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しおりを挟む「斉藤さん、ここなんですが…」
「はい。」
島津との突然の結婚から数ヶ月…
私は再び総務部の…主任に昇格していた。
……というのも、旭さんが寿退社してしまったので、後任にと指名されたが故、だ。
同じフロアの島津は、営業部の部長補佐になり、山代さんが部長に、父は部長から本部長になり、母は会長になって家に居ることが増えた。
それというのも、私、もうすぐ姉になるのです。
ギリギリ40代とはいえ超超高齢出産になるため、安定期が終わる頃から入院しているのだ。
「斉藤さん、営業部のプリンタなんだけど…」
「島津部長補佐、わざわざ貴方がいらっしゃらなくても構いませんのに…」
「スカイ…つれないこと言わないでくれよ。」
「ほら、皆が見ています。威厳を取り戻して!」
「じゃあ家で甘えさせて…」
「わかったから!」
総務部の扉すぐのカウンターでコソコソと話しているのは夫の灯。
暇な訳ないのに、日に1度はこうして私の顔を見にやって来る。
「斉藤さん、スミマセン。2階の照明なのですが…」
「それは業者さん案件だね。右から3冊目のファイルを…」
「ムムッ あいつ、最近スカイに近くないか?」
「同僚として適切な距離感だと思うけど?」
「それじゃ、仕事が終わったら待ってて!」
「はいはい。それじゃ、またね。」
営業部に戻る島津の背中を、お腹に手を当てて見送る。
──あなたのお父さんは、とてもカッコいいけれどかわいらしい人でもあるのよ。
まだ心拍さえ確認できない、小さい小さい私達のタマゴ。
島津には話してないけれど、産休に向けての準備はすすめている。
病院の予約は来週。
どうか、ちゃんと心拍が確認できますように。
「斉藤さん…斉藤空さん…中待合へどうぞ…」
「スカイ、行くよ。」
結局、島津にバレて一緒に産科まで来てしまいました。
でも、他の患者さん達も、各々旦那様や上のお子さん連れの方ばかり。
逆に1人で来た方が、訳ありそうで目立っていたかも。
そういえば、私は《斉藤》のまま。
あの当時は1人娘ということもあり、島津が《婿》に入ってくれた。
だからあの日に小出さんが叫んだ《島津スカ(イ)》とは、存在しなかったのだった。
「スカイ…きっと大丈夫だ。」
カーテンの向こう側では診察が始まり…
「心拍確認できましたよ。ほら、ここ。この辺りがピクピクしているのわかりますか。」
と。
「「わかります!!」」
2人で抱き合って喜びました。
あれからまた、数ヶ月。
お腹の中のタマゴが胎児となり、性別が男の子だと判明しました。
今は2人で彼につけたい名前の候補を考えているのですが…
「やっぱり、聞いてすぐに《男の子》だとわかる名前がいいよな。」
「キラキラネームはちょっと…」
2人の希望が候補を絞るほどではなく、決め手に欠けています。
「やっぱりさ、顔を見てから決めたいよ。」
「そうね。そうしましょう!」
どんな名前であれ、私達からの最初の贈り物になる名前。
大きくなれば、大人になれば、どんな名前であってもどこかしら不満が出てきたりするんじゃないかしら。
それでも、私達はその子に名前をつけなければならない。
その子の成長と、未来への夢をのせて…
私は、自分の名前がずっと好きではなかったけれど…
愛する灯にお腹の赤ちゃん、父母やみんなに囲まれて、とっても幸せに暮らせています。
お父さん、お母さん、この名前をありがとう。
おしまい
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