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しおりを挟む──馬車道だ!
拓けた場所に出たのは、辺りが朝焼けに染まった頃だった。
商品運搬に適した舗装を見て安心してしまったのがいけなかった。
僕はその馬車道の真ん中で、膝が抜けて座り込んでしまった。
そこへ、上空に魔法の発動を感じた次の瞬間、僕の頭上の朝焼け感は瞬時に消え、日陰の明るさから再び夜に逆戻り。
──ん?
次の瞬間に聞こえたのは馬の嘶き。
僕は何となく状況を察し、両腕で頭を庇って伏せの姿勢に入る途中で……
ひゅっ
ズドォォォーーーーン!!!
僕の背中ギリギリの場所に馬車が着地した。
そこへ、
ギギギギギギィ…
落下の衝撃で若干開きにくくなった扉が開く音…
僕? 流石の僕も、風圧で俯せ姿勢になったまま動けない。
「……………」
同じ国の訛のない綺麗な大陸語が聞こえたような気がして、声に集中する。
「えぇ、確かにそうです。想定からだいぶ離れていたけれど、探す手間が省けたというものですわ。」
──視線を感じる。…2人…いや、3人分?
「承知しました。」
「でしたら予定通り、ここに乗せてくださらない?」
「馭者台の方が宜しいのでは?」
「いいえ。彼はわたくしの大事な《駒》。彼無くしては、わたくしの平穏は…」
「畏まりました。」
馭者台から地面に下りるためのステップがギシギシと音を立てている。降りてきたのは余程の大男のようだが、頭を動かせず確認できない。
僕は身を守るため咄嗟に甲羅に引っ込んだ亀のような姿勢を取るけれど、そんな甲斐もなく首根っこを掴まれて、まるで親猫に運ばれる子猫のように持ち上げられた。
一瞬見えたのは、熊のような大男で…
──これ、僕の今生終わったな…
最期を悟った僕を面倒臭そうにちょっと左右に振ると、ポイッと馬車の箱の中へ投げ込む。
反射のように身を縮めて受け身を取ったところまでが、僕の長い1日の記憶となった。
「あら。目覚めたようですわ。」
サイコロを転がしたようなコロコロとした笑い声と一緒に聞こえたのは、訛のない大陸語─高貴な喋りの─女声だった。
「到達予定地点よりもだいぶ西へ逸れているんですもの。間違えて轢きそうになって慌てましたが…
ルートには入れそうで安心しましたわ。ウフフ…」
僕は声の主を探して室内を探すけれど、人影はない。
「ここはこの国の医療室なのですわ。健常な人間には濃すぎる魔気を溜めている場所なので、わたくしは部屋の外ですの。」
枕元に媒介になる水晶がチカチカと桃色に光っているのを確認して手を伸ばすと…
「うん。左手もちゃんと治癒できていますわね。わたくしの拙い魔法でも掛けておいて良かったですわ。うふっ…」
確かにと左手を握ってみれば、確かに違和感なく動く。
『斥候3』や『偵察基礎』、『降下訓練実習』など、単位のために選択した授業も真面目に受けていて、本当に良かったと心から思った。
ぐぅぅ~~~…
また、コロコロとした笑い声が聞こえる。
恥ずかしくて顔が熱い。
「目が覚めたのだから、この後その部屋を出られるそうですわ。」
「んぎゃ!」
令嬢の声の直後にベッドの上に空色の転移陣が浮かび上がると、僕は次の瞬間には別のベッドで診察用の白っぽい膝丈のワンピースを胸まで捲られて、美しい人に腹を弄られていた。
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