なぜか、同期のモテ男に好かれてしまったのですが…

325号室の住人

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クチュンッ

暫くの間、何も言えないまま隣り合って静かにベンチに掛けていた。
けれど、スカイのくしゃみに沈黙が破られた。

俺が上着を脱いで彼女の肩に掛けると、
「ごめん。」
俯きがちにスカイが言った。

俺が驚いて顔を覗き込めば、

「あの…さっき、部長がね。資料室に居たのは甥の島津くんじゃなくて自分だって。だから、その…昼はごめんなさい。」

スカイはそのまま頭をペコリと下げた。

「いや、良いんだ。似た顔で紛らわしいのに、誰にも言っていなかったから。」

俺が弁明をすれば、スカイは顔を上げた。

「でも、いくら資料室が薄暗いとは言え、部長と島津くんじゃ年齢も違うのに。」
「うん。15違うんだ。寡夫だった父が亡くなった時、姉と2人、本当に世話になってさ。俺達を大学までやってくれて、だから自分は婚期を逃しちゃったんだよ。」
「ふふっ。そうなのね。あんなにちゃらんぽらんに見えるのに。」
「惚れちゃった?」
「そうね。部長なら、女遊びは酷いけど戸籍としてはきれいだものね…」
「言っておくけど、俺だって戸籍はきれいだよ。」

スカイはポカンとした。

「あ、前に俺がしてた指輪なら、父の遺品だよ。中学時代からずっとお守りだった。だから、他人からどう見えるかなんて考えたことなかったんだ。」
「そうなのね。」

スカイの手を両手で挟んで温めながら指輪の話をすれば、スカイは頬を染めて顔を背けてしまった。

「ねぇ斉藤さん。」

俺は、スカイの髪に手を伸ばす。

一筋を残して頭の高い位置に纏められた髪の、その僅かな一筋を緩く握れば、スカイはやっとこちらへ顔を向けてくれた。
けれど、まだ視線を落とすスカイに、俺は1つ深呼吸をしてから口を開いた。

「斉藤スカイさん、お、俺は……君のことが好きです。」

言うなりスカイの両頬を両手で包んだ。

スカイの頬はまだ冷えていたが、頬に赤みが差すのと同時に熱を感じた。

「ねぇ、斉藤さんは?」

俺は、スカイの表情を見逃すまいと、どんなに小さな声も聞き逃すまいと、顔を近付ける。

スカイの返事を促すと、スカイは俺の掌の上からひんやりとした自分の掌を被せると、声を発した。

「あ…えと……」
「ん?」

笑顔で促せば、スカイは自分の手すら振り切る勢いで下を見た。

「わわわ、私、ね。島津くんの笑顔が苦手なの。」
「え…」
「見ると、ドキドキが止まらなくなって、でも逆に心臓は止まりそうになるの!」
「それって、俺のことが好きって聞こえるけど…?」

スカイは顔を上げた。
驚いたように目を見開いている。

俺はそのスカイの顔が何だかとても愛おしくて、スカイの額に唇を押し付けた。

チュッ

鳩が豆鉄砲を食らったような表情で額を手の指10本で守るスカイを、俺は抱きしめた。

「ごめん。だけどかわいかったから、我慢できなかった。」

少し掠れた声で耳元に囁けば、

「もう!」

スカイから、抗議するような唸るようなくぐもった声が聞こえた。






「《スカイ》って呼んでいい?」
「もう! 耳元で囁くの禁止!」
「俺のこと、《あかり》って呼んでくれる?」
「わかった。わかったから、もう許して!!」

何がどうなってこうなったのか、ふと気付くと、何故か島津の膝の上に右を向いて座って、上半身はギューギューに抱き締められていた。

島津に近い右耳は島津の囁きや吐息を拾っており、もはや瀕死の状態だ。

「ねぇ、スカイ…」

島津の声が、私を呼ぶ。

「俺の名前、呼んで。」
「あ…かり……」
「うん。大好きだよ、スカイ。」

島津が幸せそうに笑う。
途端に激しくなる動悸に胸を押さえて顔を背けると、島津の手が追いかけてきて私の耳を擽った。

「少しずつでいいから、慣れてくれるとありがたいな…」

──神様、島津が私に甘すぎるのですが……


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