8 / 37
8
しおりを挟む夕方になり辺りが茜色に染まると、この世界特有の蒼い月と寄り添い星が空に浮かぶ。
これは、毎日夜と呼ばれる6時から朝の6時の天頂に輝き、その時間を過ぎれば陽の光に霞んで見えなくなる。
──本当に、この国は世界の中心にあるのだな…
僕の出身国はこの国の西隣に位置する。
そのため天頂を見上げても、月と寄り添い星は真上とはいかないのだ。
そろそろ良いかと建物の中へ戻ると、奥の部屋から深い森の葉のような色のもやもやがこちらへ流れて来る。
不審に思って足音を忍ばせ近付くとそこはお勝手で、もやもやと共に幾種類もの草を煮詰めたような匂いが漂ってきた。
ただし、飲食に使うならば口に入れるのはイヤ、貼り薬や塗り薬にするのでも鼻が曲がりそうな悪臭を発している。
かまどで鍋を混ぜているのは、もうすっかり見知った薄い草色の髪色の男かと思いきや小さな子どもだった。
ただ頭の部分をくり抜いただけの布を纏って、腰の辺りをベルトのように縄で縛り、そこへまるで《かかし》のような棒きれの手足をくっつけたような子どもは、頭の天辺で茜色の髪もまた縄で縛っているから女の子かもしれない。
柄の長い木匙で大鍋をぐるりとやると、信じられないことに木匙に纏わりつく草色のドロドロを赤い舌でペロリと舐めた。
──うげぇ…
実際に味わわなくても安易に想像できてしまって、思わず出そうになってしまった声は飲み込んだ…筈だった。
なのに…
「誰だ!」
子どもは振り返った。
けれどその顔面は子どものものではなく完全に《おっさん》で、驚き過ぎた僕は、
「ひぇぇぇぇ!!」
変な声を上げたまま数歩後退ってから走って逃げた。
最初の扉を背中で押して開く。
外へ通じる扉かと思いきや、開くとそこは…
「どうしたんだ?」
聞き覚えのある男声。
振り返ればやはり、口の悪い美しい人…この部屋の主だった。ここは診察室だったとホッと胸を撫で下ろしたその時…
バンッ!!!
「マスター!! 変な《ちんちくりん》が居たぞ!!! あ!!!!」
先程の《おっさん》が、殺気ビンビンのまま頭の上から僕の顔を見下ろした。
「こいつだ! この《ちんちくりん》だ!!」
僕を指差して、僕の周りをぐるぐると回る。
「マスター、こいつだ! こいつだ!! これが《ちんちくりん》だ!! こいつ! こいつ!」
すると、
パタッ…
なぜが《おっさん》がブッ倒れた。
顔を見れば、黒の瞳がぐりんぐりん回っているのがわかった。
「チッ………またかよピャリ。」
エメラルドの瞳が冷ややかに《おっさん》を見下ろすと、それだけで《おっさん》の上に空色の転移陣が展開され、拡大して《おっさん》の上から床まで進むと、《おっさん》は瞬間的にその場から姿を消した。
「ちょっと待機場所へ戻しただけだ。薬もできたみたいだしな。」
──何だか笑顔が怖い。
「ほら、診察台へ裸で転がれ!」
仰向けに横になろうとして、
「バカ! 背中の処置なんだから俯せだ!」
本当に筋肉がついているようでクルッと裏返され、あの後再び着せられたワンピース型の診察着を膝裏から襟足まで捲られた。
「あの1回じゃ、まだ依り代としてのニオイが残ってるから、コレだ。」
見せたのは、さっきまで《おっさん》が混ぜていた鍋の…
「オエェェェ…」
言いながら振り返ったのは、両手に肘までの革グローブとまるでお面のような革のマスク、帽子の中に髪の縛った部分だけまとめた、よく知る声の…
「誰うぇぇ…?」
「ピャリ、出てきて押さえろ!」
「応!」
再び空間から現れた《おっさん》に体を押さえつけられ、これでもかと背中一面にあの臭いモノを厚く塗られた。
乾いたら塗り、乾いたら塗り…で、それは夜通し続いたらしい。
……けど、僕が直接知ってるのは最初の一塗りだけだ。
暴れたり逃げ出したりしないように、眠りを誘う薬草も配合されているそうで、しっかり朝まで眠ってしまったから。
31
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
令息だった男娼は、かつての使用人にその身を買われる
すいかちゃん
BL
裕福な家庭で育った近衛育也は、父親が失踪した為に男娼として働く事になる。人形のように男に抱かれる日々を送る育也。そんな時、かつて使用人だった二階堂秋臣が現れ、破格の金額で育也を買うと言いだす。
かつての使用人であり、初恋の人でもあった秋臣を拒絶する育也。立場を利用して、その身体を好きにする秋臣。
2人はすれ違った心のまま、ただ身体を重ねる。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる