上 下
51 / 99

第51話 それは突然に…

しおりを挟む
神殿のとある部屋では、2人の男が話をしていた。

『で…調べはついたのか?このアランという近衛兵は一体何者なのだ?』
疑問を投げ掛けたのは、初老の法衣の男だ。


情報を集めることを生業にしている、もう1人の男が答える。

『今、話題になっているラトル教育村の村長の長男のようです。今年成人の儀を迎えたようですが、どのギルドにも所属してませんでした。

何のジョブを取得してるかは未だに不明です。

噂によれば、ハリー王子からは、親友と呼ばれるほどの間柄で、王子の勉強の全てを担っているようです。

マリア王女からは、自分の全てを捧げるとまでの求愛を受けているようです。

新しく王女になったエリス王女からの信も厚いようです。

この者が間に入ったことにより、この3人の王位継承権上位3名の争いが無くなり、逆に協力体制に入ったと言われております。


今話題のラトル教育村の教育方法、テキストの作成も全てこの者が1人で行ったとされております。また、王都学園学園長であるミグルス・ミドローアからも信頼され、学園の教育にも関わり、現在先頭に立って変革を行ってる模様です。

これだけの偉業と、人脈作りを、成人の儀からたった半年の現在までに行ったというわけです。』


『誰が、偉業の数々を調べて来いと依頼した?私は、この若者が、どのような特殊な方法でこれらの偉業や人脈を作ったのかを知りたいのだ。』

『分かっているのは、成人の儀の直後、初級者ダンジョンチューケイブの前にて、このアランの婚約者がナンパ男たちから絡まれているところを見事に退治したことをエリス王女が気に入り、この2人をパーティーに誘ったようです。これには多数の目撃者がおりました。

その後、エリス王女の紹介で近衛兵の就職試験を受けてます。この出会いは、おそらく偶然でしょう。

次に、エリス王女の直属となると思われますが、配属は、何故かハリー王子のところへなっておりました。

調べたところによると、配属の直前にハリー王子の陣営とエリス王女の陣営で秘密裏に会合が行われていたようです。

おそらく、この時に、何らかの理由で、アランのハリー陣営へ入ることが決まったものと考えられます。


最後に、マリア王女ですが、マリア王女とハリー王子は敵対しており、一度マリア王女の手の者に、アランとエリス王女の陣営に入ったアクティーというもの2名が拉致されたのでは?という目撃者がおりました。その後、この神殿に運ばれた模様ですが、そこから先のことは分かりません。

しかし、マリア王女に拉致された敵陣営の者を、仲良くどころか、愛してるとなると…

可能性と予測の範囲は出ませんが、魅了系の何らかのスキルを持っている可能性がありますな…』


『魅了スキルだと?そんなスキル、物語の中でしか存在しないのではないのか?』

『物語とは、一部事実が混じることもあります。しかし、あくまでも私の勘ですので、あまり鵜呑みになさらぬようお願い致します。

それと、ラトルの教育方法もテキストの内容も疑いようのないほど素晴らしい内容でした。歴史上稀にみる天才というのは間違いないかと。

就職試験の学科は120分のテストを35分で満点でした。疑いようがない天才ですな…』

『そうか、そこは本物だと言えるのだな?』

『そこは間違いないかと…』


「コンコンコン…」
扉が叩かれ、もう1人の人物が現れる。アランの成人の儀でお世話になった教皇ロメロだ。

『おや、珍しい人物がいますね?大事な話の最中でしょうか?出直した方がよろしいですかな?』

ロメロは優しい口調で問いかける。


『教皇ロメロよ…我々などにそのようなお気を使われる必要はございません。ただ、最近世間を騒がしている者について話していただけです。』

『世間を騒がす者ですか?どのような方でしょうか?

神殿に籠ってばかりで世間の変化についていけない老いぼれにご教授願えますか?』

『教皇…

そのような冗談はお辞め下さい。我々のような下々のものには肝が冷えますので…

世間を騒がす者ですが、この者です。』

ロメロに、似顔絵付きの資料が渡される。

『今年成人の儀を迎え、近衛兵になったものなのですが、名をアランと申します。

今話題になってる、ラトル教育村の教育方法からテキストの全てを1人で作り上げた天才です。

さらに、ハリー王子とマリア王女とエリス王女の王位継承権上位3名の仲を取り持った立役者とも言われております。

この者の憶測によると、もしかしたら魅了系のスキルを持つかもしれないとのことです。』


『魅了系のスキルですと?それは神を冒涜する力として、昔から悪魔の能力と言われてる筈です。

ジョブは神から与えられる能力であり、そのようなスキルを持つジョブは私は知り得ません。

憶測といえど、そのような考えは危険な思想といえるかもしれません。』


『もしかしたら、過去にそのようなジョブが存在していた歴史があるかもしれないとしてもでしょうか?』
ロメロが現れてから、今までずっと黙っていた情報屋が語りだす。

『約1000年前、この国ではとある魔女が3代にも渡って王家を完全に支配し、乱れた時代がありました。その魔女は、人を魅了するスキルを持つジョブを得ていたと言われております。』

『それは、物語の話ではないのですか?』

『ジョブの名前は伝わってませんが、その歴史が事実であると考えることが出来る文献は、数多く見つかっております。

私は、情報屋として、資料の信憑性などからおそらく真実の歴史だと考えております。』


『あなたがそこまで言うということは、それなりの文献から歴史を紐解いたのでしょうね…

分かりました。私の方でもこのアランという者のこと、1000年前の魔女のことを調べてみることにしましょう。』


ロメロは自分の部屋に戻り、先ほど預かった資料に目を通す。そして、あることを思い出すのだった。

(この似顔絵の少年…

成人の儀の時に私のところへ来た少年にそっくりだ。真面目そうな少年だったが、あの少年が半年で、そのように活躍していることは喜ばしいことだ。

たしか…ジョブは「遊び人」だったかな?
明日本格的に調べてみましょうか。)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それは、突然の出来事だった。
俺がいつものようにハリーに勉強を教えていると、突然部屋に立派な鎧を纏った近衛兵の人たちが入ってきた。

彼らは俺の前に来ると、いきなり俺を押さえつけ、
『アランだな!?お前を、「国家転覆罪」の容疑で連行する。』

というのだ…

(国家転覆罪!?…俺がマリア王女を抱いたからか?
それでも国家転覆罪は大袈裟でないか?)

『何事ですか?この者が何をしたというのですか?』
ハリーが俺を庇って場を収めようとするが、

『ハリー王子、これはあなたの父上からの直々の御命令ですので、たとえ王子といえど話せません。御許し下さい。』

『父上の?何故父上がアランを??』

兵士たちは黙ったまま、俺の両脇前後を固め、どこかへ連れていかれる。

『ハリー、俺にも何がなんだかわからないけど、きっと何かの間違いだ!みんなに俺は何も悪いことはしていない。心配するなと伝えておいてくれ。』

『アラーン!!』
ハリーの泣き声混じりの叫びが遠くで聞こえてくる。


(一体何がどうなってるんだ…)

不安になりながらも、国家転覆罪と言われるようなことに繋がるような悪事を一切働いてないことは自負していたので、何とか心を保つことが出来た。


連れていかれたのは、王の謁見の間であった。

外で武器を外され、両手を後ろで縛られた状態で中に案内される。両端には、常に俺の動きを制する屈強な男に囲まれ、非常に居心地が悪い。

中で俺を待ち受けていたのは、現国王ヴェルサス・ルイ・クリスタリアと、アリスト教の教皇ロメロだった。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...