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しおりを挟む『え…今何て言ったのさ?』
「だから、『俺はどうやら実体を持たなくても存在できるようだ』って言った。」
『違うよ、その後だよ。』
「あと? 『だからこの体はお前に返そうと思う。』って言ったが?」
『それって、もうこの体がボクだけのものになるってこと?』
「そうだ。それで、ちょっと親に会いに行った方が良いってことになった。」
『でもそれじゃ、ヴァルが悲しむんじゃない?』
「本来の力の使い方を習いに行くだけだぞ?」
『それでも! 暫く、ヴァルとは会えなくなるじゃない? もしかしたら、ボクが間男するかもしれないよ?』
「良いんじゃないか? もともとヴァルを初めて抱いたのはこの体なんだし。
何なら、もともと俺など存在しなかったって風に、お前とヴァルの記憶も弄れるらしいし。」
『やだ! それは絶対にイヤだよ! きっとヴァルだってイヤだって言うハズだよ!』
「まぁ、さ、とりあえず! 早く行けば早く帰れるみたいだし、行ってくるよ。」
「うぅ…ぁあああああー!!!」
目が覚めた。
僕は大きなベッドに2人…
ベッドの右側を見て横たわる僕の前には、髪の長さがアレンとは違う…え、誰?
すると、アレン?が、こちらへ寝返りをうち、僕を抱き締めた。
──うん、この抱かれ心地、確かにアレンだ。
「うん、ボクはアレンだ。元王子のアレンなんだよ。ただ、今この体にいるのはボク1人なんだ。」
「え?」
ここで体を離される。
改めて見てみれば、髪色はアレンより濃い草色で、髪は肩につくかつかないか、瞳の色は金で、目の形は丸く、どちらかと言えばかわいらしい顔立ちだった。
本来のアレン様はこんな顔だったんだね。
アレンが入ることで顔立ちが変わったなら、お城から脱するのも意外とラクだったかもしれない。
「あっちのアレンはね、力の継承の関係で、実の親に会いに行ったんだ。《大樹の神》と《月の女神》のところへ。」
「そうなんですね…昨日のは、最後の思い出作りみたいな感じだったのかな?」
「違うよ。また帰って来るって言ってたし。」
僕は、いつになるかわからない再会に、明らかに気分が落ち込んでしまった。
「どっちにしろさ、診療所はあっちのアレンが帰ってこないことには再開できないからさ、ボクと一緒にここで彼を持たない?
とりあえず、この体はまだ疲れてるみたいで…
ヴァルさえ良ければ、ボクと一緒に手を繋いで一緒に寝ませんか?」
アレン様は僕に手を差し出す。
僕は少しだけ考えて、それからアレン様の手を取った。
2人で並んで横になる。
何故かお互いに、前みたいにキスをしたりしようという気持ちもなく、そのまま目を閉じてぐっすりと眠った。
そんな日の、深夜…
「んー…これは、浮気か?」
夢の中、聞き覚えのある声だと思っていたら、どうやら現実だったらしい。
なぜなら……
ちゃぽんっ…
身に覚えのあり過ぎる水音に、身に覚えのあり過ぎる湿気。ここは……
瞼を上げれば、ここはいつもの《回復の泉》だ。
ぱしゃんっ
水を掻くようにして上体を起こそうとして、腹に回る蔓でしっかりと捕らえられていることに気付く。
「え…?」
振り返れば、王都の神殿に仕える神官みたいな神聖な服に身を包んだアレンが、しゃがんで頰杖をつき、陸から僕を見ていた。
「アレン?」
声を掛けても、ジトッとした視線を寄越すばかりだ。
「本物? 帰って来たの?」
すると、
「カァー! もう無理! もう飽きた!」
言って次々衣装を脱ぎ散らかすと、大きな水音と共にアレンがこちらへやって来た。
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