お嬢様の身代わり役

325号室の住人

文字の大きさ
上 下
23 / 50
本編

  22

しおりを挟む

目が覚めると、朝だった。
起き上がれば、そこはハイド様のベッドだと気付く。
ただ、このベッドには僕1人。
ハイド様は…

『ハァッ! ヤァーーー!!』

窓の外からハイド様の声が聞こえた。
見下ろせば、数人の門番や護衛の者たちと朝の鍛錬中のようだった。

ハイド様は細身の真剣を振っている。

──剣の扱いに慣れてる…きっと日課なのだろうな。

そこで、昨日の肩や上腕の筋肉を思い出す。

──え? 僕、あの後の記憶が…もしかして寝て…?

思わず後ろに手を伸ばそうとして、特に違和感なく歩けていることに気付く。
自分を見下ろせば、昨日着ていた僕の服ではなく、上等なバスローブを着ていた。

──ハイド様、がっかりされたんじゃないかな…お詫びしたい。お詫びして…

何てお詫びをしようかと考えて、お詫びした後にはやっぱり抱いてもらいたいなと考えて、でもそうなると《お詫びエッチ》にしかならないことにショックを受ける。
だって、やっぱりハジメテはお詫びの上じゃなくて、愛の上に成り立って欲しいもの。

となると、お詫びをして、それから好きですって伝えて、その上で抱いてくださいって伝えて…
でもそれじゃ、ただ僕がおねだりしてるだけのような…

「はぁ…」

僕はとりあえず着替えようと、自分のカバンを探すことにした。



寝室の扉近くにはなかった僕の旅行カバン。
けれど、一人掛けのソファの上に置かれていてすぐに見つけることができた。

──あ、ここって…

初めてハイド様の上で腰を振ってしまった時のことを思い出し、一旦悶える。

それから気合いを入れて着替えのため旅行カバンから自分の服を引っ張り出すと、一緒に入っていたシドの上着もポロリと出てきた。

『えい!』
『まだまだァ!!』

鍛錬はまだ続いていた。

ハイド様が戻ってくる前にシドの上着をお嬢様の部屋へ持って行こうと、僕は軽い気持ちでハイド様の部屋を出た。






廊下は屋敷の裏側の庭に面しているため、まだ薄暗かった。
僕は間違いないように扉の数を数えながらお嬢様の部屋を目指した。

お嬢様の部屋へは普段と同様に簡単に入ることができた。
お嬢様は少し眉間にシワを寄せながら眠っている。

僕は持ってきたシドの上着を、眠っているお嬢様の掛布の上へ広げた。


『今日はこれまで!』
『『『は! ハイド様、ありがとうございました。』』』

窓の外からの声で、どうやらハイド様の朝の鍛錬が終わったらしいことを知る。

そうしてお嬢様の部屋から廊下へ出た時だった。




僕は……




侍女ーズにその場から連れ出された。

いや逆だ。お嬢様の部屋へ、再び連れ込まれた。

「イード君ったら、こんなに朝早くからだなんて、やる気満々なのね。」
「そのやる気を汲んで、いいわ! 今から君をお嬢様に仕立ててあげるわ。」
「覚悟しなさいよぉ~。」

「あのっ。僕、用事が…それに、朝ごはん!」
「ダメ! 食堂の朝食なんて食べたら、病み上がりのお嬢様になんてなれないわ!」
「………………はい。」

そういう訳で、侍女ーズによる三次元別人メイクを施されることになったのだった。



裸に剥かれ、あちこちのサイズを計られ、風呂に入れられ、擦られ、浴槽に浸かり、擦られ、浴槽に浸かり、髪を洗われ、体を隅々まで観察され、油を塗られ、擦られ、石鹸で洗われ、今度は女性らしい匂いの油を塗られ、風呂から出されて肌を整えるもろもろを塗られ、補正下着でほぼ全身を覆われ、ゆったりとして飾りの少ない…でもいつもの寝間着よりは派手なワンピースを着付けられ、ヅラを被って、いつもより飾りの多いヒラヒラに囲まれた帽子を被らされ、車椅子にはベルトでしっかりと固定された上に、ベルトは膝掛けでしっかりと隠された。

そういうフルコースを受け終えた時には既に昼。
婚約者である王子を待つ部屋へと車椅子を押された。

車椅子は練習としてキャルルが押した…………のだが…

「重っ…きゃん!」
と言っては階段から落とされそうになり、

「なんで曲がれないのよぉぉ!!」
と言っては壁にぶつかりそうになり、

「もう! イードが自分で歩けばいいのよ!!!」
と言っては置き去りにされたり…

──歩けるモンなら僕も歩きたいよぉ…


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

【完結】この手なんの手、気になる手!

鏑木 うりこ
BL
ごく普通に暮らしていた史郎はある夜トラックに引かれて死んでしまう。目を覚ました先には自分は女神だという美少女が立っていた。 「君の残された家族たちをちょっとだけ幸せにするから、私の世界を救う手伝いをしてほしいの!」  頷いたはいいが、この女神はどうも仕事熱心ではなさそうで……。  動物に異様に好かれる人間っているじゃん?それ、俺な?  え?仲が悪い国を何とかしてくれ?俺が何とか出来るもんなのー?  怒涛の不幸からの溺愛ルート。途中から分岐が入る予定です。 溺愛が正規ルートで、IFルートに救いはないです。

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

処理中です...