国外追放になった僕が、隣国で幸せになる話(仮タイトル)

325号室の住人

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朝…

窓からの陽射しで自然と瞼が上がると、先に起きていたらしいアレンがニヤニヤしながら僕を眺めていた。

アレンに腕枕され、反対側の手には頬を撫でられている。
それが、昨日悪漢に殴られた側の頬だったのを思い出し…

──そうか、そうだよ。傷を確認してたんだよ!

とりあえず、全然そういうんじゃないのだと。自分を落ち着かせる。

──でも美しいアレンに、間近で、朝から、こんな……

僕は瞬時に真っ赤になってしまったのだろう。顔がすごく熱いのだが…

「おはよう…えっと、シュヴァル。」
「《ヴァル》で構いません。」
「わかったヴァル、おはよう。」

彼の声で聞く自分の名前が新鮮な感じに聞こえて、またもう1段顔が赤さを増す。

「おはよう、アレン。」

僕も彼に返そうと名前を呼べば、

ちゅっ…

額にキスが落ちてきた。

顔が熱すぎて、考えが纏まらない。
と言うか、何か別人みたいなんだが…?

「その顔、誘ってる? なんてな。ふふ…」

アレンは僕の耳元でそんなことを言って、僕を更にもう1段真っ赤にさせると、掛布を捲ってベッドから出て行ってしまった。

背中越しに口笛も聞こえ、淡草色の髪も心なしか機嫌良さそうに跳ねている。

彼の背中を眺めながら、深呼吸をする。
それでも、なかなか頬の熱は収まらない。

やっと顔の熱が収まったのは、階下からベーコンを焼くいい匂いがし始めた頃だった。






「シュヴァ、起きろ! 起きろ!」

真っ赤になった両頬を押さえてベッドを転がっていると、《おっさん》が起こしに来た。

「神から言われた。お前がマスターを癒すと。
《ちんちくりん》はダメ。アレンを癒す、大事な奴だ、名前で呼べ、と。」

「わかった。それじゃ僕も、《おっさん》じゃダメだよな、ピャリ。」

すると《おっさん》はものすごい厳しい目つきで僕を睨む。

「オレ、先輩。先輩。」

《おっさん》はドヤ顔だ。

「呼べ。先輩。先輩。」
「わかった。《先輩》。」
「フッフン!」

──メチャメチャ嬉しそうだ。

「オレ、先輩。先輩。」
「はいはい。《先輩》。」

その時、《先輩》が急に直立不動になり、白目になった。
驚いてそのまま観察していると、次の瞬間には普通の《先輩》に戻った。

「シュヴァ、ごはん。ごはん。マスター、呼ぶ。」
「わかった。行こう!《先輩》。」

すると《先輩》は、徐ろに僕に近付き、あっという間に僕を小脇に抱える。

そして……

──うわあああぁぁぁぁぁーーーーー!!!

「マッハで。マッハで。マッハで。マッハで…」

すごい勢いで移動しながら、《先輩》は意味のわからない言葉─呪文─を唱えている。

そうして、頭を庇って進んだ先の扉を潜ったところで放り出され、僕は床を前転しながら受け身を取った。



「おはよう、ヴァル。食事にしよう。」

今日は珍しく髪を高い位置で縛ったアレンが、僕の頭の上からガキんちょみたいな笑顔で僕を見下ろしている。

胸がギュッとして、また顔が熱くなりかけ…

──ダメだろ僕。平常心、平常心だ。

「おはよう、アレン。あの…食事の用意、ありがとう。」
「いや。今日は珍しくよく眠れて気分がいいんだ。それに、自分以外の分を用意するのってかなり久しぶりでさ。ヴァルの好みもわかんねぇし、ちょっと作りすぎた…かも?
ま、食おうぜ。」

アレンに手を引かれて立ち上がり、そのまま食卓に案内されると、最初にここへ来てシェミリエ様と話したテーブルにはところ狭しと大皿料理が並んでいた。

「さ、マナーも何もなくていい。どれでも好きなモンを食え!」
「はい! いただきます!!」

向かい側で美しい仕草で食事をするアレンに見惚れながら腹を鳴らした僕は、どれもこれも美味しい料理を力いっぱい食べることに集中して、できるだけアレンの方を見ないようにするのだった。


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