さっき殺されかけた相手のリーダーに、何故簡単に心を許せるのですか?』


『俺には、あの子が嘘をついてないことも理解できるし、俺の人生はこんなことばかりなんです。

俺とましろの最初の出会いも、俺を殺そうと襲ってきたのがきっかけですし、他にも様々な敵対してた人が今では味方になってくれました。

ちゃんとこうやって、言葉を交わせて、相手が俺に歩み寄ってくれてるのが分かるのに、いつまでも過去に拘って敵対し続ける理由が逆にありません。』


『そんなの分かりません。一度信頼を失ったら、どんなに仲良くなろうと努力しても、ずっと陰口を言われ続けたんです。

裏切り者と言われ続けたんです。』


(なるほど、ヘレンさんが今拘ってるのは、過去の街の人との確執か…)


『ヘレンさん、少しきつい内容を話すかもしれません。


人間というのは、自分の利益を求める生き物です。

本当に大切な関係である、家族や恋人ならば、ただ相手が存在してくれてるだけで、幸せだという大きな利益を感じられます。

赤ちゃんが、ただ、たまに笑いかけてくれるだけで、家族がその子のために命を捧げてもいいと思えるほどの愛情を、言い方は悪くなりますが一緒にいられて…この子の成長を見ることができて幸せだという利益を感じることができるのです。


ヘレンさんが、アルマさんのために、勇者として旅に出れなかったこと、それは仕方ありませんし、誰にもそれを否定する権利はありません。


しかし、街の人との人間関係の構築の考え方は間違えていたのです。

街の人は、アルマさんのように、ヘレンさんがただ存在すれば幸せを感じ、利益と感じる存在ばかりではありません。


勇者のジョブを手に入れたことを知ってしまった他人からすると、成人前と同じように、いくら真摯に対応しても、仲良くしようと努力しても、勇者のジョブを持つものとして、何らかの利益を求めてしまうのが人間という生き物です…

もし、そのままの変わらぬ関係を望むなら、勇者のジョブを得たことは誰にも言うべきではなかった。

知ってしまえば、相手は「勇者ヘレン」のフィルター越しに、ヘレンさんを見るようになりますから…


ヘレンさんが勇者のジョブを得て、最初に街の皆が求めたのは、おそらく強力な魔物を退治したり、伝説になるような冒険を達成して有名になって、街の自慢になってもらうことです。


しかし、実際にそれを叶えていたとしても、実は街の人たちには、大した利益はありません。

どんなに世界全体やその冒険の現地に住む者には、崇高な利益を生もうと、ヘレンさんの街の人間にはたいして関係ないのです。

ヘレンさんは、1人努力し、強くなり、勇者として誰にも恥じる必要のない力を持っています。

なのに、住んでいる街のために利益になっていることを、何のアピールもしなかった。そこが間違いだったんです。

どんな経緯があったかは分かりませんが、勇者のジョブを得たことを皆に公表した以上、ヘレンさんに力があることをアピールして、いざ何かあった際には、率先してそのトラブルを解決する。

そう公言さえしていれば、「世界の勇者」にはなれなくても、「街の勇者」として尊敬される存在になれていたのです。


実際に、街のトラブルなんて、ゴブリンやオークの集落が側に見つかった程度がほとんどです。

それらを1度でも解決し、皆にアピールしていれば、街の人間はヘレンさんが街にいることに利益を感じます。

そうすれば、逆に冒険に行って欲しいなんて思わず、街に居続けて欲しいに変わるのです。


お互いに利益を感じられる、もしくは今後も関わっていきたいと思える関係があって、

そこがやっと人間関係のスタートラインです…


こんな話をしたら、街の人たちが酷いみたいに思えるかもしれませんが、それだけ街の人たちがヘレンさんに期待していた証拠でもあるのです。

ヘレンさんなら、勇者のジョブを正しく使ってくれるという期待が大きければ大きかったほど、それを使ってる様子がみえないだけで裏切られたように感じるものです。今後も関わりたいと思えなくなるほどに…


長くなりましたが、今回のことも、あの子にとって、俺のスキルの存在が利益になったんです。そして、話すことによって、俺にもあの子の存在は今後も関わり続けてもいいと思えたんです。

俺とあの子の信頼関係はまだありません。でも、それを築くためのスタートラインには立てたんです。

だから、俺はあの子を受け入れることが出来た。それだけです。』


『そんな…私は街の皆と向き合った上で、裏切られ続けたと思っていたけど、まさか私の方が仲良くなるためのスタートラインにすら立とうとしていなかったというのですか。。?』


『詳細は知らないので何とも言いがたいですが、先程のヘレンさんの発言からはそう感じさせられました。』


『そんな……』

『ただ、本当に街の人と仲良くしたいのでしたら、今からでも多少の努力をするだけで、すぐにきちんと向き合えると思いますよ。

あの街には、乗り合い馬車のおばちゃんのように優しい人が多くいると思うからです。なにより、ヘレンさんのような優しい人を育てた街なんですから!』


『…アランさん…
少し考えさせて下さい…』



(伝えたいことは伝えた。。後はどうするかはヘレンさん次第だ。)


こうして、俺はエリクサラマンダーの稀少種を仲間に迎えることになったのだった。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...