お嬢様の身代わり役

325号室の住人

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カーテンコール(番外編) BL要素薄め

  エンド 2

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「あの日も、母様の卵がキラキラと落ちてきた。父様と母様が空へ上がってしまってから、何年経ったろうか。私は、エンドの入った卵を、この手で受け止めたんだよ。」
「そうなのですね。」
「母様の卵は、記憶の中のどの卵より大きいんだ。
だから、受け止めた卵がパチンと弾けた時、既に自分で歩ける他、身の回りのこともだいたい自分でできるくらいまで成長した人型の子どもが生まれた。」
「ん? 他の卵は違うのですか?」
「あぁ。記憶の中の卵はいつも…こう、掌に乗るサイズで、中からは小さい蛇みたいな龍体が出てくるんだ。」
「ヘビ!」
「まぁ、母様が龍族ではないからね、その辺りだろうとは思う。」
「そうなのですね。」

卵を心から慈しむような優しい表情で、話は進む。

「私は、その子に一目惚れしたのだよ。」

僕はハッとして顔を上げた。
すると、真剣な眼差しのエイド様と目が合った。

「その子は、それまで落ちてきた卵とは違って、黒髪黒目だった。それが、私のエンドとの出会いだった。」
「え? 僕…?」

エイド様は1つ頷くと、次に顔を上げた時には頬を朱に染めて、まるで恋する乙女のようだった。

「だから私は、母様に教えを請おうと思った。絶対に、私のものにしたいと思った。誰にも譲れない。だから失敗はできない。母様のような、完璧な父様に愛されている方のところで特訓すれば…その……ハジメテでも満足させられると、思ったんだ。」
「んん?」
「だから、以来母様のところへ通っていた。でも、明日はエンドの成人の儀だ。つまり、私は間に合わなかった。」

エイド様は、悔しそうな表情をしている。

「だからエンド、すまない。私は明日、君を満足させてやれないかもしれない。できるなら経験を積んでおきたかったのだが、その……私もハジメテなのだ。」

エイド様は頬どころか額も首も真っ赤で、何なら月光色の髪の生え際も、朝焼けのような色になっている。

先程までは何かにつけてイメージ崩壊感がついて回っていたけれど、こんな全力の告白を聞いてしまってからは愛おしくて仕方ない。

僕は、ソファに膝で上がるとエイド様を抱き締めた。
それから、唇で彼の唇を塞ぐ。

「…ん!……ぶはっ…ハァ…ハァ……」

頭の中で何度も妄想していた僕と違って、エイド様はキスのシミュレーションすら初めてだったようだ。
僕の唇に驚き、少し暴れてから僕の肩を押して体を離した。

「エイド様…」

僕は、呼吸を整えるエイド様の背中を擦りながら、伝えなきゃいけないことを言った。

「明日は、僕がリードしますから、安心してくださいね。うふっ。」

エイド様は目を見開いて……それから少し視線を落として、それから、

「あの…今の、もう1回……」
ものすごく丁寧に慎重に、僕におねだりした。






そうして日付が替わる頃、僕とエイド様は誰にも見られることなく、僕の成人と2人の婚姻の儀を終えた。

龍体になったエイド様の背に跨り、エイド様と僕のためだけの天空城へ到着するやいなや、前日のおねだりキスですっかり本能を目覚めさせてしまったエイド様に、リードされまくってしまった蜜月となったのは、言うまでもない。






      カーテンコール・おしまい
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感想 1

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みんなの感想(1件)

にんじん
2023.12.16 にんじん

めっちゃ好きです…!ごちそうさまです…ありがとうございます…!!

325号室の住人
2023.12.16 325号室の住人

にんじん様

お読みいただけたこと、ありがとうございました。
内容が内容だけに小っ恥ずかしいのですが……
感想いただけたこと、とても嬉しいです。

             325号室の住人 拝

解除

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