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女神の行方 バルトル視点

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「エリサ…エリサぁ……」
「はぁいっ。あたしがエリサよ。」
「違う! お前などが女神な訳があるか! 失せろ!!」

馬車の前で嘆く俺に、馬車の中の女が答えるが…
なぜそんなことを言う?
お前如きが女神を騙るな!!


俺は女神を騙る女を馬車から引き摺り下ろす。
そこへ、じぃとこの辺りを巡回していた騎士隊の者が現れた。

「こちらです。昼間から酒を飲んでいるのかこの男が先程から喚いているのです。」

じぃは何故か、俺を指差して騎士隊の者に伝えた。

「は? 俺はまともだ。おかしいのはこの《じぃ》だ。」
俺はじぃに掴みかかって女神の居場所を聞き出そうとした。

「こらこら、何をしているのだ! 騎士隊の詰め所へしょっ引くぞ!」

じぃに掴みかかる俺に、騎士隊の者が介入してくる。

「いいぞ、連れて行け! この《じぃ》はあろうことか俺の最愛の妻をこの見知らぬ女とすり替えたのだ。
彼女がどこへ連れ去られたのか、騎士隊の詰め所の方が情報が集まるだろうからな!」
「何を仰るんです? いつだって、私の夫はあなただったではないですか!」
「お前こそ何を言っている? 俺のエリサはお前などではない!」

俺は、絡んできた女にきつい視線を送った。

すると、騎士隊の者はあからさまにわざとらしい溜め息を1つ吐いた。

「わかった、わかったから! そこのお前は詰め所で頭を冷やしてもらう!」

そうして俺は念のためにと後ろ手で縛られ、縄を引かれて騎士隊の詰め所へ向かうことになった。






「バル様、バル様、もう大丈夫ですよ!」

最初の角を曲がった時、俺を縛っていた縄を左腕に巻き取りながら、騎士隊の者が言った。

「遅かったな、レレキ。」

俺は、歩きながらの早替え後に隣に並んだレレキに、前方を見たまま話し掛けた。

レレキは、俺が子どもの頃から侯爵家の影をしている男だ。
仕事の一環として、老若男女関係なくのが得意だ。
今は主に娘のリリサと組んで、エリサの護衛や領地との手紙の運搬などをしている。

「申し訳ありません。急いだのですよ、これでも。《じぃ》の再就職先がまさか隣領の伯爵家とは…
あの人、結構やらかしますから、また今回も引き当てたということでしょう。」
「まぁ、な。で、エリサの居場所は?」
「掴めております。」
「リリサは?」
「間もなくエリサ様の元に。」
「わかった。伯爵め…潰してやる!」
「では、作戦本部へ参りましょうか。」






俺とレレキは、丁度左の角に見えてきた建物へと入る。
階段を駆け上り、一番奥の部屋へ入室と共にレレキが扉に閂をかけた。

「「バルトル様!」」

中に居た人間達が俺に気付き、立ったまま忠誠を誓うポーズをする。

「ルルハ、ララカ、よく来てくれた。」

2人は、職場結婚の後産休・育休から職場復帰したばかりの、リリサの姉たちだ。

婚姻式用にエリサを着付けるのに、もうレレキを使いたくなくて、母の侍女兼護衛として復帰する予定だった2人を回してもらったのだ。

一番奥の椅子に掛けると、ルルハから現在までの報告が上げられる。

──エリサ…俺の女神。すぐに助け出してやるからな!


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