国外追放になった僕が、隣国で幸せになる話(仮タイトル)

325号室の住人

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その時、僕の右耳がチリリと痛んで転移陣が現れると、その中から薄い草色の髪を靡かせた女神が降臨した。

『《女神》だと? 俺は男だが?』

振り返って僕の頭の中へ悪態をつく女いや、アレンは、《先生》を見据えると足を肩幅に開いて短剣を構えた。

「よく俺の存在がわかったな!」
「お前は《大樹の神》と《月の女神》の子だな。不遇のアレン王子に憑いたか。原案だけにあった役柄のストーリーテラーだから、魂がこちらに運ばれてから体がないのに驚いたクチだろう。」

「アレン?」

「あぁ、実は大層な役柄だったらしくてな。俺もさっき、こっちの神様であるじいさんから、ピャリを通して聞いたところなんだ。
そんな訳で、出て来るのが遅くなってごめんな。」

アレンはそう言うと魔法なのか短剣を消し、僕にいつもの診察着を着せて紐を固結びにすると、そのままふわりと抱き締める。

「アレン…」

僕はすごく安心できて、そのまま胸に縋り付いていたくなった。
《先生》は気持ち悪いし、あんなのに対峙するなんてやっぱり気持ち悪いし、今なら恥ずかしい気持ちよりもそちらが勝って泣けると思うし。

すると、イライラした口調で《先生》が言った。

「お前ら、いい加減にしないか。この世界でだって、シュウ君のハジメテは私のものなのだ! シュウから離れろ!!」

《先生》は再び仮住まいの体の上半身を起こすと、僕らに向かってきた!

アレンは僕を背中に庇いながら、魔法なのか再び短剣を取り出して構えると、《先生》と向かい合う。

………けれど、一度回路を断絶してしまった体と《先生》本体とは、直ぐに繋がらなかったらしい。

股間に下がる《先生》の本体は声に出して様々なことを体に命令する。
しかし、魔物に憑依はされているものの、本来あるべき魂は既に抜けてしまっている体というものは、非常に脆く、血が通うことがないため筋肉が痩せ、それでも憑依した魔物によって生者では考えられない関節の使い方などしていたのだろう。

あり得ない角度で開脚して膝を後ろへ向けたままガニ股で右へ移動しようとし、上半身は腕を置いてけぼりにしたまま左へ向かおうとし、でももちろん《先生》は前進して僕らに向かって来ようとした訳で…
要するに、僕らのところへやって来る前に、体を壊してしまった。

そして積み木のように崩れた体の中から、尺取り虫のように這い出てきた《先生》は、待ち構えていたアレンの短剣によって貫かれた。

声にならないような爆音が響いたけれど、それも1回で沈黙し、《先生》はコト切れた、らしい。

だって、アレンが天井に向かって叫んでいたから……

「ゴルアァ、クソジジイ! 約束通りアイツはヤッてやったわい! 早よぉ回収せい!!」

すると…

「ふぉふぉふぉふぉふぉ…」

本当に天井を突き抜けながら、見ず知らずのお爺さんがピャリを従えて下りてきた。

「ちゃんとあの剣で貫いた。アイツの魂ごと、な!」

《先生》のところにはピャリが向かい、何でできてるのかわからないゴツい箱に《先生》を入れると、首から提げた何個かわからない程の数のカギ束を服の中から取り出し、次々に施錠して行く。

かなりの時間を掛けて施錠を終え、箱をお爺さんに渡すと、カギ束をまた服の中に戻して最初の位置に戻った。

「ご苦労。」
「いいえ。」

そのやり取りの声に聞き覚えがある。
お爺さんは何度か喋っていたとしても、普通に喋るこのピャリの声…コレって……

「約束だ。数分で構わないか?」

お爺さんの声にピャリが頷くと、そのまま僕の方を見た。


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