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しおりを挟む「あら、息ピッタリ。」
「ここでは近隣の迷惑だ。中へ入ろう。」
夜更けにマンション前で叫んでしまった私と島津に対して、母と部長が室内へ招き入れた。
母はコーヒーを淹れに行き、勝手知ったるという部長が、無駄のない動きで軽食を作っている。
時間的に、私達が空腹のままであると気付いたらしい。
本当に部長はフットワークが軽い。
叔父が軽食のサンドウィッチの載った皿を目の前に置くのとほぼ同時に、スカイのお母さんが俺とスカイ、叔父と自分の前にコーヒーを置いた。
スカイのお母さんに既視感がある。
まぁ、スカイに似ているからそのせいだろうとは思うのだが。
ただ、スカイは目元が涼やかで、お母さんの方は丸っこく少しつり上がって…いわゆる猫目というヤツだ。
何度か俺の左手の中のスカイの右手が抜け出そうと暴れるが、俺には全く放す気はない。
それどころか知らないふりをしながら自分の左手ごとスカイの右手を拐って俺の膝の上に乗せてみた。
着地の瞬間ビクッとしたけれど、以降は諦めたのか手に力は入らなくなった。
スカイの様子を窺えば、視線は俺で固定されている。
どうやら睨んでいるらしいのだが…
口角が下がっていなければ上目遣いにしか見えなかった。
俺の前に座ったスカイのお母さんは、
「お腹空いてるんでしょう? どうぞ。」
でも俺としては、こうしてお会いしたなら先に言いたいことがある。
「あの! その前に!」
と言って背筋を伸ばした。
「私は、島津 灯と申します。スカイさんとは同じ会社で働く同期です。
この場をお借りして…
スカイさんと、結婚を前提にお付き合いさせていただきます!!」
俺は言うと、力いっぱい頭を下げた。
「「ぷぷっ…ふふふっはは…あはははははは…!!!」」
島津から母への、《お願い》ではなく《宣言》に目を見開いて驚いているところへ、私の前に座る部長と部長の隣の母から大笑いが聞こえてきて今度はそちらを見て目を丸くした。
母は推しのお笑い芸人のギャグを見た時のようにお腹を抱えて笑っており、部長は島津とは親戚の手前笑ってはいけないと思いつつも笑ってしまうようで、母の方を向いて肩を震わせていた。
島津は結局、2人の笑い声が収まるまで頭を下げており…
ちょっと営業の根性を見たような気がした。
向かいの2人がやっとこさ落ち着いて、島津がゆっくりと顔を上げる。
その間ずっと右手を握られていたままの私は、島津が顔を上げるままに姿勢を正すと母たちの方を見た。
聞きたいことはたくさんあるけれど、まずは島津の宣言について何て口にするかに興味がある。
じっと母を見れば、母は部長とアイコンタクトを取るようにしてからひとつ頷くと口を開いた。
「私としては、2人の結婚に否やはないわ。でも…雅史の話では2人が今日両想いになったところだと聞いていたのと…
灯くんがこの人と同じことするから、つい笑っちゃったの。ごめんなさいね。」
母は部長の肘のあたりの服を掴みながら、最終的には笑顔で島津を見ている。
「あら、聞いてないのね。雅史も私の両親に、告白したその日に同じことを言ったのよ。
ただ、私の場合はまだ返事もしていなかったんだけど強引に…しかも今現在まだ、籍だけ入れて同居はしていないっていう……」
「それは……申し訳ない。」
「ふふっ。ちょっとイジワル言っただけよ。」
「美弥…」
「もう! ほら、ごめんごめん。」
母が、しょげる部長の頭を撫で撫でしている。
一体何を見せられているんだろうかと、言葉を失った。
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