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女神との旅 バルトル視点
しおりを挟む「バルぅ…もう………もう!」
旅に出てからこっち、何度も何度もエリサを抱いて、愛を伝えた。
快楽に溺れたエリサはいつでも、俺に対して《愛しい》という瞳を向けて、俺の子種を強請った。
その都度、俺は溢れる程の子種をエリサに注いだ。
けれど、寝落ちた後には必ずと言って良いほどに俺との離婚を告げた。
──寝言だから、そういう夢を見ているだけだろう。
そう考えるようにしていた。
けれど、毎度のように無意識で《離婚》が口から出てしまうということは、心の奥底にはいつでも俺との《離婚》があるということなのだろうと思った。
俺は、毎晩全身でエリサに愛を伝えながらも、だんだんと不安になって行った。
そんな時に馬車の事故があり、俺は怪我のせいでエリサを抱けなくなってしまった。
──愛を伝えなくては。
でも、体に刻むことはできない。
…となれば、もうエリサに縋ることしかできなかった。
不安で離してやれなくなり、手を繋いでいたり膝に乗せたり、とにかくどこか触れていたかった。
エリサはそんな面倒な俺に付き添い、付き合ってくれた。
怪我が治った時には、明るい内から俺を受け入れてくれた。
想いが通じ合ったと、とても嬉しかった。
けれどまさか、《王妃のお茶会》でエリサが蔑まれていたとは……
侯爵家とは領地の境を接する伯爵は、確かに出世という欲が強く、金儲けの好きな男だと思っていた。
ただ、それは夫人の教育の賜物ではなく、元来伯爵という人物が持つものであると認識していたのだ。
だから夫人は無害であると、勝手に考えていた。
昨日は昼食を摂りながら、俺が当主となった後も交流を続けましょうと話が纏まり、王都から街道を通そうと、お茶会の後に書類を作成しようということになっていたのだった。
エリサに対するものは夫人の独断のようだったが、夫人はこの1年、エリサに懐妊の知らせがないことで、俺がエリサを借金のカタとして契約結婚をしているのだと、なぜかそう確信を持ったらしい。
そこで、エリサを次期侯爵夫人の座から引き摺り下ろし、代わりに娘のうちの誰かを後釜にと計画していたとのことだった。
だから、馬車の中で俺とエリサが熱烈なキスをしているのを見て、卒倒したそうだ。
目覚めた夫人は、有無を言えないまま伯爵に離縁された。
娘たちも夫人と共に家を出された。
あの夫人の実家は、子爵家だった筈だ。
ただし、現在は叔父一家が継いでいる。
夫人は伯爵夫人として、また、王妃のお茶会では年若い夫人達の見本として数多くの夫人達へ、貴族の夫人とは何たるかを教育してきたと言う。
その一環として実家を継いだ従兄の奥方にも何度か口を出して煙たがられていたのだそうだ。
……としたら、どこへ行くのか。
まぁ、俺としてはあまり興味はないのだが。
今朝。俺はとても幸せな夢を見た。
エリサが俺を愛していると言ってくれたのだ。
俺は涙を流して喜んだ。
必ず幸せにすると誓った。
朝、エリサに起こされて目が覚めた。
侯爵家の迎えが来たのだ。
迎えに来たのは、領地で半隠居状態だった《じい》こと先々代執事長だった。
エリサを馬車に乗せたところで、侯爵領の治療師と共にヨセフのいる治療院へ向かうことになった。
「坊ちゃま、奥様なら、馬車にてお待ちですよ。」
エリサを気にする俺に、じいは何度となく告げた。
けれど、宿の前まで戻った俺の前にあったのは、見知らぬ女が乗る侯爵家の馬車だった。
「エリサ…エリサは?」
問いかける俺に対して、見知らぬ女は言った。
「わたくしがエリサでございます。」
と。
最愛の女神を失ってしまった俺は、目の前が真っ暗になった。
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