お嬢様の身代わり役

325号室の住人

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本編

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「ハイド様、シーツの交換に参りました。」

ノックのあと、廊下から声を掛けるが返答がない。
1つ目の扉を開いて入室した。

今度は寝室の扉。

「ハイド様、シーツの交換に参りました。」

ノックのあとに声を掛けるけれど、やっぱり返答はなかった。
僕は扉を静かに開けると、さっさと仕事を済ませてしまおうとベッドに近付く。
下りていた天蓋を捲ると、ハイド様が静かに眠っていらした。

お疲れの様子で、眉間にシワを寄せている。
でも僕が昨日お借りした枕を抱き締めて鼻を埋めるようにしていて、ちょっとかわいい。

──もしかして、僕の頭が臭くてその顔?

そう思うと、少し落ち込む。

僕はサイドテーブルにシーツを置くと、そのまま床に立て膝になって、ハイド様の髪を手で梳いた。
男性の髪なのに柔らかく、何も引っかかることがない、サラリとした髪だった。

僕がこれだけ髪に触れても、起きる気配がない。

──これじゃ、シーツは替えられないな…

僕はベッドの反対側へ回る。
ハイド様の背中側から静かにベッドに入ると、背中に頬を寄せて目を閉じた。

ただし、時間はまだ夕食前。
普通に生活していれば眠れないだろうけれど、ハイド様の体温に体がホカホカしてきた。
体が温まれば自然と瞼も重くなり、僕はうとうとしてしまった。






体の重さに目が覚める。
すると、ハイド様の腕が腹の上に乗っていることに気付いた。

周りは既に暗くて、ベッドサイドの小さな灯りが揺らぐのが見える。
今夜は月が明るいはずだから、カーテンが閉まっているのかもしれない。

──誰か入って来たのかな?

だとしたら、僕がここでサボっているのを誰かに見られたということだ。

──メイ婆さんに鞭で打たれたらどうしよう…

メイ婆さんの鞭さばきを思い出せば、体がビクッと跳ねた。

──ハイド様がそろそろ起きているなら、シーツを替えないと!

少し動いてハイド様の顔が見られるようになると、額に軽いキスが降ってきた。

「うわっ! ハイド様、おかえりなさい。」
「ただいま、イード。会いたかった。」

ハイド様は僕に覆い被さるような体勢になると、ゆっくりと顔を近付け唇が重なった。

リップ音がしないほどゆっくりと唇をずらすと、僕の右からハイド様が、

「約束、覚えている?」

囁き、ピアスに口付けた。

チュッ

今度は右耳が、前後の吐息も含めてすべての音を拾い、僕は思わず両膝を擦り合わせた。

その動きに、ハイド様は気付いてしまったらしい。

「準備は、い?」

息の多いハイド様の声は、聞くだけで僕の体温を上昇させ、顔がほてってくる。

僕が小さく頷けばハイド様は掛布を剥ぎ、僕の太腿へ座って自分のシャツを捲り上げて脱ぎ捨てた。

僕は僕で自分で脱ごうとシャツのボタンを急いで外していると、ハイド様にその手を止められ、そこから先はハイド様が脱がしにかかる。
腕は通したままで前身頃だけを左右に分け、両手はハイド様と重なりシーツに留められている。

「私がどれだけイードを愛しているか、見ていて。」

そう言って始まった愛撫は、顎から首筋から、鎖骨から肩、脇から胸へ、度々チリリと痕を残しながら移動して行く。

僕の下穿きにハイド様の手が掛かった時だった。

ドドドドッ

寝室の扉から激しいノックの音が聞こえてきて、ハイド様の集中が途切れた。

「待っていて。」

ハイド様は掛布を腰に巻くと、僕の額に唇を落としてから扉に近付き、隙間程度に開けた。

──きっと緊急事態だろうな…

僕はシャツの前を掻き合せると、身を起こして天蓋の薄布の隙間から様子を伺った。

すると、

「こんなところに居ったか!!」

ハイド様を押し退けてズカズカと寝室に入り込んで来たのは、今日エントランスで見た老齢の使用人だった。

「ハイド様! 此奴は王妃派のスパイでございます!! まさかこんなところにまで入り込んでいるとは! おのれ、来い!」

僕は髪を掴まれてベッドから引き摺り下ろされた。
あまりの痛みに、声よりも涙が先に出た。

「ほら見ろ! ハイド様。普通は痛ければ声が出るはず。しかし此奴は声を出しません。これは拷問に耐えるように調教を受けた者の証!!」

僕は、驚きに声が出せない。

背中を蹴られ、転んで床に潰れ、背中を踏み潰された。
それから、首根っこを掴まれて引き摺られ、廊下に投げ捨てられた。

受け身を取る暇もなく、背中を向こう側の壁へ打ち付けた。

それからすぐに、意識を失ったらしい。
気付けば、俯せになって使用人用のベッドに転がり、キャルルに看病されていた。

──どうしてこんなことになってしまったの…?

考えてもわからない。
僕は暫く、声を殺して泣いた。


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