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しおりを挟む「違うんです! 島津主任。これは、朝日主任の指示で…」
懇願するように縋り付こうとする小出他の手を躱しながら睨み付ける島津の後ろから…
「斉藤さん大丈夫かい? ほら島津くん、タオル忘れてるよ。」
「ありがとうございまっス!」
「うん。これは、僕の奥さんからの差し入れ。ほら、バスタオルの方が良かったでしょ?」
現営業部1課長にして来週から部長に昇格する山代が顔を出す。
バスタオルを受け取った島津は、小出のデスク上の仕事に関係ないモノを右腕1本で払って落とすとそこに私を下ろし、まず上着を脱がしてから後ろ頭で1本に括っていた髪を解く。
山代は総務部の入口にあるダンボールとガムテでテキパキと箱を組むと、
「えーっと、ウチの奥さんのデスクは…っと。」
「山代さん、旭さんのデスクはあちらですよ? 1番奥の右側です。」
「そうか、斉藤さんありがとう。」
「あれ? 今日は旭さんは…」
「実は昨晩、ちょっと抱き潰しちゃってね。丁度良い機会だから、そのまま寿退社してもらうことにしたんだ。
これまで自由にさせてきたんだけど、そのせいで大暴走しちゃってね。やっぱり、ある程度閉じ込めておいた方が良いかなって。」
「山代さん鬼畜ですか? いろいろヤバいですよ!」
「ハハハ…バレちゃったかぁ。」
山代さんの発言が溺愛鬼畜系で、笑顔の暗度が増す瞬間があってヤバい。
でも、小出さんたちはわかっているのだろうか、その矛先がまもなく自分たちに向かおうとしていることが。
小出さんたちは自分たちの保身のため、山代さんの最愛を盾にしようとしたのだ。
そんな彼女らを無罪放免とするとは到底思えない。
私の頭にバスタオルを被せて髪をガシガシと拭いていた島津は、ふとその手を止めて私と同じバスタオルに入ってくると、みんなに内緒でキスをした。
唇が離れる間際、島津が耳元に囁いた。
「俺もだよ。俺も、許す気はない。」
そして、たっぷり5秒間私を真正面からじっと見つめると、フッと笑顔を溢して離れて行く。
バスタオルから出る直前、島津の表情が固く険しく変わったのがわかった。
「あの…山代さん、そこは朝日さんのデスクですよ? 先程の放送では、山代さんの奥様って《島津さん》と仰るのでは?
でも、このフロアの《島津さん》は営業の島津主任だけですよね。」
ネイラーズのメンバーは、今度は山代さんの方へ駆け寄った。
「社長ったら、間違えちゃったのかしら。」
「山代さんの奥さんの名前なのに…」
「ですよねぇ。」
山代さんはせっせとダンボール箱の中へデスクの荷物を詰めて行く。
「山代さん、そっちの荷物は持ち帰りですよね。こっちの書類は会社のなんで俺が。営業で良いですよね。運びますよ。」
「サンキュー!」
島津がもう1つダンボールの箱を用意して山代さんに並ぶ。
「《島津》だったら、島津主任ですもんね。」
「2人が結婚とか、ヲタクの妄想じゃないんだから。」
「やだぁ!」
1人が島津の腕を軽く叩くようにしてから袖を軽く掴んだ。
瞬間、島津の動きが止まる。
それからゆっくりと袖を掴む腕の持ち主の方へ体を向けると、いつもの王子様のような営業スマイルを浮かべて言った。
「とても不快だから、その手を退けてもらえる?」
そこまで大きくないけれどよく通る声は、1番ドアに近い私にもハッキリと聞こえる。
もちろん、小出さんを含めたネイラーズにも聞こえたようで、彼女たちも動きと口を止めた。
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