なぜか、同期のモテ男に好かれてしまったのですが…

325号室の住人

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「え…?」

島津は寝室には居なかった。
適当に着るものを探してから寝室を出るけれど、島津はどの部屋にも不在。
けれど玄関の操作は指紋や掌紋認証のようで、操作パネルの開け方すら分からなかった。



リビングへ戻ろうと踵を返した時…
背後で扉の開閉音がして、

「奥さんに出迎えて貰えるなんて、嬉しいよ。」

そそくさと靴を脱いだ島津に後ろから抱きすくめられ、振り返るような体勢で唇を塞がれた。

チュッ チュッ…

続くリップ音に、だんだん膝から力が抜けて行く。

頭の中が真っ白になった頃…

ピンポーン

「あ、そうだった。スカイ、早く!」

島津は私の手を取り、1番手前の右のドアへ引き込んだ。

てっきり居留守を使って襲われると思ってギュッと目を瞑ったのだけれど、

「スカイ、目を開けて。」

瞼を上げれば、そこは私の見知った財産がズラズラズラーッと並んでいた。

「え…コレって!」
「うん。奥さん、君の荷物だよ。」
「あ! これ、中身…」
「知ってる。BLだろ? スカイは好きなんだよね?」
「………」
「やっぱり、忘れちゃってたか。姉ちゃんの趣味のコスプレ衣装、作成からモデルから着付けからもろもろ、ずっと手伝わされてたんだよ。だからさ、スカイと初めて会ったの、就職するより前だよ。
姉の撮影会でシルヴァの衣装のまま俺が自販機求めて彷徨ってる時、全部売り切れになってるの教えてくれて、予備のスポドリ分けてくれたろ?」

こめかみに指をあてて記憶を辿ると、確かにそんなことがあった。

「でも、あの時は眼鏡のもやしっ子だった…よね?」
「そう。あのイベントの数日前に父が倒れてさ、姉が気分転換に誘ってくれたんだ。
あれから、だいぶ背も伸びたからな…
でも俺は、スカイと再会してすぐに気付いたよ。改めて…綺麗になったね、スカイ。」

島津は、イタズラが成功したようにニカッと笑う。
私は、頭がついて行かずにボーッとしてしまった。



『灯ぃ~、スカちゃ~ん、来たわよぉ~!!』

廊下から響く声に、私達は正気を取り戻した。

「そうだ! 今日は姉ちゃんと山代さん、叔父さんと美弥さんが来ることになってんだよ。
さぁ、早く着替えてくれ!」

私の最大の秘密である《腐女子》は、島津にとっくにバレていた。

ならば、もう私に隠すことなんてない。

私は見知った衣装ケースを見つけると、普段よく着ている部屋着を取り出した。



「お待たせ~!」

着替えた私はリビングに向かう。
廊下から1歩足を踏み入れると、みんながみんな思い思いの服装をしていた。

中でも島津が私と色違いの緑色のジャージを着ていたのには笑ってしまった。

他の夫婦も各々示し合わせたかのように似たようなテイストになっていて、面白かった。


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