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「2人で会う時以外、どうして離れないといけない?」



私と島津は、恋人繋ぎで近所のコインパーキングまでやって来た。

解かれることのない指先を絡めたまま精算している島津の横顔を見上げながら、自宅でのことがぐるぐると頭を巡った。

正直、あまりの急展開に頭がついて行かない。

私と部長はただの同姓だと思っていたのに、まさか父だったとは。
《斉藤》なんてたくさん居るし、画数の多い方の齋藤サンも私と同じ字を使うこともあるので特に気にしていなかった。
だいたい、職場ではではなくしていたから。

島津の車までやって来た。
彼の車はいわゆるSUV車で、広いと評判のパーキングだったはずが、両隣との間隔がほぼないほど狭く、圧迫感が酷く、とにかくゴツかった。

どう乗るのかと思えば、島津がポケットから取り出した何か小さなものを握って操作し…

──え? 無人なのに動いてる?

見た目とこの機能で絶対に高額だとわかる車を前に、空は少し緊張した。



たぶん島津の操作なのか勝手に開いた扉から中に入り、島津の手で自然に扉は閉められた。
シートは部長室のソファと同じ革張りで、座ればキュッと体を包み込んでくれ、何だかとても温かく感じる。

島津とやっと離れた右手には汗が滲み、恥ずかしくなってパタパタと空間を扇いだ。

続いてボンネット側を通った島津が隣に乗り込み、扉が閉まる。

あれだけゴツかったボディだけれど、想像していたよりも車内はオシャレでゆったりしていた。

「普段は後ろに姉貴と荷物載せるだけなんだ。助手席狭くないか?
ここについてるハンドルで…」

説明しながら、島津が覆い被さってきて、

「きゃっ!」
「すまない。」

咄嗟に声が出れば、島津が侘びて慌てて戻って行く。

運転席のシートに背中をつけた島津は右手で目元を覆っているけれど、精算機の白い灯りで島津の耳が赤いのがよく見えてしまう。

島津が照れていたことに気付き、でもどこか嬉しくて、私の頬も熱くなってきた。



ややあって、島津が自分の両頬をパンパンッと叩くと、エンジンがかかって車が動き出す。

そうして、交差点を3つほど過ぎた頃…
島津が徐ろに口を開いた。
冒頭の言葉である。

「2人で会う時以外、どうして離れないといけない?」

ただし、続きがある。
丁度目の前で赤信号につかまって、島津は車を停止させると空へ顔を向け、言った。

「あんまり俺を動揺させると、運転誤るから気を付けて返事して。」
「はい!」

驚いて、でも即座に返事だけ返してから空は頭の中にある言葉の中で島津が動揺しないだろうものを組み立てながら、言葉を紡いだ。






「実はね…これまでも何度か島津く…キャーッあかあかあかっり…君?え、ダメ? あああああかりっの、同期だからって、関係ない仕事が回ってきて残業したりしていて……
だから会社内での私の環境を考えると、私達はこれまで通りでいたいなぁって思ったの! ただそれだけだから、前見てキャー!!」

私は彼を見ながら話した。

《島津くん》や《あかり君》は、島津的にはアウトらしい。
今が車の中で2人きりならば、確かに《2人きり》だからみたい。


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