お嬢様の身代わり役

325号室の住人

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本編

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「まずは何から話そうか。私の身分から話せば良いかな。
私の父は現公爵家当主だが、前々王の第3王子であった。」
「え…ハイド様、前々王のお孫さんなんですか?」
「あぁ。だから順位としては低いが、元々王位継承権は持っていた。」
「それで…」

先程までの大観衆を思い出し、やっと合点がいった。
でも、疑問はある。

「あの…でも、ハイド様の前の王様にも、王子様はいらっしゃいましたよね? お嬢様の婚約者様の。」
「あれは…あぁ、居たのだがな。アレに王国の王家の血は1滴も流れて居ないと既に証明されている。」
「え!」
「元はと言えば、前王にな、王家の血が流れて居ないのだ。アレは前々王が騙されて引き取らされた子どもで、たまたま王家の色に似た色が半分出ただけの赤の他人だ。その息子もしかり。」
「そんな! それじゃ、キャルルはあんなに張り切っていたのに、処女の捨て損じゃないですか!」
「いや、アレらは諜報部員の同僚同士だから…」
「は?」
「職場結婚の新婚カップルだぞ?」
「王子様なのに?」
「あぁ。元々アレには継承権が発生しない。王家の色をきちんと揃えていないから。」
「王家の色?」
「あぁ。この色だ。」

僕が振り返れば、ハイド様は自分の髪を掴んでにっこりと笑われる。
年齢より少しだけ幼く見え、なんだかかわいらしいと感じた。

僕も笑顔を返す。

ハイド様があの碧で僕を見つめながら、顔を近付けてくる。
けれど、僕の疑問が浮かぶのと同時になってしまった。

「もしかして、シドもグルですか?」
「そうだ。」
「でも、シドってよく見るとハイド様と同じ色合いですよね?」

すると、途端に不機嫌になる。

「従兄なんだ。」
「え? でも…」
「アイツは、前に謀反の疑いを掛けられて国外追放された、前々王の第1王子の息子だ。本来ならば、私より継承順は上。だからそう言ったのに…」
「はい…」
「『自分は瞳の色が母譲りだし、他国の冒険者だからできない』って。」
「あぁ…」

シドの逆立った髪や剣士としての腕を思い出したら納得だ。

「でも! アイツは確かに冒険者だが、ちゃんと血は継いでる。瞳の色は、光の加減で王家の碧にも見えるんだ。…それに、イードへのキスも………」
「ん?」
「イードとのキスだ。あの時はまだ、私にイードが運命だと悟らせたくはなかったのだろう。でも私に王位を譲ったなら、イードは運命なのに…」
「はい?」
「許せない。王位を譲り、この国の運命も譲ると言うなら、イードとのキスだって、しないのが筋じゃないのか? なのに…悔しい…」

ハイド様の喋りはだんだん小さくなり、最後のところはほとんど聞こえなかった。

「ハイド様?」

もう一度言ってもらおうと名前を呼べば、ハイド様は咳払いを1つして続きを話し始めた。

「イードのその色は、大昔の聖女の血を引いている証拠だ。そして実際、本来は聖女として生まれるはずだった。あのおとぎ話は、この国の国王と聖女とが手を取り合って幸せな国を作るという筋だった。だが…」
「はい。」
「前々王を騙した魔女がこの世界から消える時、新しい体を得るのに、イードの魂が入る予定だった新聖女の体を先に乗っ取ったのだ。
そうして生まれたのが我が妹、アリスだ。
魔女はその記憶を残さなかったようだが、意地の悪いところと自分本意なところはしっかりと引き継いでいる。」

「え?…えと、お嬢様の前世が魔女で…えと?」

「つまり、イードは本来女性としてこの世界に誕生し、国王となる者と恋に落ちて、この国で幸せに暮らす予定だった、ということだ。
まぁ、こうして男性として生まれてきても、結果として私は君に恋をした訳なのだが…」

そこまで話すと、ハイド様は僕に甘えるように抱きついてきた。
それから、ピアスのついた耳朶を甘咬みしながら囁いた。

「なぁ、イード。そろそろ初夜を始めても構わないだろう?」


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