国外追放になった僕が、隣国で幸せになる話(仮タイトル)

325号室の住人

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夕方になり辺りが茜色に染まると、この世界特有の蒼い月と寄り添い星が空に浮かぶ。
これは、毎日夜と呼ばれる6時から朝の6時の天頂に輝き、その時間を過ぎれば陽の光に霞んで見えなくなる。

──本当に、この国は世界の中心にあるのだな…

僕の出身国はこの国の西隣に位置する。
そのため天頂を見上げても、月と寄り添い星は真上とはいかないのだ。

そろそろ良いかと建物の中へ戻ると、奥の部屋から深い森の葉のような色のもやもやがこちらへ流れて来る。
不審に思って足音を忍ばせ近付くとそこはお勝手で、もやもやと共に幾種類もの草を煮詰めたような匂いが漂ってきた。
ただし、飲食に使うならば口に入れるのはイヤ、貼り薬や塗り薬にするのでも鼻が曲がりそうな悪臭を発している。

かまどで鍋を混ぜているのは、もうすっかり見知った薄い草色の髪色の男かと思いきや小さな子どもだった。

ただ頭の部分をくり抜いただけの布を纏って、腰の辺りをベルトのように縄で縛り、そこへまるで《かかし》のような棒きれの手足をくっつけたような子どもは、頭の天辺で茜色の髪もまた縄で縛っているから女の子かもしれない。

柄の長い木匙で大鍋をぐるりとやると、信じられないことに木匙に纏わりつく草色のドロドロを赤い舌でペロリと舐めた。

──うげぇ…

実際に味わわなくても安易に想像できてしまって、思わず出そうになってしまった声は飲み込んだ…筈だった。

なのに…

「誰だ!」

子どもは振り返った。
けれどその顔面は子どものものではなく完全に《おっさん》で、驚き過ぎた僕は、

「ひぇぇぇぇ!!」

変な声を上げたまま数歩後退ってから走って逃げた。

最初の扉を背中で押して開く。
外へ通じる扉かと思いきや、開くとそこは…

「どうしたんだ?」

聞き覚えのある男声。
振り返ればやはり、口の悪い美しい人…この部屋の主だった。ここは診察室だったとホッと胸を撫で下ろしたその時…

バンッ!!!
「マスター!! 変な《ちんちくりん》が居たぞ!!! あ!!!!」

先程の《おっさん》が、殺気ビンビンのまま頭の上から僕の顔を見下ろした。

「こいつだ! この《ちんちくりん》だ!!」

僕を指差して、僕の周りをぐるぐると回る。

「マスター、こいつだ! こいつだ!! これが《ちんちくりん》だ!! こいつ! こいつ!」

すると、

パタッ…
なぜが《おっさん》がブッ倒れた。

顔を見れば、黒の瞳がぐりんぐりん回っているのがわかった。

「チッ………またかよピャリ。」

エメラルドの瞳が冷ややかに《おっさん》を見下ろすと、それだけで《おっさん》の上に空色の転移陣が展開され、拡大して《おっさん》の上から床まで進むと、《おっさん》は瞬間的にその場から姿を消した。

「ちょっと待機場所へ戻しただけだ。薬もできたみたいだしな。」

──何だか笑顔が怖い。

「ほら、診察台へ裸で転がれ!」

仰向けに横になろうとして、

「バカ! 背中の処置なんだから俯せだ!」

本当に筋肉がついているようでクルッと裏返され、あの後再び着せられたワンピース型の診察着を膝裏から襟足まで捲られた。

「あの1回じゃ、まだ依り代としてのニオイが残ってるから、コレだ。」

見せたのは、さっきまで《おっさん》が混ぜていた鍋の…

「オエェェェ…」

言いながら振り返ったのは、両手に肘までの革グローブとまるでお面のような革のマスク、帽子の中に髪の縛った部分だけまとめた、よく知る声の…

うぇぇ…?」

「ピャリ、出てきて押さえろ!」
「応!」

再び空間から現れた《おっさん》に体を押さえつけられ、これでもかと背中一面にあの臭いモノを厚く塗られた。

乾いたら塗り、乾いたら塗り…で、それは夜通し続いたらしい。

……けど、僕が直接知ってるのは最初の一塗りだけだ。

暴れたり逃げ出したりしないように、眠りを誘う薬草も配合されているそうで、しっかり朝まで眠ってしまったから。


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