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温泉にて

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つっかれたー。

ふふ、お疲れさまでした。

僧侶ってすごいのね。あんなに歩いても息一つ上がって無いもん。

日々の訓練の積み重ねですよ。

こういうのさー、全然知らなかったわ。

魔法使いさんも勇者さんみたいに知識が偏っておられますよね。

私らは仕方ないのよ。多分。先入観ってやつよ。



 チャプ、っとお湯が音を立てる。
やや熱めのお湯に肩を出して浸かれば、すぐに体が温まっていく。

 麒麟のマッサージもいいものでしたが、やはり湯に浸かってゆっくりするというのは何物にも代えがたいものです。

「あら、ドラさんもでしたの。隣、失礼しますわね」

 前をタオルで隠し、リリスが温泉に。

「気分は大丈夫ですか?」
「しばらくはわたくし自身で空を飛ぼうと決意した以外はもう大丈夫ですわ。まさかあんなに速度を出されるなんて思いもしませんでしたわ」

 口元へ手を当て、小さく笑うリリス。

「てっきり不機嫌かと思いましたが、機嫌が良さそうで何よりです」
「あら、当然ではなくて? 今日だけでわたくしの知らない事をたくさん知りえましたのよ? これも経験ですわ」

 なるほど、そういった捉え方も出来るのですね。
リリスがそう言うのであればそうなのでしょう。

「そういえば麒麟に渡されたポーションはもうお飲みに?」
「いえ、正直、少し信用してない節があるので、まだ」
「まぁそうですわよね。一体どんな効果があるのかしら」

 胸の谷間からポーションの瓶を取り出し、傾いている夕日に透かしながらリリスは言う。
一体どこに持っていたんですか。……そのふざけた大きさの胸の有効な使い方、という事にしておきましょう。

 また谷間に瓶をしまい、ふぅ、とため息をつくリリス。
唐突に、

「魔王様は、本当に倒せるのでしょうか」

と聞いてきたのは何を思ってか。

「どうでしょうか。少なくとも今現在の私を含めたモンスターには倒せる存在は居ないでしょう。それに及ばない人間もしかりです」
「まぁ、そうですわよね。……今の魔王様はどうやって今の魔王という地位に立ったのかしら」
「考えた事もありません」
「よもや初めから魔王と言う存在では無かったのではないか、と最近考えますの。何かの機に魔王に成り上がったのではないか。と」
「ふむ、確かに言われてみると。現在の魔王様のような特性を持つモンスターなど居ませんし、いわばモンスターでも独立した存在と言えます。もし魔王に成り得るモンスターが居るならば私が知らないというのは少し考えられません」
「でしょう?つまりは、何かのきっかけで魔王が誕生する。と考えた方がしっくりきますの」
「ですがその引き金になるような出来事など、到底思いつきませんが?」
「わたくしもですわ。もしかしたらドラさんが心当たりでもあるかと思って話してみましたけど、見事に空振りでしたわ」

 そう言って温泉から上がるリリス。
「先に上がってますわよ?あと1体、この話を聞いておきたい方が居ますの」

 恐らくは、姉御の事だろう。先日のまさしくこの場で話した内容を、どうやらリリスも覚えているらしい。

 「私はもう少しゆっくりしてから戻ります」

 そうリリスの後ろ姿に声をかけ、景色が一望出来る温泉の端に移動し、視線を眼下に広がる景色へ。
魔王様……貴方様はどのようにしてその存在へと……

 いや、考えるのはよそう。私に出来る事は一つ、魔王様の下へ強くなった冒険者達を送る事なのだから。

 上がってご飯にして貰いましょうか。
と私は、温泉を後にする。……この場所に来て何も考えずにゆっくり出来たことが未だに無いと思うのは気のせいだろうか。

*

「ほれ、あんたも飲みぃや!」
「いーやーですわ! あんな変態からの贈り物に口を付けるなんて言語道断ですわ!」
「何をなされているのですか」

 温泉から上がり、部屋に戻れば、何やらパパラと姉御が組み合っていた。
姉御の手には麒麟のポーション。

「あ、マデラ。あんたからも言うたってや。このサキュバス、ポーションを飲まへんって言うんやで」
「いえ、それは別に個人の自由かと思いますが。」
「流石お姉さまですわ!化け狐とは大違いですわ!」

 私は飲みますけど。神獣のポーションなど滅多に飲めません。これも経験です。
服のポケットに入れていたポーションを取り出し、一気に飲み干す。

「え? ちょっ! お姉さま!?」
「マデラはよー分かっとるわ。怖がっとったら強くなれへんよ」

 香りは、言うなれば秋の匂いとでも言いましょうか。味は無味ですね。
これで熱中症への耐性が出来るなら別に怖がる必要もありませんでした。
正直キツイ匂いや、酷い味を想像してましたし。

 あれ? そういえば副作用がどうとか言っていたような。
別に体に変化はありませんが?

「私はもう少し様子を見てから飲みますわ。……副作用が後日に来るかもしれませんので」
「臆病やなぁ。気にならへんやろうに」
「私を臆病と言うのなら、お姉さま方は無謀ですわ。だって副作用の内容をあの変態は教えなかったんですわよ!?」

 流石にそんな変な副作用があるようなポーションを渡しはしないでしょう。
なおも姉御と言い合うパパラを尻目に、私はご飯をいただき、少し早めに就寝した。
いくら疲れが取れているとはいえ、眠気はどうにもなりはしないのだと再確認しながら。

 副作用は、……翌日になって現れた。
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