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しおりを挟むある日、夕食の片付けを終えると母が言ったの。
「ねぇキャス。貴女いつ引っ越すの?」
と。
「は?」
私はそれ以外の返答は思い付かないわ。
でも母は、
「だって貴女とリュークくん、結婚してるじゃない。」
と。
「へ?」
私は素っ頓狂な返答になってしまう。
「まさか、あの人から何も聞いてないの?
リュークくんが冒険者として登録する時、身元がしっかりしてないと後見人の証明とかの手続きに数日を要すから、名前の後ろにクレメントを書かせたって。
ついでに、自分たちの養子に入るには成人以上でも実の両親が存命ならサインが必要だからって、キャスの婿にしたのだそうよ。」
「へぇー…」
「まさか初耳? まぁあの人脳筋だわね…」
という訳で、いつものように夕食の片付けを終えると、食後に焙じ茶で寛ぐリュークの元へ向かう。
そして私達の関係について話すと、リュークは最初から私の婿になった認識だったと。
とりあえず私は、母から私の着替えなんかが入った鞄を渡されたリュークと共に、この家の裏辺りに位置するリューク邸へ向かったの。
「ただいま…」
リュークが玄関扉を開けて私を招き入れてくれたので足を踏み入れたのだけど、何だか昼と様子が違い過ぎるのですが…?
「使用人のみんなは通いだから、夜は僕だけなんだ。」
リュークは申し訳無さそうに言いながら、私の背中に優しく手を添える。
「先にお風呂へどうぞ。」
リュークに案内されて、昼間は立ち入ることのない大階段の向こうの扉を入る。
中には猫足のバスタブが置かれ、リュークの魔法で温かなお湯が天井から垂れ下がるランプの灯りを反射してキラキラしていた。
「ごゆっくり…」
リュークは私にふかふかのタオルを渡すと扉の向こうへ消えてしまった。
実家とは違う洋風な造りの浴室に、気持ちをアゲる。
「せっかくのバスタイム、楽しみますか。」
私は前世と同じ手順で入浴すると、母が持たせてくれた鞄から愛用の寝間着─オーバーサイズのTシャツにショートパンツ─を取り出して身に着ける。
それからリュークに借りたタオルを髪に巻き、忘れ物無くリュークの出て行った扉を潜ると、階段近くの壁に凭れるリュークの姿を見つけた。
顔を上げた彼…一瞬目が合うもすぐに顔を俯かせる。
──ん?…耳が赤いような…?
不思議に思って首を傾げてリュークの方を見ていると、リュークがドカドカとこちらに向かって歩いて来た。
私の荷物を左手に右手には私の右手首を掴み大きな足音のまま階段を上がると、1番手前の扉を入ってすぐのところに鞄を置いて私を部屋の中央にあるベッドの縁に座らせた。
それからリュークは私の足元にしゃがみ、《姫様の専属騎士》のように片膝をつく。
普段は見えないリュークの旋毛をぼんやりと眺めながらも、服装が服装なのでリュークとの位置関係が何とも小っ恥ずかしい。
私の右手は引き続きリュークの大きな手に包まれ、リュークは赤い顔のまま私を見上げる。
喉仏が上下して、リュークが唾を飲み込んだのがわかる。
それから1つ深呼吸すると、オフの時には珍しい力強い視線を私に向けた。
「………キャス。君は、僕との初夜を迎える覚悟はある?」
直球に慌ててしまい、リュークの真っ赤が伝染る。
たぶんお互い赤い顔のまま、体感的に1分間は見つめ合ってたと思う。
でも、たぶん初めて…いや2度目に会った時から、何だか運命みたいなものを感じていた。
私は力強く頷く。
それから、
「はい!」
元気に返事をした直後、伸び上がったリュークから力強く抱き締められた。
「ありがとう!」
リュークは私を抱き上げて膝でベッドに乗ると、ゆっくりと私を横たえる。
そうして、私の体を跨ぐようにして覆い被さってキス。
チュッ…
音は控えめながら、静かな部屋に響いて少し恥ずかしい。
照明は、枕元にスタンドが1つきり。
その薄暗さでもたぶん、私の顔が真っ赤なのはきっとリュークにバレてると思う。
だってリュークが真っ赤なのもよくわかるもの。
それから私は目を閉じてキス待ち顔を披露すると、今度はリュークから食べられちゃうみたいなキスを受け、それから…
目が覚めればリュークの腕枕の背中側から鳥の囀りが聞こえ…
前髪が上がって蒼の瞳を煌めかせながら、
「おはよう。」
笑顔のリュークにおはようのキスをされたの。
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