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四十八発目 淫魔リリス

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 魔族の少女は立ち上がって俺やリッター達に鋭い眼光を放っている。その紅い瞳は暗い牢の中で俺が生み出した火球の光を反射し魔鉱石のような輝きを放っている。

 まず目に入るのはその頭上にそびえる二本の白い巻き角だった。二本の巻き角は豊かで艷やかな黒髪の間からちょこんと伸び人ならざるものの存在感を放っている。

 その豊かな黒髪は腰まで伸びそのかかとまで届きそうな勢いである。着ているものは粗末な布の服一枚で丈が合っていないのか右肩部分が露出しており褐色の滑らかな肌が見える。

「シュヴァンツ様、そいつは淫魔です。防御を怠ればたちまちその妖気に当てられて誘惑されてしまう」

 俺の背後からリッターが耳打ちする。

「聖剣が妖気を防いでいるおかげで我々は無事でいられますがその妖気に拐かされた男はあの様に無様な様を晒してしまうのです」

 リッターが指差す先に下半身丸出しで石造りの床に横たわり放心している看守の兵がいる。しかし、このあどけない少女が本当に淫魔なのだろうか?そのちんちくりんな身体を見るにとてもそうは見えない。まるで初潮を迎える前の生娘のようだ。

「シュヴァンツ様、聖剣をかざしながら牢の中にお入りください。そうすれば妖気を封じ込めるはず」

 リッターが後ろから言う。

「さあ、これが牢の鍵です」

 リッターは後ろから俺に牢の鍵を渡す。鉄製のそれはひんやりとした感触である。しかし、聖剣を持ったままで鍵を開けるというのは難儀だな。俺は奇術師と違ってそんなに器用じゃない。ふと妙案が浮かぶ。

 分身魔法でふたり目の俺を作る。俺の背後にいる者共からおお!と感嘆の声が漏れる。ふたり目の俺に牢の鍵を開けさせ中に入る。無論、聖剣はかざしたままである。

「何じゃお前は!何しに来た!」

 牢の中に入って来た俺を見て紅い瞳の少女は叫ぶ。

「俺か?シュヴァンツだ」

「シュヴァンツ!?あのシュヴァンツか!?」

「ああ、そうだが。お前は何ていうんだ?」

「私はリリス。魔王軍の忠実な臣下だ」

「嘘つけい!男を与えてやればペラペラと自軍のことを何でも喋ったではないか!この淫魔!」

 リッターは俺の背後から叫ぶ。

「やかましい!」  

 とリリスも負けじと応じる。

「シュヴァンツ様!そいつを連れ出してください」

「だそうだ」

 聖剣をかざしながらリリスに歩み寄ると目をしかめ身を強張らせる。魔族には聖剣の力が効くらしい。淫魔の力も封じられ使えないようだ。

「日光浴の時間だぜ」

 俺は分身魔法で三人になる。ふたりの俺がリリスを両脇から抱えて牢から連れ出す。リリスの前にしっかりと聖剣をかざしているためその妖気は抑えられている。

「離せえ!離せえ!」

 ふたりの俺に抱えられたリリスは手足をジタバタさせて抵抗する。何かが分身の俺の頬を叩く。感覚が共有されているためその衝撃は本体の俺にも伝わってくる。

 大したものではないが何だこの植物のような感触は?目を凝らすと黒い葉っぱのようなものがゆらゆらと空中を浮遊しているではないか。その先端は矢じりのように尖っており黒い葉っぱのようなものは黒い管のようなものがついておりそれはリリスの臀部まで伸びている。

「尻尾・・・?」

 そう、まさしくそれは尻尾であった。リリスの尻のあたりから黒く細い尻尾が生え黒い葉っぱのような先端につながっている。それはリリスの頭上まで伸びゆらゆらと揺れている。先ほどは薄暗くて気が付かったのだ。
  
 黒い葉っぱのような尻尾の先端は先ほどから分身の俺の頬をペチペチと叩いている。とはいえ幼児のビンタのようなものなので大したことはあるまいと思った矢先だ。

「離さんかぁ!」

 リリスの尻尾が分身の俺のひとりの首に絡みついて絞め上げる。共有された感覚が窒息しそうな苦しみを伝えてくる。これは流石にまずい。分身をさらにもう一人増やして尻尾を掴む。

「ふぎゅうっ!!」

 リリスは叫ぶ。俺の分身の首を締め上げていた尻尾は急速に力を失う。

「何だ。ここは敏感なとこなのか?」

「尻尾に触るなぁ・・・」 

 どうもこいつは尻尾が弱点らしい。対抗しないようにずっと掴んだままにしておくか。リリスは俺たちに両手と尻尾をつかまれ大人しく地上に連行されるのだった。

「わらわをどうするつもりじゃ・・・」  

 リッターは淡々とした口調で告げる

「これからお前の首を刎ねる」

「首ぃ・・・!!」
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