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しおりを挟む島津の手を改札で離すことに成功し、私は今地下鉄に乗っている。
ドア前に立って、窓に映った自分をボーッと見ながら、少し前までこの手に触れていた島津を思い出す。
ちょっと悲しそうな表情をしていたのが気になる。
確かに私も本心を言えば離したくなかったし、できることならそのまま一晩一緒に居たいって言う気持ちもなかったとは言い難くて…
でも絶対にダメ。
私はもう大人だし、同期だからある程度知ってるとは言え知ってたハズの噂だって本当のことではなかった。
職場での嫌がらせ的な残業が面倒で、関わらないようにできるだけ視界に入れないようにしていたから、モテることと、お土産を買ってきてマメなことくらいの情報しかない。
なのに一晩一緒に過ごして、万が一、一線越えたりしてしまったら…
絶対に後々後悔すると思うから。
それに、最寄駅にはいつも母が迎えに来てくれている。
昨日まで何ともなかった娘が、急に男連れって、しかもイケメン枠の島津だなんて、帰りの車がたったの5分としても島津の情報開示に5分だなんてアウトだもの。
空はスマホを取り出す。
《今日は風に当たりたい気分。お迎え来なくていいからね。》
母の既読が付く前に鞄にしまう。
今朝着ていたスーツも入れているから、重さはともかく嵩張って邪魔くさい。
「はァ…」
空は再び、窓に映るメイクで濃い隈を隠して少し疲れた表情の自分をボーッと見る。
──私があの島津とね…
あのまま島津に送ってもらったという妄想をしてみる。
駅前までやって来て、母と鉢合わせする島津。
島津なら自然な感じで母に挨拶して、自然な感じで同乗して、自然な感じで家に招かれて、自然な感じで泊まって…ってありそう。
母も歓迎しそう。
だったら!
絶対に島津とこれ以上の関係になったらダメだと思う。
そうと決まれば、島津と離れている今のうちにちゃんと決めなくちゃいけないことは決めないと。
空はスマホを取り出した。
ブブッ
帰宅してシャワーを浴びたところで、スカイからの連絡が届く。
ニヤニヤしながら開いた画面に愕然とする。
《お願い 二人で会う時以外では、傍に寄ってこないで。》
ショックで力が抜けて、俺はスマホを床に落としてしまった。
ガゴッ
今まで聞いたことのない音がして、以降電源が入らなくなる。
あんな言葉が送られて来たことはショックだったが、きっとあの文章には続きがあるのだろう。
それに何よりあの文章に対しての説明を、直接スカイの声で聞きたかった。
俺はテキトーな服を身に着けると、すぐに車を出してスカイの家を目指した。
地下鉄から私鉄に乗り入れ、会社から1時間近く。
自宅マンションが見えたところでタクシーが自分を追い越し、マンションの前に停まった。
出てきた人物に驚く。
「あれ? 部長?」
タクシーから降りてきたのは部長だったのだから。
そして更に驚くことが。
「は? 叔父さん何でここに?」
後ろから何かの鍵を振り回して歩いて来た島津が、私を飛び越えて部長に話し掛けたからだ。
それに加えて、
「貴方、おかえり。あら、スカイも。おかえり。」
マンションの入口から出てきた母が、親しげに部長に話し掛けたのだ。
「え? 母さん、部長を知っているの?」
「何言ってるの? スカイの父親よ、この人。」
「「はぁ~???!!!」」
私と島津は、もう夜も遅いと言うのに路上で叫んでしまった。
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