こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

文字の大きさ
上 下
13 / 75

2人になりました

しおりを挟む
辺りはすでに真っ暗で、ギルド内にはポツンと小さな灯りが一つ。
その灯りの下には、ミヤジ・ローランドが何やら書類とにらめっこの真っ最中。

ため息ばかりが辺りに響くが周りには誰も居ない。

もう、誰も居ない時間なのか。
まだ、誰も居ない時間なのか。

どうすっかなーと、半ば無意識に出たつつぶやきは、
当然自分以外に答えられる者はおらず、空しく空間に溶けるのみ。

思わず書類を机に置き、重い足取りで喫煙所へ向かう。

残された書類には、

【冒険者の素行、目標、育成について】
と題された、過去のデータや最近の傾向など

なるほど、誰が読んでも頭を抱えたくなるような内容の書類だった。



一瞬あっけに取られていた。

「へ?」

と間抜けな声を出してしまったのも仕方がないだろう。

「ですから……その……お手伝いに……来ましたのです……」
プルプルプルプル

恥ずかしいからなのか帽子をぎゅうっと握りしめ俯いてしまう少年。

と力を入れ過ぎたか、ズルッと帽子が思いっきりずれる。

その勢いでバランスを崩し、カウンターにゴンッと勢いよく頭をぶつけ……

と帽子のしたからピョコンと飛び出したのは、先端だけが僅かに白く、残りの全体は瞳と同じく見事な翡翠色の狐耳。

「うぅ……痛い……のです……」

ぶつけた場所をスリスリとさすり、ハッっと気が付いて慌てて帽子を被り直すも、時すでに遅し。

勢いよく頭ぶつけた音でみんなが注目してましたからねー……

とりあえず、

「お名前を教えて貰えるかな?」
とあえて何にも触れずにニッコリ笑顔で少年へ尋ねる。

「あ……えと……つ、……ツヅラオって、名付けて貰いました……のです」
テヘっとちろりと小さな舌を出して笑うその姿は……

何、このかわいい生き物。と周りに思わせるには十分だった。

とりあえず、姉御の所から来たお手伝いさんであることを確認し、ギルドの皆に挨拶巡りと行こう。

「神楽さんの所から来てくれたのよね?」
一瞬姉御と出かけそうになった、アブナイアブナイ。

「はい!そうなのです!かか、……神楽さんから、見聞を広げてこいと送り出して貰い、このギルドのダンジョン課にてお手伝いをさせていただく事になったのです」

何故だか一同から拍手が上がる。
さっきまでプルプル震えていたかわいい生き物が、自信満々に大きな声で言ったという事実に、
ああほら、事情を全く知らない冒険者さんもポカーンとしながら拍手してますし……

「テヘヘ……」

照れながら頭を掻いているその姿が、あぁ、もう!本当に可愛らしい。

とドロンと変な擬音が聞こえたかと思えば、何故だかお約束の様な煙がツヅラオを包みこみ……

煙から姿を現したツヅラオには……自身の体と変わらないくらいの大きさの、大きく立派な尻尾が一本。

例に漏れず本当に綺麗な翡翠色の毛色に、よく手入れされしっとりとした艶があり、
何より恥ずかしそうに自分の尻尾を抱きしめて、何とか隠そうとするその様が愛らしくて愛おしくて。

キャー!!

なんて声を上げながら、他の課の女性たちがツヅラオに向かって突進猛進。

あっという間に囲まれ、触られ撫でられ握られ揉まれ、もみくちゃ……いや、モフくちゃにされて目を回すツヅラオ。

無抵抗なのをいいことに、尻尾や耳を好き放題他の女性がモフっているのを見ながら、
ミヤさんに視線で助けてーと送る。

「ウオッホン!」
ミヤさんの咳払いを合図に、

皆バタバタと目にも止まらぬ速さで自分の席に戻り、仕事を再開。

全力でミヤさんにありがとうの意を伝えつつ、
「大丈夫?」
と声をかける。

「人間……怖いのです……人間……怖いのです」
と目を回しながら虚ろに呟くツヅラオ君。

私だって触りたかったのに……なんて……思ってませんよ?少ししか……

「お、……落ち着いたのです。……えと……お姉さんがマデラさんで合ってますのです?」

若干人間語の語尾がおかしい気もしますが、まぁこの程度なら十分合格点……
というか花丸満点5つぐらいですね。
文法も、発音も特に変なところはありませんし、何より会話がまともに成立するだけで十分です。

「はい、神楽さんから聞いたのですね?マデラ・レベライトと申します。これからよろしくお願いしますね」

にっこり笑って私が差し出した手を、

「はい!まだ修行不足、浅学寡聞せんがくかぶんの身ですが、日々精進しますのです!よろしくお願いしますのです!」
と両手で握り返して、

「お姉ちゃん」

と私の目を真っ直ぐ見据えて呼ぶ。

オネエチャン……?アハハナニヲイッテルンデスカネコノコハ……

抗えない力でも働いたか、私は無意識に、音も無く、そっと膝をついて……彼を抱きしめていました。

例えるならば……そう電気属性の最上級魔法でも喰らったような衝撃が私を襲ったんですよ本当です信じてください。

そんな私の頭を、尻尾と小さな手のひらでよしよしなんてしてくるこの子が悪いんです。

ふぅ、……

とりあえず落ち着きました。

一通り仕事の説明と、無事間に合ったマニュアルに合わせて、まずは一緒に仕事をしますか。

口笛ふいたりしてはやし立てる周りは無視しながら、ですが。

「では、さっそく仕事に取り掛かりましょう。」
「はい!お姉ちゃん!」
「出来ればお姉ちゃんと呼ぶのはやめて欲しいのですが……」
「そ、そうですか……ごめんなさい…なのです」

そう落ち込まれると、その……罪悪感が……

「では、マデ姉ではいかがなのです?」

あまり変わってないような気もしますが、先ほどの顔をされると罪悪感が凄くて……

「それで構いません」
としか言えないでしょう。

決して私の趣味ではありませんからね。決して。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【完結済み】ブレイメン公国の気球乗り。異世界転移した俺は特殊スキル気球操縦士を使って優しい赤毛の女の子と一緒に異世界経済を無双する。

屠龍
ファンタジー
山脈の国に降り立った気球乗りと心優しい竜騎士王女の純愛ものです。 「ドラゴンを解剖させてください」 「お前は何を言っているんだ」 日本の大学を卒業して奨学金返済の為に観光施設で気球乗りとして働いていた水無瀬隼人(みなせはやと)が謎の風に乗って飛ばされたのは異世界にある山脈の国ブレイメン公国。隼人が出会ったのは貧しくも誇り高く懸命に生きるブレイメン公国の人々でした。しかしこのブレイメン公国険しい山国なので地下資源は豊富だけど運ぶ手段がない。「俺にまかせろ!!」意気込んで気球を利用して自然環境を克服していく隼人。この人たちの為に知識チートで出来る事を探すうちに様々な改革を提案していきます。「銀山経営を任されたらやっぱ灰吹き法だよな」「文字書きが出来ない人が殆どだから学校作らなきゃ」日本の大学で学んだ日本の知識を使って大学を設立し教育の基礎と教師を量産する隼人と、ブレイメン公国の為に人生の全てを捧げた公女クリスと愛し合う関係になります。強くて健気な美しい竜騎士クリス公女と気球をきっかけにした純愛恋愛物語です。 。 第17回ファンタジー小説大賞参加作品です。面白いと思われたらなにとぞ投票をお願いいたします。

処理中です...