旦那様と私の、離・婚前旅行

325号室の住人

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新伯爵

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「大丈夫かい? エリサ。顔色が悪い。馬車に酔っただろうか。」

バルトルが勘違いをして私を窓際へ運んでくれました。
隙間のようにわずかに窓を開けたので、外の風が気持ち良かったです。

けれどその時、私は車窓に違和感を感じました。
先に出たはずの、侯爵家当主夫妻の乗る馬車も、レレキさん達の馬も見当たらないのです。

「バルトル? 侯爵領の本邸に帰るのではないの?」

私が軽く訊ねると、

「あぁ。俺は侯爵を継がない。継ぐのは弟のサルエルだよ。」
「え!」
「その代わり、母の実家のツテで、新たに制定された伯爵になることになったんだ。」
「伯爵? それってまさか…」
「あぁ。あの伯爵が平民の炭鉱夫になることに決まって、俺がその領土を引き受けた。
それで諸々時間が掛かっていたんだ。なかなか会えなくてごめん。」
「あ……」

私は、開いた口が塞がらなかった。






「着いたよ。」

馬車が停まるとバルトルが到着を告げ、私達は馬車を降りることになりました。

先に馬車を降りたバルトルは、エスコートのために右手のみを差し出すのではなく、なぜか両手を突き出しました。

私が首を傾げると、バルトルはあっと言う間に私のことを抱き上げてしまいます。

私を抱き上げたバルトルが向きをかえると、正面の門から玄関アプローチまでの長い距離、左右にメイド服、下男服、少し進めば侍女服に侍従服、玄関扉がはっきりと見える頃には、執事服に城の女官服と、長い長い出迎えの行列ができていました。

その道を進みながら、

「おめでとうございます。」
「領主様、バンザイ!」

次々にお祝いの言葉を受けては、バルトルの腕の中から会釈をしたりして返しました。

そうして、邸の玄関扉までやって来た時でした。

くるりとバルトルが振り返りました。
その頃には左右に別れていた使用人たちもひとかたまりになっていました。

「では諸君、俺はこれから初夜に入る。諸君らも1週間の休暇を各自楽しんでくれ。
ただし、この邸に入ることは許さぬ!」

「「「「「「「「「「「「御意!」」」」」」」」」」」」

すると、群衆と化した使用人達は一斉に散り散りになりました。

「ふぅ!」

バルトルは、溜め息とも気合とも取れる息を吐き出すと、何とも嬉しそうな表情で私を見下ろしました。

「さぁ、エリサ。俺と一緒に初夜をしようか!」
「はい。」

バルトルは玄関の扉の中へ入ると施錠しました。

それから裏口へ回ると裏口の扉も施錠し、洗濯婦達の出入りする扉も下男たちの詰め所と繋がる廊下も、窓という窓にも全て施錠し、同様に2階も、屋根裏の使用人の個室も、全て施錠すると、3階の窓に1つ1つ施錠しながら一番奥の部屋までやって来ました。

バルトルはそこで私を腕から降ろすと、その扉を左右に開き、施錠しました。

それから先は私をエスコートして歩き、そのまま奥の奥にある寝室にやって来たのでした。


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