性なる勇者シュヴァンツと七人の花嫁

七十四発目 死の克服

　ヴンダァは偉大な魔法使いであり魔法の研究者であった。彼が今日の魔法の発展にいかに貢献したかは語り出すと長くなるので割愛させていただくとしよう。彼、ヴンダァには美しい妻がいたが病の為に彼と一人娘を残して若くしてこの世を去った。ヴンダァは男手一つで娘を育て溺愛したが母親の病弱な体質は娘にも受け継がれていた。娘は花嫁姿を父親に見せる前に母親の元へと旅立った。

　ヴンダァは神を呪った。なぜこうも自らの大事な家族を奪い去るのかと。それからというものヴンダァは取り憑かれたようにある研究に没頭することになる。そう、死者を蘇生させる魔法である。その研究結果をまとめた著書である「死の克服」は出版当時は大きな話題を集めたが死者を蘇らせるなど神への冒涜であると国家によって発禁処分になりヴンダァはその一生を牢で過ごす事となった。おそらく亡き妻と娘のことをずっと思いながら・・・「死の克服」はその大半は回収され焼き払われたと聞くがその一部は焼き払われず今でも残っておりそれは裏で非常で高値で取引されているという噂も聞く。

「死の克服、聞いたことはありますわ」

　教会出身者であるシスタヴェリアは言う。

「私も都市伝説か何かくらいに思っていた。この屋敷でそれを目にするまではね」

　そうだ。私は見つけたのだ。この屋敷の書庫には先人が残したと思われる貴重な文献がたくさん残されていた。その中には貴重な魔導書も多数あり魔法使いの端くれでもある私は宝探しのように夢中で書棚を漁っていたのだった。そんなある日、ついに私は見つけた。「死の克服」の現存本を。初めは目を疑ったが偽物ではなかった。そのページにはヴンダァでなければ書けないような濃密な研究結果が書かれていた。それは確かに死者を蘇らせる魔法の書だった。なぜこの屋敷の地下にそんな希少な本があったのかはわからない。だが私の手元にあるのがまさしくヴンダァの記した「死の克服」であることは間違いないのだ。

「マギー、難しい話はわからないがその本に書かれてる通りにやればシュヴァンツを蘇らせる事が出来るというわけか？」

「簡単に言えばそういうことね。シュヴェーアト」

　ここはかつて勇者シュヴァンツとその妻たちが囲んだ食卓。そのシュヴァンツはあいにく地下の部屋で氷漬けで今も眠り続けており彼の七人の妻、ミルヒ、アインスとエレン、シュヴェーアト、そしてこの私、リリス、シスタヴェリア、そしてメイドのアリサ、妖精エルフィが取り囲んでいる。そして夜の食卓の上にはランプ、それに革表紙の本、「死の克服」が置かれている。

「しかし、それは禁断魔法なのでしょう・・・」

　エルフィが浮遊しながら呟く。

「私はどんな手を使っても旦那さまを救ってみせると決めたのよ」

「シュヴァンツにまた会えるの？」

　アインスとエレンの姉妹がふたり揃ってたずねる。

「そうよ。旦那さまにまた会いたくない？」

「会いたい？」
「会いたいよね。うんうん」

　そう言って双子の姉妹は顔を合わせながら頷く。

「わらわはどうせ魔族じゃからのう。人間の掟など知らん。面白い男じゃったからのう。また会いたいのう」

　リリスは言う。今は少女の姿をしている。

「私は聖職者としては・・・あ、そういえば教会を追い出された身でした。勇者様とはまだ試していない体位が・・・」

　シスタヴェリアは両手を重ね祈るように言う。

「私もあの人に会えるものならもちろん会いたいけど・・・」

　ミルヒは頬に手を当てながら言う。メイドのアリサは腹部を片手でさすりながら何やら思案している。

「故人の復活を願う人間の思いが多ければ多いほど成功の確率は高いらしいわ。みんなの協力が必要なの。協力してくれなくても私一人だけでもやり遂げるつもりではあるけどね。無理にとは言わないから考えておいて頂戴」

　私たちの家族会議はそうして一幕を終えた。今、私とシュヴェーアトはある地方の村にいる。時間帯はまだ昼間で農夫やら職人やらが行き交うのどかな村だ。ここに私たちが求めるものを探しに来たのだった。

「で、いざ来たものどうするんだ。マギー？」

　シュヴェーアトは村の様子を眺めながら私に言う。

「そうね、まずは聞きこみね。シュヴェーアト」