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第40話

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 それから俺とアイルたち3人は、俺の家族とユウナさんと合流し、現在エフロディーテへ向かっていた。


まさか俺たちが連れだって来るとは思ってもいなかったようで、みんなにはかなり驚かれた。さらにユウナさんの試練送りは無くなったことを伝えると、ユウナさんは力が抜けたのか、へなへなっとその場に崩れ落ちるのだった。

よっぽど安心したのだろう…


しかし今も、ユウナさんとアイルはあの時の攻撃の気まずさなのか、お互いを気にしつつも声を掛けることができなくなっていた。

俺は余計なお世話なのは分かっているが、お節介を焼かずにはいられなかった…



「ユウナさん、殺されかけたんだ!この男に文句の1つでも言ってやりなよ!こんな時くらいは、このくそ親父に「くそ親父のばか野郎!」って罵っても許されると思うぞ!」


「トモヤ様?とんでもありません…父は族長としての務めを立派に果たしただけです。悪いのは、精霊様を見えることを隠してきた私なのです!

父は昔も今も、族長としての職務に真っ直ぐなのです。
私はそんな父を尊敬しております。

あの時のことも仕方のないことだったのです。」


「そうか…

らしいぞ!くそ親父はこの娘の信頼に対して、何か言うことはないのか?」


「私は…今でも掟は大事なもので、それを破っていたユウナは罪を償うべきだと思っている。しかし…ユウナが思っていることを私に相談することもできないほど追い詰めていたのは、全て父である私の責任だと思っている。

悔しいがこの男に言われたことは、心に突き刺さったよ。これからは、より良い街を作っていく為に掟を変えていくことも必要だと考えさせられた…

すまなかったな…ユウナ。。こんな不甲斐ない父を許してくれるか?」


「勿論です!!罪を犯していたことは私自身が一番よく分かっております。

街に戻ったら、何らかの形で一生かけて罪を償っていくつもりです。」


「そうか…よく言った!ではこれまでの罪滅ぼしに、これからの人生を精霊使いとしてエフロディーテの為に尽くすと言ってくれ!!」


当然ユウナさんの顔が曇ることとなった。


「やはり私は精霊使いにならないといけないのですね…

分かりました。それが私への罰なのですね…」


「言い忘れたが、これからの精霊使いはどうしてもしたくないことを強要することはない。ユウナが生き物を傷つけたくないというのならば、補助や回復に専念すればいい。

戦闘に参加するのも嫌だというのなら、街を住みやすいよう環境を整えることに専念してもよい!

それでも精霊使いになるのはどうしても嫌か?」


「お父様!それは真ですか!?それならば私は喜んで精霊使いになることができます!!立派にその職務を果たして参ります!」


「ああ。頼んだよ!頼りにしてるからね!!」



「へー、ずいぶんと俺の意見を取り入れてくれたもんだ!」


「うるさい!たとえ誰の意見であろうと、それが役に立つものならば取り入れることも、上に立つものとして必要なことなのだ!


はっきりいって、私はお前が嫌いだ!とても信用などできん!

しかし、お前たちは明日迷いの森の先へ案内してやろう!!ただし、二度とここへは戻って来ようとするな!それが案内する条件だ!』


「あー。それは助かるよ!俺たちは、外の人間たちとは見識ないんだが、同じ人間がいるところへ行くことができるのは、同族意識なのか…何となく嬉しい。

言っても信じてもらえないだろうが、俺たちはここに戻って来る予定も、ここのことを誰かに話すつもりもないから心配しなくていい!

わざわざ言わなくても勝手にするだろうが、封印もしっかり施してもらって構わない。」



「無論だ!だが、迷いの森ではしっかりと目隠しもしてもらうからな!お前から言い出したことだ、文句は言うな!」


「あー、構わない!ただし、目隠しされていても気配は分かるからな!家族を分断しようとしたり、俺たちに少しでも危害を加えようとしたら、その時点で再び敵対したとみなす。」


「今さらそんなくだらないことはしない…」



 この後エフロディーテへ到着するまで、アイルは無言を貫いた。250年前のことでも考えていたのだろうか…終始声を掛け辛い雰囲気を漂わせていた。





.....
....
...
..







 何日か振りに戻ってきたエフロディーテは、相変わらず幻想的で美しく、世界樹の木は圧倒的な存在感でそびえ立っていた。


今回は前回のように牢に入れられることもなく、家を宛てがわれた。見張りはマロニーではなく、精霊使いのハルフとミールが命じられ、一晩同じ家で過ごすこととなった。

というのも、俺が4人の精霊使いを殺したことを知った残りの精霊使いたちから襲われかけたのだ。一触即発の場面だったのだが、それを止めたのは意外にもアイルだった。


数の利も地の利もあちらにあったのに、これは意外だったが…威厳のある言葉で皆を黙らせていた。

残りの精霊使いたちは、その場はアイルを立てて引いたが、決して諦めたようには見えなかった。そこで俺の力を理解している2人が、他の精霊使いたちがバカをしないように見張ることとなったのだ。


 案の定、アイルを除く4人の精霊使いの男たちは夜の静けさに紛れて忍びよってきた。

いち早くそれに気づいたハルフとミールは、帰るように必死に説得していたが、全く聞く耳を持たない様子だった為、俺は姿を現すことにした。


「ちょっと何故出てくるの?私たちがせっかく平和的に解決しようとしてるのに!」


「すまない、ハルフさん、ミールさん。どうも彼らは俺が出ていかないと納得しなさそうだったからね…大丈夫。殺したりはしないから…

せめて他の人たちに迷惑の掛からない場所に移動しないか?」


するとその中でもリーダー格の男が一歩前に出て言った。


「ついてこい!」





翌朝は天気もよく、旅立ちにはもってこいのお日柄だった。


昨日はあれからどうなったか…
結論から言うと俺の完封であった。


4人の精霊使いたちに好きなように攻撃させて、その全てをかき消してやった。言葉通り、攻撃魔法そのものを消してしまったのだ。

ムーの能力はどうやら何かを生み出す能力ではなく、既に存在するものを消してしまう能力だったようだ。

前の契約者が能力を発動できるように1人努力を繰り返しても、能力を発見できない訳である。


自分等の最大の攻撃魔法をあっさりと無効化されたことに、驚き戸惑っているところ、素早く手加減したボディーブロー1発ずつ放って沈めてやった。




「トモヤ様…トモヤ様の妾になると言っていたのに、相談もせずにエフロディーテに残ることを決めてしまい申し訳ありませんでした。

私は精霊使いとなり、父を支えていこうと思います。」


「気にしなくていいよ。俺じゃユウナさんを幸せにできる自信なんてないからね。俺は家族3人を守るだけでいっぱいいっぱいなんだよ。

ユウナさんはお父さんを助けてあげてくれ。俺たちとのことでさらに悩みを増やしてしまっただろうしね。なにより、8年も離れ離れになっていたんだ…今度こそしっかりと甘えさせてもらった方がいい!」


「はい…ありがとうございます!!

トモヤ様には救って頂いてばかりで、結局最後まで何のご恩も返すことができませんでした。」


「気にすることはないさ!もし恩を感じるのなら、ユウナさん自身が幸せになってくれればいい!そうすれば救った俺もそのことを誇れるからね!」



 こうして俺たち家族はエルフたちとかなり微妙な感じだが、一応の和解に成功し、とうとう迷いの森の向こうに広がるだろう人間の世界へと旅立つのだった。


まさかそこが予想していた世界とは大きく異なるとは、この時の俺たちには知る由もなかった…


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