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しおりを挟むハァッハァッハァッ…
互いに呼吸が荒いまま、睨み合う。
逆光になっていて、こちらから見上げる顔は暗くて判別ができない。
すると、先に呼吸を整えた上になっている奴から声が掛かった。
「やっと捕まえたよ、ヒューバート君。」
その声は、前世で嫌というほどリプレイした、第2王子のデリー殿下のものだった。
「やっと罠に掛かってくれて嬉しいよ。」
「は?」
「気付かなかった? あの扉のこっちに、城の僕の部屋を繋げてみたんだ。」
「へ?」
「ねぇ、どうしてこんなに危ないことしたの?」
「ん?」
「《学園内に住む》なんて。この学園はいつだって、婚約者のアリッサを監視するという名目でメントの魔法で見張られているよ。ここで着替えでもしたらそれも覗かれるのに。」
「な…!」
「私は君を気に入っているからね、私は君を守ったんだよ。」
「でも《罠》って…」
「それはそれ、これはこれだよ。」
「う…」
デリー殿下は王子なだけあって、笑顔に雄っぽい色気が纏わりついていて眩しい程にギラギラしていた。
あの窓やモニタ越しに見ていた時は爽やかなキラキラだったのに、今は真っ直ぐに見られない程の圧もある。
──ん? ギラギラ?
気付いた時には、唇を奪われていた。
「……んっ…んんんぅっ……」
自分に覆い被さっている人間を自分の上からどかすなんて、僕にはどうしたってできなかった。
キスをされれば、舌同士の絡み合いが深くなるにつれて少しずつ頭にモヤがかかったように夢中になって、気付いた時には服を剥かれていた。
王子の細い指先が僕の胸の先を弾くと、自然と腰が揺れた。
「うん、やっぱりかわいいね。ヒュー。」
耳元に煽るようなセリフを囁かれ、まだ硬さのない切っ先をやわやわと撫でられるのがものすごい快感を連れてきて、前世と今を合わせても初めて、他人の手でイく。
「んんんっ……ふぅ!!」
全身の強い緊張ののちの弛緩。
頭は真っ白で、続く荒れた呼吸さえ気持ちいい。
呼吸が落ち着いてくると、どうでもいいようないろいろなことが頭の中を巡った。
──イく時って、叫んだりするんじゃなかったか?
途端に恥ずかしくなって、顔を庇ってベッドの上を転がった。
すると、後頭部を優しい手付きで撫でられた。
「がんばったね。上手にイけてた。」
「殿下…でも!」
「初めてなんだろう? 私の時は、ただ傷付けられただけだった。痛いだけで…
私はね、ゆっくり時間を掛けて愛したいんだよ、ヒュー。
だから、今日はここまで。」
優しい声音と優しい手付きに、僕はいつの間にかそのまま眠っていたんだ。
そして、朝……
目を覚ます。
ここはただの第4書庫だ。
この部屋は昔、住人のような教授が居て、きちんと研究室として機能していたのは調査済み。
だからこの部屋、室内に水道が通っているんだ。
僕は簡単に顔を洗うと、着替えて扉を潜り、施錠代わりに結界を張る。
それから学食で朝食を食べ、授業前に勉強したい奴を装って図書館へ向かった。
それから、放課後……
昨日と同じように靴を替えると、扉の結界を解いて第4書庫に入る。
結界で施錠して振り返ると、そこは……
「え? 昨日のは、夢だったんじゃ?」
「違うよ。夜が明けてから、魔法を解いただけだよ。さぁ、今日も私に愛されて。」
ギラギラした殿下に、唇を奪われ…
今日も高級なベッドでイく。
そんな日々が、続いて行った。
そうして巡ってきた1学年上の卒業式。次男クン連合とシャリリアの断罪の日……
途中からアリッサいじめに加担してなかったデリー殿下も、彼らと同席している。
けれど、デリー殿下は異世界へ転移させられた訳では無い。
なぜなら……
断罪を見届けた僕は、校内を走った。
そしてやって来たのは、僕の住まいである第4書庫だ。
鍵が壊れた扉に代わりに張った結界を潜り、扉を開けば、そこにはギラギラの笑顔の愛しい人が、これまでより幾分質素な部屋で待ち構えていた。
デリーは、彼らの断罪直前に父王に申し出た。
婚姻したい者が居る。
けれど、相手は男だ…と。
世間体を考えた父王と第1王子は、デリーを城の高い塔へ幽閉し、デリーは魔法で第4書庫の扉とその塔の部屋とを繋げたのだ。
最高学年になった僕も、毎日放課後になると一目散にあの部屋を目指した。
僕を愛してくれる君の待つ、あの秘密の部屋へ。
それからまた君に愛されながら日々は過ぎ去り、僕も学園の卒業の日をを迎えた。
卒業式を終えた僕が向かうのは、もちろん秘密のあの部屋。
扉を開くと、彼はすっかり旅支度を整えていた。
「お待たせしました。さぁ、行きましょう。」
「あぁ!」
僕とデリーはその日、手を繋いであの部屋の扉から外へ出た。
これから平民として一緒に生活する僕ら。
いろいろな困難はあるだろうと思うけれど、彼と2人なら乗り越えて行けると自信を持って言える。
「「ぎゃーーーわーーーー! 虫だぁ!!!」」
その晩には野宿を諦めて秘密の部屋で眠ったのは、仕方ない、よね………
おしまい
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