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本編
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しおりを挟む目が覚めると、朝だった。
起き上がれば、そこはハイド様のベッドだと気付く。
ただ、このベッドには僕1人。
ハイド様は…
『ハァッ! ヤァーーー!!』
窓の外からハイド様の声が聞こえた。
見下ろせば、数人の門番や護衛の者たちと朝の鍛錬中のようだった。
ハイド様は細身の真剣を振っている。
──剣の扱いに慣れてる…きっと日課なのだろうな。
そこで、昨日の肩や上腕の筋肉を思い出す。
──え? 僕、あの後の記憶が…もしかして寝て…?
思わず後ろに手を伸ばそうとして、特に違和感なく歩けていることに気付く。
自分を見下ろせば、昨日着ていた僕の服ではなく、上等なバスローブを着ていた。
──ハイド様、がっかりされたんじゃないかな…お詫びしたい。お詫びして…
何てお詫びをしようかと考えて、お詫びした後にはやっぱり抱いてもらいたいなと考えて、でもそうなると《お詫びエッチ》にしかならないことにショックを受ける。
だって、やっぱりハジメテはお詫びの上じゃなくて、愛の上に成り立って欲しいもの。
となると、お詫びをして、それから好きですって伝えて、その上で抱いてくださいって伝えて…
でもそれじゃ、ただ僕がおねだりしてるだけのような…
「はぁ…」
僕はとりあえず着替えようと、自分のカバンを探すことにした。
寝室の扉近くにはなかった僕の旅行カバン。
けれど、一人掛けのソファの上に置かれていてすぐに見つけることができた。
──あ、ここって…
初めてハイド様の上で腰を振ってしまった時のことを思い出し、一旦悶える。
それから気合いを入れて着替えのため旅行カバンから自分の服を引っ張り出すと、一緒に入っていたシドの上着もポロリと出てきた。
『えい!』
『まだまだァ!!』
鍛錬はまだ続いていた。
ハイド様が戻ってくる前にシドの上着をお嬢様の部屋へ持って行こうと、僕は軽い気持ちでハイド様の部屋を出た。
廊下は屋敷の裏側の庭に面しているため、まだ薄暗かった。
僕は間違いないように扉の数を数えながらお嬢様の部屋を目指した。
お嬢様の部屋へは普段と同様に簡単に入ることができた。
お嬢様は少し眉間にシワを寄せながら眠っている。
僕は持ってきたシドの上着を、眠っているお嬢様の掛布の上へ広げた。
『今日はこれまで!』
『『『は! ハイド様、ありがとうございました。』』』
窓の外からの声で、どうやらハイド様の朝の鍛錬が終わったらしいことを知る。
そうしてお嬢様の部屋から廊下へ出た時だった。
僕は……
侍女ーズにその場から連れ出された。
いや逆だ。お嬢様の部屋へ、再び連れ込まれた。
「イード君ったら、こんなに朝早くからだなんて、やる気満々なのね。」
「そのやる気を汲んで、いいわ! 今から君をお嬢様に仕立ててあげるわ。」
「覚悟しなさいよぉ~。」
「あのっ。僕、用事が…それに、朝ごはん!」
「ダメ! 食堂の朝食なんて食べたら、病み上がりのお嬢様になんてなれないわ!」
「………………はい。」
そういう訳で、侍女ーズによる三次元別人メイクを施されることになったのだった。
裸に剥かれ、あちこちのサイズを計られ、風呂に入れられ、擦られ、浴槽に浸かり、擦られ、浴槽に浸かり、髪を洗われ、体を隅々まで観察され、油を塗られ、擦られ、石鹸で洗われ、今度は女性らしい匂いの油を塗られ、風呂から出されて肌を整えるもろもろを塗られ、補正下着でほぼ全身を覆われ、ゆったりとして飾りの少ない…でもいつもの寝間着よりは派手なワンピースを着付けられ、ヅラを被って、いつもより飾りの多いヒラヒラに囲まれた帽子を被らされ、車椅子にはベルトでしっかりと固定された上に、ベルトは膝掛けでしっかりと隠された。
そういうフルコースを受け終えた時には既に昼。
婚約者である王子を待つ部屋へと車椅子を押された。
車椅子は練習としてキャルルが押した…………のだが…
「重っ…きゃん!」
と言っては階段から落とされそうになり、
「なんで曲がれないのよぉぉ!!」
と言っては壁にぶつかりそうになり、
「もう! イードが自分で歩けばいいのよ!!!」
と言っては置き去りにされたり…
──歩けるモンなら僕も歩きたいよぉ…
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