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しおりを挟むちゅくっ
──痛っ…
背中に痛みを感じると、水中にぬるりと黒い…魚?
僕はその魚から逃げるように慌てて泳ぎ出す。
赤い橋の下を潜れば女性たちの声からは遠くなり、陸に見えるのも鮮やかな花畑から草の緑へ、木々が茂り日陰になる頃には意図せず岸へ上がってしまった。
とは言え、僕は体力の消耗も激しい上、魚に突かれてボロボロになった腰巻き1枚で体も濡れている。
腰巻きの紐を震える指で解き、体を拭いては絞る。
その時一陣の風が通り抜けたと思ったら、次の瞬間には僕は診察台に俯せに転がり、上からの舌打ちを浴びながら背中の治療を受けていた。
「目が覚めたのか?」
聞き覚えのある男声に、僕の顔を撫でる薄い草色の毛先がなんともくすぐったい。
くちゅんっ
「動くな!」
くしゃみが体を震わせてしまい、あの美しい男の大きな手のひらがピシリと俺の尻を打つ。
俯せで無防備な僕はどうにもすることができない。
「ったく! 何でこんなことになってるんだか。お前がここを発ってからまだ半日だぞ。」
プチッ
「んふっ…」
「動くなと言ってる。」
背中は魚に突付かれただけだと思っていたけれど、どうやら男は何かを摘んでは取り除いているようだ。
「ったく! こんなにたくさん産み付けられやがって!」
「へ?」
「完全に依り代になってんぞ!」
「まさか、生け贄って…」
「それでか! 男なのに水神の依り代にされるから、こんなことになるんだぞ、アホ!」
「ア…?」
「バカって意味だ。」
「バ…?」
「もういい! 頭悪いって意味だよ!」
「はぁ…」
チッ
「いくつあんだよ…ハァ…サーチ! ウゲェ…お前もう依り代になっちまえよ。クソ!」
プチッ…プツッ…ブチッ…ブッブッブッブッ……
そのまま無言の時間が過ぎる。
そうして、窓辺から明るい陽が射し込む頃…
「どへぇ…終わったァ……」
そんな声と共に背中からの圧が消えた。
──やっと終わったのか?
僕もやっと気が緩み、そのまま眠りについた。
「オラ、起きやがれ!」
ドゴッ
目覚めは、背中の痛みだった。
昨日のチリチリした痛みではない。
床へ落とされた痛みだ。
「診察台はコレしかないんだ。処置が終わってるんだから、どっか行っちまえぇぇーーー!!」
「うわぁぁぁーーーー…」
男に振り回されて、診察室から外へぶっ飛ばされた。
そこへ、全身が白いイボに覆われた真っ赤な肌の大男が、治癒の魔法の薄緑を纏わせ、空中を横たわったまま足を先にして診察室へ運ばれて行く。
頭が診察室の扉を潜ると同時に扉は閉ざされ、直後に響くのはグオォォ…という地響きのような唸り声だ。
耳を塞ぎたくて、でも塞いだとしても漏れ聞こえる大きさ音に、僕はそのまま建物から外へ飛び出した。
建物の扉の外には、跪いて頭を垂れて祈りを捧げる人々が見渡す限りに居る。
僕は遠くに行くのは諦めて、建物の外壁に背中を凭れさせて彼らを眺める。
建物から出できた人物が居ても気に留めず一心に祈る姿は、先程運ばれて行ったのがかなりの人格者であり権力者であることを示している。
それに…
祈る彼らの身体的特徴を見ながら気づいたことがあった。
彼らは、大男であり大女、老女であり美魔女、爪が狂暴な獣のようてあったり、人間の耳の場所ではない場所に立ち上がる色とりどりの毛に覆われた様々な形の耳に、同色の様々な形の尾、玉虫の背よりも多色な髪…彼らは………
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