上 下
4 / 76

第4話

しおりを挟む
 俺は家の周りに罠を仕掛け終えると、一旦家に戻った。浩美は俺の言い付け通り、完全に施錠した状態で子供たちと過ごしていた。


「パパ、おかえりなさい!外はどうだった?危険はなかった?」


「ただいま!今回はそれほど遠くには行ってないが、外には普通に魔物たちが存在していた。俺のことを認識すると、問答無用で襲いかかってきたよ。やはりここは異世界で間違いないようだ

幸いこの辺りには弱い魔物しか見かけなかったが、決して安全とはいえないようだ。」


「そんな!!じゃー私たちその魔物に襲われて殺されちゃうの?」


「大丈夫!俺がそんなことはさせない!!それは絶対にだ!!」


俺はしばらく家族を抱きしめ続けた。



「今のところ周りの魔物は全て俺が退治した。そして、この家に近づかないように罠を仕掛けてはきた。」


「そう。でもやっぱり不安ね…」


「日本のような安全は今は用意できないが、出来る限りのことはする!だから俺を信じてくれ!俺は知識だけは異世界マスターだぞ!!」


「そうね。パパを信じるわ!」


浩美は不安は消えてないだろうが、優しく俺に微笑んでくれた。



「それとな、倒した魔物の死体を一ヶ所に集めているんだ。今からそこにみんなで行こうと思ってるんだがいいか?」


「危なくないの?」


「その場所までは危険はないよ!その辺りまでの安全は確保してる。」


「でも死体に何をするの?」


「それはね…」





.....
....
...
..






 今俺たち家族は家を出たところだ。


「わー!すごーい!森だね?木がいっぱいだよー♪」


長女のひかりが外の光景に大興奮だ!次女のあかりはいつもと違う景色に不思議そうにしている。



「地面が滑るところもあるから気を付けるんだぞ!
それとあまりパパたちから離れないようにするんだぞ!!」


「はーい!」


と返事だけは立派だが、はしゃいでまともに前を見てもいない。案の定、木の根っこに引っ掛けて盛大に転んでしまった。


「ひかり、大丈夫かい?」


「大丈夫!痛くなんかないもん!」


と言いつつ、涙目になってしまっている。



「ほら、ママに怪我を見せて?」


浩美はあっという間に道具もないのに怪我の手当てを終えた。手をかざすだけで怪我の周りの汚れはきれいになり、血が固まっていったのだ。傷跡はまだ残っているが、後は放っておいてもすぐに治ってしまいそうだ。



「今のは応急処置のスキルか?」


「ええ、何故だかこうすればいいって何となく分かったの!」


「便利なものだな!さすがはスキルレベル3だな!?少々の怪我ならママに診てもらえば何とかなりそうだ。」


何かあっても病院に行けない今の環境では本当にありがたい能力だ!



「一応元看護師だしね!」


「頼りにしてるよ!」


「任せて♪」


浩美は自分にもこの環境で役立てることがあることを実感できたのか、非常に良い顔をしていた。やはり浩美は直接戦闘をするよりも、ヒーラーや補助役としてサポート役になる方が合ってるのかもしれない。



その後すぐに、ゴブリンの死体の山の前に到着した。


「こんな化け物がたくさんいる世界なのね?」


「「お化け~お化け~♪」」


子供たちははしゃいでるが、浩美にはショックだったようで顔を真っ青に染めていた。


「ひかり、あかり。こいつらは危険な生き物なんだ!もし見かけたらすぐに逃げて、パパかママに報告するんだ!分かったかい?」


「うん、分かった~!」

「あかりも~!」


「よし!いい子達だ!!

ママ大丈夫かい?」


「ええ、大丈夫よ。それでこいつらをネットスーパーに入金したらいいのね?何となく今回もやり方が分かるわ。やってみるわね!」


浩美はゴブリンの死体に向け手をかざし、


「入金!」


と唱えると、ゴブリンの死体の山はあっという間に消えて無くなってしまった。


「150ルピー入金されましたって表示されたわ!」


ゴブリンの死体は10匹だった。1匹15ルピーか。
浩美から事前に聞いていたネットスーパーの相場でいうと、1ルピーが約10円くらいのようだ。

つまりゴブリンを10匹倒して得られた収入は1500円ってとこだ。家族4人が満足できるだけの食料と水を得るにはかなりたくさん狩らなければならない計算となる。

安全の確保の為にもこの辺りには生息する魔物は根こそぎ倒していくつもりだが、余裕のある生活はまだ遠いなーと考えずにはいられなかった。



「ママありがとう!これで、魔物を倒したら食料や飲料は手に入れることができることが判明したよ。

この先にさらに進むとこいつらがまだ生きてる状態でたくさん存在する。こいつら程度なら俺はもう怖くない。気を付けて倒せば安全に倒すことができる!

それを踏まえた上でママに選択して欲しい。


 1つは、午前中と同じように家で俺の帰りを待っていてくれること。後ろは崖だし、こちら側は罠を仕掛けてるからそうそう魔物に襲撃されることはないと思う。

この場合の利点は、俺が1人で行動する方が狩りの効率は圧倒的に早いとは思う。

逆にデメリットは、俺が怪我をした時に家まで帰れる可能性が低くなる。それと万が一俺が留守の時家を襲われたらママが1人で戦わなければならなくなることだ。


 もう1つは、これからは俺たち4人で一緒に狩りをするということ。といってもその場合も戦うのは基本的には俺1人だ。ママは俺たちが怪我をしたら治してくれる程度でいいし、子供たちを守ることに専念していて欲しい。

この場合のデメリットは先程も言ったが、より安全に配慮しなければならないこともあり、狩りの効率は圧倒的に下がるだろう。

逆にメリットは、常に家族が一緒に過ごせるので、離れている家族の心配をする必要がないこと。

それに万が一俺が怪我を負ってもママに治して貰えること。

同じくママが傍に居れば魔物を倒した後、すぐにネットスーパーに入金ができて、死体を運ぶ手間が省ける。


 最後にこの提案をするきっかけとなった内容なんだが、パーティーシステムというのを見つけた!俺たち4人がパーティーを組んだ状態で魔物を倒したら、そのスキルポイントが全員に分配されるらしい。これは距離が離れると無効になるらしいんだ。

その方法で全員の能力を上げていけば、最初は3人を危険に近づけるかもしれないが、最終的にはより安全に過ごせるようになるのではないかと思ったんだ!


俺は一緒に過ごす方がいいのではないかと考えているが、ママはどう思う?」



長い沈黙の後、浩美は真剣な顔で言った。


「正直、こんな化け物たちがうようよしてるところに行くのは怖い!そして、私だけでなく子供たちをそんな場所に連れていくことはもっと嫌よ!!」


「そうか…分かった!ならやはり、俺だけで探索は続けることにするよ。この辺りの安全が完全に確保できるまでは家でジッとしていてくれよ!」


「パパっ!話を最後まで黙って聞いて!!」


「はい!ごめんなさい!!」


浩美の真剣な声につい無条件で謝ってしまう。



「別に謝らなくていいのよ。パパだってこんな状況になって大変なのに、私たちの為に色々と考え、行動してくれてることはよく分かってるの!


さっきの話の続きだけど、私も子供たちもあんな魔物がうようよしてるとこに行くのは嫌!でも…それ以上にそんな危険なところにパパだけ行かせて、私たちはパパの帰りを心配しながら待つのはもっと嫌なの!!

私は少しでも役に立てるのならパパの助けになりたい!一緒に過ごして強くなれるのなら、みんなで成長していきたい!!

家でただ待っていてパパに何かあったら私はそんな選択をした自分を許せないわ!!パパだってそうでしょ?1人で行って、戻ったら私たちが家で殺されていたなんてことあったら絶対に置いていった自分を許せない筈よ!?」


「当たり前だ!そんな未来は絶対に許せない!!
よし!一緒に成長していこう!!こんな異世界転移なんかに俺たちは絶対に負けない!!

俺たちは強くなって、この世界でも必ず安全で幸せな日々を取り戻そう!!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」  思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。 「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」  全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。  異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!  と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?  放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。  あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?  これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。 【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません      (ネタバレになるので詳細は伏せます) 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載 2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品) 2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品 2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...