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しおりを挟む「ねぇ、彼女。さっきからココにいるよね?」
俺が人の気配に顔をあげると、
「思った通りの美人だァ!」
マンガから飛び出してきたような、チャラヤンキーが俺の正面に居た。
高身長から、背中を丸めるようにして無理矢理俺と目線を合わせ、やたらと話し掛けている。
……が、こちらはあいにくイヤホンから大音響のヘヴィメタ鑑賞中で、何を言っているかはわからない。
「なぁなぁ! これから俺と遊ばね?」
口がパクパクしていて意味がわからん。
俺は首を傾げる。
「お! 考えてくれてんの? 連れも来ないみたいじゃん。俺と遊ぼうぜ!」
その時、曲の最高潮で俺はヘッドバンキングを始める。
チャラヤンキーは何かパクパクすると、急に俺の腕を掴んだ。
──あ?
俺が目玉だけで目の前の男を睨んだ時だ。
同時に俺の視界が暗くなった。
スンッと香るのは、いつもイチが使っている制汗スプレーの柑橘臭と、イチの汗の匂いが雑ざったような…
俺は途端に、すごく安心した。
それで…その背中をギュッと握りしめて、デコもくっつけて、より近くで匂いを堪能した。
不意に俺の左耳のイヤホンが抜かれる。
その曲は、最後の最後におどろおどろしい低音で、こう言うんだ。
「ジ・エーーーーーーンドッ」
すると、どういう訳だかイチの向こうのチャラヤンキーが叫びながら回れ右して走り出した。
顔を上げた俺が首を傾げると、イチは俺の右手を掴んで早足でその場を離れた。
駅構内に入ると、先を急ぐ人々に紛れて、誰もこちらを注視しなくなった。
変わりに、イチの声も聞き辛いけど…
コーヒーショップと特急券販売所の間の壁に俺の背中を押し付けるように立たせると、イチは俺の右耳からもイヤホンを引き抜いて、無造作にジャケットのポケットに突っ込んだ。
それから、イチの手が俺の右頬をかすめ、右耳を引っ張られた。
「あだだだ…」
「サガリ、今日はコレは僕が持ってる。もう聞いちゃダメだからね!」
右耳に囁かれた言葉と、最後の《ね》が微妙に耳に残り、イチの手が離れたのと入れ替わるように、俺は自分の右耳に触れ、俯いた。
──恥ずい…たぶん俺、今真っ赤だ。
イチは俺の左手を引いて歩き出した。
──かわいいかわいいかわいい…カワイイ!!
僕は、ここまでの映画みたいな流れで、心臓がバクバクだった。
待ち合わせ場所では、サガリがチャラ男にナンパされていた。
しかも、いつもの曲を聞いているんだろう。ヘッドバンキングを始め、チャラ男はそれを頷きと受け取って、サガリの腕に触れ…
そこからは意識朦朧状態だ。
気付けばチャラ男に啖呵を切っていた。
「ハァ? こんな美人がヘビメタなんて聴くはずないだろう?」
小馬鹿にしたような態度のチャラ男に聞かせたのが、曲の最後の『ジ・エーーーーーーンドッ』。
体感的に、サガリがヘッドバンキングを始める時間から最後に一緒に言う『ジ・エーーーーーーンドッ』までの時間が染み付いていたので使えた技だが、正直、もうやりたくない。
俺の最愛の人が、俺の目の前で知らない男とラブホに行く約束をしている場面なんて、もう見たくないんだ。
チャラ男が叫び声を上げたりするから、僕達は瞬時に周りの視線を集めてしまった。
僕はもう、サガリを誰にも見せたくなくて、その場を離れた。
けど、そこでもなぜがサガリは照れたように真っ赤になって、顔を俯かせて……
──かわいいかわいいかわいい…カワイイ!!
僕はとにかく2人きりになりたくて、サガリの手を引き、目当ての不動産屋へ向かった。
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