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本編
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しおりを挟む朝、目が覚めた。
ハイド様がいらしてもいらっしゃらなくても、朝は来る。仕事もある。
僕は使用人用の食堂で朝ごはんを終えると、お嬢様の部屋へ向かう。
お嬢様の部屋では、いつもより少し多めの侍女ーズが、髪を乱し、疲労困憊といった状態で待ち構えていた。
聞くと、お嬢様は昨晩目覚めたのだそう。
そんな中、お嬢様の支度部屋からキャルルが出てきた。
今日もすこぶる元気そうだ。
「今日は、古参の侍女たちが下で待ってるの。だから、イードは歩き!」
「わかった。その方が気が楽だ。」
「じゃ、ここは侍女ーズに任せて行くわよ!」
僕はキャルルと連れ立って廊下を進む。
「そういえば、ハイド様は飛び地の領地へ向けて出発したんよ! 飛び地でご当主様が滞在していた宿舎が台風で倒れたらしいんよ!」
「そうなんだ…」
「台風とかさ、前世思い出すよね。ま、ここは日本の…」
「え…ココ、何かの世界なのか?」
「あ、ここだわ。」
キャルルは1階の扉の1つを軽くノックすると返事を待たずに扉を開く。
中には、この世界では高齢に片足突っ込んだ熟女侍女ーズがお喋りしながら待っていた。
「はい、できたわぁ~。」
「あら、かわいい。アンタの腕もまだまだ鈍っちゃいないわねぇ。」
「あんたもね。」
パーン!
熟女侍女ーズは手を打ち合いながら、互いの仕事を労っている。
僕とキャルルは昨日の僕の三次元別人メイクを思い出しながらドレッサーの前に行けば…
「なんということでしょう…」
「◯的ビフォーアフターか!」
キャルルのもの言いに、ついツッコんでしまう。
今鏡を見つめているのは僕なのに、かなり自然な感じの美女に見つめられていた。
隣にいるキャルルも、当社比3倍増しの美人に仕立てられていて、しかも…
「補正下着が薄い…苦しくない…」
「そうよ。コルセットも使い方でどうにでも作れるの!」
「熟練の技よ。」
昨日は補正下着で雁字搦めだった僕の体が、全然苦しくないのにささやかながら凹凸のある貧乳女子になっていたのだ。
それに、僕の隣の《正真正銘貧乳女子》のキャルルは胸元に谷間を作ってあり、白いシャツに派手な下着が薄っすらと透けている。
「すごい!」
「今日こそ王子サマと…ぐふふ…」
そんな訳で今日の僕は固定されずに車椅子に乗り、キャルルに押されて王子との面会の部屋へ到着した。
「ご婚約者様がいらっしゃいました。」
知らせの声に身構えていると…
「アリス、こんにちは。ボク、今日はアリスとお庭の散歩に行きたいなぁ~。」
到着早々僕は王子とキャルルと一緒に、公爵家の庭へと出てみることになった。
僕にとっては、この前庭を歩くのは(まぁ車椅子移動だけど)初めてだ。
けれど、王子とキャルルはなぜか慣れた様子で、迷いなく目的の場所があるかのように進んでいた。
どれだけ歩いたのか。
振り返ることはできないので定かではないけれど、正門が近付いてきたように感じる。
正面に噴水があって、右手には四阿が、その先には庭師の小屋が見えてきた。
噴水の縁に王子とキャルルが座り、僕の車椅子は水飛沫の掛からない程度に離れて止められた。
何故か2人の姿は噴水を挟んだ向こう側にある。
けれど…明らかにイチャイチャしているような声が漏れてくる。
まぁ、さんざんお嬢様とシドのイチャイチャ中の見張りをしてきた僕からしたら、生活音程度だ。
噴水の跳ねた水が、陽の光を浴びてキラキラとしているのを見ながら待機していた。
暫く水飛沫の跳ねるのを楽しんでいたところ、2人がやって来た。
「アリスぅ、ボク、漏れそうになっちゃったの!」
「お嬢様は、念の為四阿でお過ごしください。」
僕の車椅子は四阿まで押され、四阿に用意されたお茶を飲みながら王子の小用を待つことになった。
王子と何故かキャルルは、庭師の小屋へ手を繋いで入って行く。
僕は自分でお茶を淹れてお菓子をつまみながら、2人が戻るのを待つ。
──十中八九、ヤってるんだろうけどね…
僕は自由時間ができたと喜びながら、高位貴族家のお菓子の全種類制覇に燃えた。
2人が消えて、早数刻…
僕はと言えば、だんだん眠くなってきた。
四阿はぽかぽかと暖かな上、ずっと座っているしお腹も満たされたのだ。仕方ないよね。
その時…
「平民がこんな場所で1人でお茶会なんて、優雅なもんだな…」
声に顔を上げると、そこには行方不明なはずのシドが立っていた。
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