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バルトルのお見舞いと子の誕生

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あの後、私にキスしているところをルルハさんに目撃されたバルトルの元にはレレキさんがという方が迎えにやって来ました。

レレキさんは、同名ですが私にメイクを施してくれた侍女ではなく、執事服をビシッとキメた中年に足の掛かった男性でした。
聞くところによると《影》のお仕事をしていらっしゃるそうです。
もしかして、私ともお会いしたことがあるのかしら。

「先日は、主の奥方様に対して、申し訳ありませんでした。」

頭を下げたレレキさん。
やはりお会いしたことがあったようですが…一体どこで?

「決して、決してはおりませんので、ご安心ください。」

どうやら私の着替えや湯浴みは覗いていないとの報告だったようです。

こうべを垂れるレレキさんから、ふわりと男性モノのコロンの香りがしました。
どうやら、いつも手紙を届けてくださる方だったようですね。それならお会いしたことがあります。

ですが、いくらいないとは言え、男性が私の側に仕えることをバルトルが許せなかったようで、ルルハさんとララカさんを私に付けてくださったのですって。

レレキさんには、現役を退いた奥様と3人の娘さんたちがいらっしゃるそうです。
ルルハさん、ララカさん、リリサの3人がレレキさんのお嬢さん方だったなんて!
でも何だか面差しの似ている感じもありますね。

そうしてバルトルは、
《私は約束を守れない愚か者です。》
と書いた紙を背中に貼って本邸内を練り歩いた後、レレキさんと一緒に再び長いお仕事へ旅立ってしまいました。



そのまま私は侯爵家の客間をお借りして、毎日のんびりと、読書や編み物をして過ごしました。

お腹がドンと大きくなる頃には、私の食欲は戻るどころか増す一方で、体重増加と足の浮腫みにも困っていましたが、育休明けのルルハさんとララカさんに良いお茶を教えてもらって徐々に改善できました。

そういえばそのお茶、私が伯爵邸の洗濯婦の方に戴いたのと同じ味だったのですよ。
一緒に戴いたベルベルラの実については名前を教えてもらっていたので、お茶についても名前を聞いておけば良かったです。

ちなみに……
ベルベルラの実は《期間限定の幻の実》のようで、木に生っているのはほんの1週間程度なんですって。
残念ながら、あれ以降は食べることができませんでした。



体調が良い時には本邸内や庭を歩いて体力をつけながら、バルトルに会えるのを楽しみに過ごしておりましたが、その後バルトルとはレレキさんの監視の元でやっと会えた数回のみでした。

「エリサ…」

どうやら《両手のみで触れる》というところまでは許可がおりたらしく、お茶の席、テーブルを挟んでバルトルに両手を掴まれて時間いっぱいまで見詰められたり、
お腹で《おやや》が動いた時にバルトルに知らせてもわかってもらえず、レレキさん・ルルハさん・ララカさんでバルトルの3方を囲うように見張られながらお腹に触れてもらったり、
その度にバルトルが本当に嬉しそうに笑うので、何だか私まで嬉しい気持ちになったりしました。



そして、それからまた時が過ぎ…
とうとう私はその時を迎えました。

夫人改めお義母さまと、ルルハさん、ララカさんと共に乗り越え、バルトル色を立派に引き継いだ男の子を出産しました。

バルトルは結局現れず、子どもには私が《ヴィクトル》と名付けました。

バルトル不在のまま、私は本邸の皆様の力を借りて、自分の母乳とヤギの乳とでヴィクトルを育てました。


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