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第33話

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「本当にやるのか?」


「はい!ここを飛び降りて、スカイシーの世界樹の木の影のある部分を移動すれば、まず見つかりませんので安全に入り口の裏まで移動できる筈です!」


「あそこに飛び降りるのは中々に怖いな…」


「パパ怖いの?」


「ちょっとだけな!ひかりは怖くないの?」


「うん!ひかりプールで泳げるようになったもん!」


「パパも泳ぎは苦手じゃないんだよ!下に空が広がってるとこを泳ぐのがちょっとだけ怖いんだよ。」


「スカイシーで泳ぐことには慣れてますので、あかりちゃんは私が連れていきましょうか?」


「頼んでもいいかな?俺たちも大丈夫だとは思うんだが、こんな特別な海を泳いだことないからな~。ただ、大事なあかりの命が懸かってるから、途中できつくなったりしたら、無理せず俺たちに渡してくれ。

ひかりはパパとママの傍から離れないこと!分かったね?」


「うん!分かった!!」



「では、あかりちゃんをお預かりします。じゃー早速行きますね。」


間髪入れずにユウナさんは飛び降りた。


続いて、俺が飛び降りた。


スカイシーの水は特に冷たくもなく、体が濡れる感覚すらもない、不思議な海だった。塩分が強めの海のように体が浮きやすくなっており、これなら溺れる心配も、下界に落ちてしまう心配も無さそうだ。


次にひかりが降りて、直ぐに浩美が降りてきた。


「この海おもしろいー!」


「こんな海初めてだわ!殆ど泳がなくても浮いていられるわね?」


「そうだな!こんな時でなければしばらく泳いで遊びたいとこだったな!」


「そうだねー。」


「何を呑気なこと言ってるの?トモヤたち家族は揃いに揃って、逃亡の真っ最中だって緊張感ゼロなの!?」


ムーが呆れた声をあげているが、


「まあそんな緊張しまくったらいいってものでもないさ!余裕を持ちつつ、油断せずくらいでいくのが俺たちには合ってるのさ!!

それにしてもムーは飛べたんだな?羨ましいぞ!俺が昔どれだけ武空術の練習をしたことか…結局叶わなかったが、この世界でならもしかすると叶うのかもしれないな?今度練習をしてみよう…」


「武空術?」


「読んでたマンガでは気の力を利用して、空を飛んでいたね。」


「僕たち精霊は魔力を利用して飛ぶんだよ!トモヤも一応魔力持ってるし、頑張ればいけるかもだよ?」


「うぉーー!!それはやる気になってくるな!いつか飛べるようになってみせるぜ!」


「ひかりも飛びたいー!パパと一緒に練習するー!!」


「おー!このロマンがひかりにも分かるか?パパと一緒に練習頑張ろうな!!」



こんな緊張感のない会話をしてるうちに目的地に到着した。そこはユウナさんの言っていた通り、最初に入ってきた入り口のすぐ後ろに当たる場所だった。


「いつ追っ手が来るやもしれません。急いで街を出ましょう!!」


「そうだな。急ごう!」


俺たちは急ぎ街の外へ出ることにした。
来たときと同じようにユウナさんが呪文を唱えるとあっという間に太古の森へ移動した。


外に出ると、そこには俺の知らない2人の人物が待ち構えていた。
1人は、筋肉質な色男でエルフにしては肌の色が焼けているのが特徴だ。

もう1人は、他のエルフと同様美しい顔立ちの女性なのだが、今まで見てきたエルフと違うのは、その目が優しい穏やかな目ではなく、氷のように冷たい目をしていることだ。


「族長が余所者が逃げ出すかもしれないから、外を見張ってろと命令を出された時にはあり得ないと思ってたが、まさか本当に来るとはね…

ユウナ様もご一緒ということは、まさかユウナ様が逃がされたということでしょうか?」


「そうです。命の恩人であるトモヤ様たちを私がお救いしました。ターク…私たちを黙ってこのまま行かせて下さい。」


「それはさすがにできません。ユウナ様、このまま大人しく投降し、我々と街に戻りましょう。今ならば族長もそれほどの罰は与えられない筈です!」



 どうやらこいつらにはまだ、ユウナさんが精霊を見えるという情報は届いてないようだな…なら何とかなるか?


「さっさと実力行使でよくね?私、早く終わらせて寝たい!それに…その女嫌いだし!」


「アリー、もしそんなことをしてユウナ様に怪我でもさせたら、族長は悲しまれるだろう。下手をすれば我々も罰を受けるぞ!」


「何でよ?悪いのはその女じゃん!?昔から族長の娘だから許されると思って、平気で掟を破ってたしね!

今回だって、怪我しようと自業自得よ!」



アリーって女の方は直ぐに攻撃してきそうだな…
まあ、なるようになるか!


「動くな!動けばこの女の命はないぞ!!」


俺はユウナさんを抱き抑え、首に銃を当てた。


「トモヤ様?」
「パパ?」
「しっ!裏切られた振りをして…」



「俺たちが逃げる間じっと動くな!もし動いたら、この女は死ぬことになるぞ!」


「卑怯な!!ユウナ様を離せ!!!」


「ほーら、面倒なことになった!タークがさっさと実力行使しないからよ!!」



「ほら、みんなさっさと逃げるぞ!!固まってないで動くんだ!!!」


「私は助けようとしたのに…このような仕打ち、裏切りですわ!!」


ユウナさんも浩美も俺の作戦を理解したようだ。

ひかりだけは演技ということに気づいておらず、「何でこんなことするの?パパのバカー!ユウナ姉ちゃんを傷つけちゃやだー!」と騒いでいる。


タークとアリーがどうするべきか悩んでいる間に、100メートル以上の距離を稼げた。



 アリーはいい加減我慢の限界だったらしく、攻撃を仕掛けてきた。


俺たちの周りの土の中から、複数の植物の根っこが鞭のように襲いかかってくる。俺はその根っこを掴みとり、他の根っこにぶつけることで防いでいく。


「アリーさんの精霊様は【木の精霊様】です!森の中では、ほぼ無限に攻撃を繰り出すことが可能です。」


「また面倒な能力だな…」


その時、さらに別の攻撃が仕掛けられた。周りが真っ暗闇に染まったのだ。


「こ、これは?何も見えないな…」


「これは、タークの目隠しの魔法です。タークの精霊様は【闇の精霊様】です。このように目隠しをしたり、闇属性の強力な攻撃魔法を使います。」



 2人の能力の組み合わせは地味に厄介だな…視界を奪われ、無限にも近い植物の攻撃…捕まれば、強力な攻撃魔法が襲いかかってくる。

まともに戦うのなら、本体を狙うべきなんだが…ここでエフロディーテの精霊使いを下手に殺してしまうと、エフロディーテとの戦いはどちらかが潰れるまで終わらない状況に陥るんだよな。。



俺は悩んだ末、以前こんなときの為に念の為作っていた物を取り出すことにした。



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