10 / 57
異世界 シャーシード国
5
しおりを挟む「あら。リンジェルド、急に大人になってしまったのに嬉しそうね。」
「はい。僕はその…目が覚めただけで嬉しいですので。」
「そうね。私達も、あなたと12年ぶりにお喋りできたこと、とても嬉しいわよ?」
母はそう言うと、私を抱きしめてくれた。
温かかった。
自然と涙が流れた。
顔を上げれば母も、それから父もエミリも涙を流していた。
暫く、私達は室内のみんなで泣いた。
エミリがお茶を淹れてくれ、みんなで一息つく。
それから、父がふと呟いた。
「しかし、リンジェルドは24歳。期限内に目覚めたということか。」
「そうですねぇ。」
母もしみじみと頷いた。
「ですが、リンジェルド様はそのせいで……」
エミリは慌てたように言う。
「何でしたっけ?」
私はまだ、自分の中での記憶が色々と混濁しており、自分が何故眠りにつくことになったのか記憶が繋がらなかった。
「あぁ、まだハッキリ思い出せないのね。かわいそうに。」
母は私の頭を撫でる。
「母様、恥ずかしいです。」
私が言えば、
「あら、ごめんなさい。つい懐かしくて。」
母は言う。
私は、マザコンだったのだろうか。
「リンジェルドは、この国の王太子の婚約者なんだよ。
この国では、公爵家から持ち回りで王族へ嫁ぐ者を差し出すことになっている。のだが……」
父は一度口を閉じると私を見て、それから続けた。
「リンジェルドは初等学園の卒業式後、城で女役の魔術を受ける最中に、魔力暴発が起きてしまったのだ。」
「!!」
私は目を見開く。
「幸いと言うのか何と言うのか、儀式に使っていた部屋の損傷は少なかったのでリンジェルドが魔力を放出し終えて気を失ってから儀式が続行し、リンジェルドの体は既に、男役のオスを体内に受ければ受胎できるようになっている。」
「それでね。貴方が眠りについてしまってから、国王の方から申し入れがあったの。
『24歳までに意識を取り戻せば、すぐに王太子と婚姻させる。だから、安心して養生するように。』と。」
「これも義務だから、これから国王へ報告せねばならない。」
父は言うなり目元を押えた。
「あの、王太子はそんなに酷い人なのですか?」
「あぁ、そういう訳では…ただ、一度王族へ嫁いだ者は、男児を出産しないことには城から出られないし、誰とも面会できないのだ。だから、だからな……お前との別れが辛くて。
すまないな、リンジェルド。」
父は私の肩を叩きながら、しばらく泣いていた。
何枚目かの壁を叩くと、そこに扉を見つけた。
開いて見れば、そこは廊下で………
全裸な僕は慌てて扉を閉めた。
次の壁を叩けば、そこも扉だった。
引けば、クローゼットだとわかる。
僕は、その中で服を物色しながら、男が部屋を出るまで潜伏することにした。
クローゼットの手前には王子らしい綺羅びやかな服が並ぶので、奥へ入ることにした。
思った通り、奥には少し小さく少し地味な服があった。
シンプルに、白のシャツと黒のスラックスを選んで身に纏うと、いろいろあったので心身共に疲れていたのか、衣装部屋が暖かかったのか、眠くなってしまった。
僕は、端に積まれた衣装の包みに紛れるようになりながら、眠ってしまった。
「今回の寄付は…あぁ、あれです。あの端に積んである。」
「わかりやした。それじゃ、コレは教会に運びやすんで。」
僕は、次に目覚める場所が衣装部屋ではなくなることを、まだ知らない。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
すてきな後宮暮らし
トウ子
BL
後宮は素敵だ。
安全で、一日三食で、毎日入浴できる。しかも大好きな王様が頭を撫でてくれる。最高!
「ははは。ならば、どこにも行くな」
でもここは奥さんのお部屋でしょ?奥さんが来たら、僕はどこかに行かなきゃ。
「お前の成長を待っているだけさ」
意味がわからないよ、王様。
Twitter企画『 #2020男子後宮BL 』参加作品でした。
※ムーンライトノベルズにも掲載
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
当たって砕けていたら彼氏ができました
ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。
学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。
教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。
諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。
寺田絋
自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子
×
三倉莉緒
クールイケメン男子と思われているただの陰キャ
そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。
お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。
お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる