お嬢様の身代わり役

325号室の住人

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本編

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「イードちゃん、目が覚めたのね!」

肩を震わして泣いていると、僕の足側からやって来た熟女侍女ーズの1人が僕の枕元へ水差しを置きながら言った。

「ホントかし!」

キャルルも覗き込んで来た。

「あぁ、良かったわぁ。イードちゃんが運ばれてから3日よ。心配したのよ。」
「アタシ、知らせてくる!」

キャルルが僕の足側へ走る。

僕は熟女侍女ーズの1人に、涙を拭われ、子どもみたいに、
「はい、ちーん!」
と、鼻をかまされ、水を飲ませてもらっていた。

その後次々と僕の足側から足音が聞こえ、眼の前に心配した表情の、僕に優しくしてくれた侍女ーズの1人や、シド、お嬢様の婚約者である王子が顔を見せると、口々に僕が目覚めたことを喜ぶようなことを言っていた。

「それじゃ、そろそろイードちゃんに話しましょうよ!」
「いい加減ボクがこのコを監禁してるって言い訳厳しくなってきたし。」
「アタシも早く家に帰りたいんよ! 作戦教えて。」

──何の話?

「そうだな。もう、こうなったら既成事実を作ってしまうしかないのか。」
「そしたら、あの裏切り者がまた邪魔しに来るんじゃないの?」
「はぁ…やっと黒幕の正体が掴めたってのに!」

──あの老齢の使用人?

「とりあえずは、あの娘の追放が先でしょう?」
「それはオレが連れ出す。とりあえず、お嬢の誘拐騒ぎを起こす。あの女、オレが顔見せればほいほいついて来るだろ。」
「でも、イードちゃんの怪我はどうするの?」
「この怪我じゃ、まだ1人には数えられないっしょ?」

──僕のこと?

「とりあえず、聞かせんよ!」

キャルルは俯せで左側に顔を向けた僕に見えるように、1冊の本を差し出した。

「イードさ、この話知ってる?」

見せてきたのは、B4の紙を半分に折って端を糸で和綴じにした本だった。
ただし、紙はボロボロだし、年月を感じるような茶色になっている。

「和綴じ…? でも…?」

そう。この和綴じ本は見た感じ古そうというのもある。
でも、実はこの世界の本やノートは、僕が過ごした日本と同じモノが存在してるんだ。
だから、時代が合わない…そう感じた。

「ないよ、本来はね。この世界は昔からあるおとぎ話なんよ! もちろんハッピーエンドのね。」
「え…ラノベやらゲームじゃないんだ。だから見つけられなかったのか!」
「元々のおとぎ話は大昔の聖女が残した遺物とか予言の書とか言われ、王城の宝物庫の片隅に保存してある。」
「けれど、自分の欲のためにこの書物と違う話にこの国を脚色した奴が居るんだ。」
「このままだとこの世界は破綻してしまうんよ!」
「オレ達はこの国という物語を正すために動いてる。」
「それでね、イードちゃん。貴方の怪我が治ったら、1つ仕事を頼みたいの。」

彼らは真剣な表情をしていた。

だから僕は、手伝うことを了承したんだ。






僕の背中の怪我は、思ったより軽かった。
骨に異常がなかったのだ。
だから治癒を迎えるまでの1週間のうち、5日程度を俯せでもろもろのお世話をしてもらって過ごしているだけで、僕は回復することができた。
残りの2日間は、室内や庭を歩いたりたくさん食べたり。体力を戻すようなことをして過ごした。

どうやら僕が寝ていたベッドは、庭の小屋にあったものらしい。

キャルル、シド、王子の3人がローテーションで僕と一緒に見張りや護衛がてら歩いてくれて、僕がハイド様や老齢の使用人に会うことは一切なかった。


そうして、1週間目を迎えた。

僕に与えられた仕事は、たった1つ。
公爵邸の執務室前で、室内にハイド様とご当主様、初老の使用人が居る状態で、お嬢様が誘拐されたことを大声で報告すること。

僕は叫んだ。

「おおおお嬢様が誘拐されました!」


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