【完結】しがない男爵令息だった僕が、ひょんなことから辺境最強の騎士と最強の剣の精霊から求愛されている件について B-side

３

「申し訳ない。弟とは双子だ。辛いことを思い出させてしまったね。」

他称王子の声は、だんだん私から離れて行く。

「君。顔を見せてくれないか。」

低音の、黒髪の青年の声がして両手を外せば、目の前には少し俯きがちに赤面した金髪碧眼のご尊顔。

「申し訳ないのだが、君は今日この時をもって退学となってしまった。
代わりに王宮で家庭教師をつけ、君の心身、特に精神面の療養をしっかりと行なってもらおうと思う。」
「でも……！」

僕はまだ涙声だ。

すると、その状況に金髪碧眼の王子殿下は口を開いた。

「弟は王子の身分や王位継承権を剥奪し、罪人として既に辺境の監獄へ送ったので何の心配もないのたが……
この状況で城へ連れ帰るのは難しいか。
よし、それでは、今日のところはライと一緒にライの実家で世話をしてもらってくれ。
良いな、ライ。」
「御意！」

こうして、学園に足を踏み入れただけで退学処分となってしまった僕、フレイオ・ブリネスカは、男性に横抱きにされて移動を始めた。






「部屋の準備が整うまで、君にはこの部屋を使っていて欲しい。」

黒髪の男性は言う。

「どうか寛いでくれ。殿下からの手紙を父に渡してくる。」

そうして僕はただただ豪華でだだっ広い部屋にぽつんと残された。

とりあえず設置されている猫足のソファに、遠慮がちに尻を乗せた。

父のおイタでこの世に生を受け、下町で暮らしていたものの、十になる頃に母が亡くなってからは父に引き取られた。
この春からは義兄が嫁を取って男爵を継いだので、学園の寮に入る気満々だった僕。

実家には貴族らしく整った私室はないものの、使用人として過ごさせられるということはなく、一応は男爵令息としての一般常識や最低限のマナーは身に付けさせてもらった。

ただ、義母からはよく『そんな辛気臭い顔に合う椅子は我が家にはありません。』とか言われて、立って過ごすことが多かった。

他には『こんな暗い表情の小舅がいるなんて、気味悪がられて嫁の貰い手がなくなるわ。』と、義兄とはあまり接点はないくらい。

マッドサイエンティストに売られる予定も、性癖のヤバいジジィ相手の男娼に入る予定も特になく、一般的な下位貴族の子どもの支度をしてもらい、この学園に入学してきたのだった。


「はぁ…」

フレイオは一つ溜め息を吐いた。

まさか、自分にこんなことが起こるなんて…

他称豚王子、いや、見た目豚の元他称王子だったか。

──この世界がボーイズラブ系Ｒ18ゲームの世界って言ってた。

実は、フレイオにも前世の記憶がある。

自分が男爵令息として引き取られた時点で、もしかしたら異世界チートの世界かもって少しは頭を過ぎったけれど、あいにく自分の知ってるゲームや小説にフレイオ・ブリネスカという名前は出てこなかったので、全然関係ないと思っていたのだ。

──まさかそっち方面だったとは……

確かに、国民は男ばっかりだし、男同士の恋も婚姻も当たり前の国だ。
それに、言われてみれば、元他称王子の話していた『いざ開かん！　快楽の扉！！』というセリフに聞き覚えがあった。

テレビやネットのコマーシャルだろうと思うけど……

「……まさか自分の名前を冠したタイトルのＲ18ゲームがあったなんて……」

トホホ……

フレイオは自分の後孔に蓋をするように手で覆いながら、特大の溜め息を吐くと、現実逃避したくて瞼を下ろした。