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しおりを挟む今日は、待ちに待った学園の入学式。
会場の講堂から親の爵位順に並ぶトイレのうち、学園の一番外れにあるトイレを出た僕は、人っ子一人いない中庭を抜け、会場である講堂へ向かっていた。
煉瓦造りの講堂の立派な外壁が見えてきた時だった。
目の前に、金髪碧眼ながらずんぐりむっくりした少年を先頭に、三人の取り巻きという構成の男子生徒が立ちはだかる。
「こちらにおわすは、この国の第三王子殿下であらせられる!」
右の青年が声高らかに言うと、他の二人が、
「「よっ!」」
と掛け声をかけながら片膝を付き、拍手をした。
真ん中の他称王子は、自分から名乗るでもなくドヤ!と顎を少し上げた。
──は?
突然のことに、僕は驚きで思考が止まった。
「あの……人違いです!」
その一言だけで精いっぱいだった。
だって僕は、田舎の貧乏男爵家の三子。相手はこの国の、かなり怪しいけれど他称とは言え王子とその取り巻きだもの。
接点なんてあるワケがない。
「いや、君だ!」
それが合図かのように取り巻きに囲まれ、他称王子は僕の正面に立つ。
「君はフレイオ・ブリネスカ男爵令息だろう? ならば『享楽のフレイオ』の主人公ではないか!」
他称王子は僕の背後に回り込むと、
「現にほら…この素晴らしい…」
それから、僕の背中からお尻まで手を滑らせてくる。
ゾゾゾ…
一瞬にして鳥肌が立ち、体がこわばる。
それから、制服のズボンの縫い目に指を這わせられた。
「フゴッ…感じてる?」
──いいえ、全然!
僕は力いっぱい頭を振る。
「強がってるのか?」
そのまま僕の尻をズボン越しに鷲掴みにし、そのままグーパーグーパーとしつつ、耳元に唇を寄せる。
「そんな気の強いところも好きだ。ふっ…キマったぜ。フガッ」
この男は何を言っているのか。
僕はその手を振りほどいて距離を取ると、取り巻きの輪を抜けて講堂へ向かう。
…ってか、ここは本当に学園内か…?
今年の新入生には双子の王子が居る関係で、今日の入学式には国王陛下夫妻も出席されるというのに、警備は? 何でこんな不審者が居るんだよ!
講堂の扉へ手が届きそうという時、他称王子に手を掴まれ引かれ、壁に背中を打ち付けた。
「平民から貧乏ながら男爵令息になった主人公が、この素晴らしい肢体で次々と攻略対象者を篭絡していく、R18ゲームの最高峰!
さぁ、フレイオ…私は喜んで篭絡されよう!
『いざ開かん! 快楽の扉!!』」
他称王子は、僕の手首をガシッと掴むと、講堂の手前にある倉庫の扉を開いた。
実家では農作業を手伝ってそれなりに重いものは持ち上げられるからって、運動が苦手そうな豚体型の男はびくともしない。
「いやだ! やめ…離せ!」
他称王子の従者達に視線を向けるが、彼らの目は逸らされてしまう。
「お前たち。兄貴の挨拶が始まる前には呼べ! それまで見張っていろ!」
「は! かしこまりました。」
そうして、無情にも倉庫の重い扉は閉ざされてしまったのだった。
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