魔王討伐

甘党辛好

文字の大きさ
上 下
17 / 29

勇者が仲間

しおりを挟む
「あんたら鬼と....そこの牛はよ?」

餓鬼さんとウーさんを指差す山月。

「どちらも、相当昔に滅んだ筈だろ?」

「だから、あんな鬼みてぇな足跡、存在するわけねぇと思ってたんだが....」

「だが、てめぇは生きている」

「....ってことはあのデッケェ足跡はてめぇの....鬼のってものになる」

「となると、あの黒い物体は....」


「お前らの中の誰か」


「ってことになるかなってな」


先程まで笑っていた山月の表情は、とてつもなく真剣な表情をしており、さっきから話を茶化していた人物像とは思えないほどだ。


「俺は、あの黒い物体が....あいつらを殺したってことになる」

「ただな、俺を殺さなかったってことはよ?」

「恐らく、何かしらの理由があると思っている」

「理由もなく、あいつらを殺すような奴らなら、俺を今ここで殺しても良いってことになるだろ?」

「だから、本人にその理由を聞きたいんだよ」


「....な?ライト」


山月は僕を、凄い形相で睨んでくる。

殺気が駄々漏れだ。


「おい、誰に向かって殺気向けてやがる?」

餓鬼さんが山月の事を睨む。


「ライト様!」

殺気に気付いたのか、ミールとモカが同時に僕の方を向き安否を確かめる。


「そうカッカするなよ~、ただ理由を聞いているだけだぜ?」

「その理由が....“正当”な物なら全然いいんだよ」

「例えば....仲間を傷つけられて、抵抗したら勢い余って殺しちゃった....とかな、まぁ、そういうのでも良いよ、事故扱い的な物にしてやる」

「まっ大方、そこのスライムちゃんが殺されかけたから....ってのだろうけど」

「ただ本人から聞きたいなって」

山月の言うことは最もだ


仲間になるのであれば、それ相応の信頼が必要。

自分の同族を簡単には殺せるような奴に自信の命は預けられないし、何より、プライドが許さないだろう。


「お前の言う通り....スイを傷つけられたからってのが大まかな理由だ」


「ふ~ん....他には?」


「....他には?」

山月の言葉に、思わずオウム返ししてしまう。



「スキルの暴走だ」


セリナさんが説明をする。

言葉に詰まっていた僕に助け船を出してくれたのであろう。

「貴様....なかなかみる目があるな」

セリナさんは、山月を見ながら感心する。


「どういうことですか?」


「へぇ、そこまで読む?凄いっすね」


「だからよ?まず、それだけの....まぁ、仲間を殺されかけてこそいるが....」

「その理由だけで人間を殺すような奴らには見えなかった」

「それに....仮にも“将来、人間と同盟を結びたい”と言ってる奴だ」

「そんな奴が、人間を簡単に殺すなんてことするか?それって矛盾だらけだろ?」

「お前らが、自信の夢を叶えるためには多少の犠牲は仕方ないと感じるような奴らなら話は変わるが....そういう奴らにも見えなかった」

「まぁ、仲間を傷つけられた訳だし、理由としては分からんくもないがな」


「だから、他には?って聞いたんだ」

「それを読みますか?まるで将棋の解説者みたいだな」


「....例えの意味は分からないが、褒めてると受け取っておこう」


「よかった~、スルーしてくれた」

「これスルーされなかったらどうしようとか考えてて....」

「....あー、まぁ話がまた逸れたな」

「で?スキルの暴走?」

山月は僕に目線を向け、僕に説明するよう促す。

それに気付き、僕は説明を始める。


「....あぁ、スキルの暴走だ」

「“人格”と名付けた、このスキルは....感情が昂ると、その感情にあった人格が僕を乗っとるらしい」

「それぞれの人格に応じて、効果も違う」


「制御は?」

山月の問いに僕は首を降る。

「めんどくせぇスキルだな....」


正直、僕もそう思う。


「まぁ、理解はしたよ」

「つまりは、その“人格”ってスキルを持ってるライトの感情が爆発して、あの黒い物体になって、意識乗っ取られて、奴らを殺したってことか?」


「あぁ」


「ふ~ん....まぁ信じるよ」


「本当か!?」


「あぁ、嘘ついてるようにも見えなかったしな」

「ただ....」

山月はそう言いながら下を向く。

下を向いて、山月の体は震えだし、口元は少しニヤけている。

「人格ってスキル名なんだよ!」

「誰が付けたんだよ、そのまんまの名前」

「ネーミングセンス最高かよ!」

バカにしたように言う山月、恐らく僕が付けたと思っているのだろう。


これを聞いた途端、後ろにいる、“名前を付けた人”の殺気がヤバイ。

魔法の音がする。


「あ~ぁ、おっかし....ぃ....嘘っすよね?」

気付く山月。

「いや、えぇ」

「ジョーダン、冗談ですやん」


「もう、それは通用しないぞ?」


「いや....で、でも、俺を殺したらそこにいるリーダーの意思と真反対の事をすることになりますよ?」


「大丈夫だ、お前は勇者だから死なん」


「いや、話聞いてましたか?“元”ですって」


「いや、お前は勇者だ」


「いやぁ、だから、元だって」


「大丈夫、お前は勇者だ」


「その自信はどこから?」


「大丈夫だ、私が今決めた」


「いや....あの....」


「大丈夫、私には分かる」


「あーはい、もうあの....出来れば....一瞬で....お願いします」


「フフッ、あぁ!」

ニコやかに笑うセリナさん、覚悟を決める山月。


「あぁ、死ぬ前に童貞....卒業したかったなぁ」


――――――――


「ったく、話してるだけの筈なのに体はボロボロだぜ」


「寸前で僕が止めてなかったら大変なことになってたからな、感謝しろよ?」


「いや、もう本当にライト様は命の恩人すわ!」


「山月....ライトのスキル名は....ダサいか?ダサくないか?」


「ダサくありません!」


「よし、良いだろう」


そんな話をしていると、セリナさんの研究室のドアが開く。


「....」

牛人族の子だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

性癖の館

正妻キドリ
ファンタジー
高校生の姉『美桜』と、小学生の妹『沙羅』は性癖の館へと迷い込んだ。そこは、ありとあらゆる性癖を持った者達が集う、変態達の集会所であった。露出狂、SMの女王様と奴隷、ケモナー、ネクロフィリア、ヴォラレフィリア…。色々な変態達が襲ってくるこの館から、姉妹は無事脱出できるのか!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

処理中です...