7 / 32
7
しおりを挟む──俺の好きな人が、俺じゃない奴のために自分を変えたってのか?
「…………ないで…」
壁ドンされてる所為でいつもより近い島津から、小さな声が降ってきた。
背の高い島津の表情は見えない。
──《行かないで》って言ったのかしら?
「《行かない》なんてできたら良いんだけどね…」
空の反応に島津がパッとこちらを見た。
「残念ながら上司命令なの。私も困ってるんだけど、断れないから覚悟を決めたわ。」
言えば、丁度昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「そう。」
島津の返答に、《これで話はおしまい!》とばかりに彼の胸を押して脱出する。
──こんなところ、ネイラーズに見られたら最悪だわ。
「それじゃ、また。」
何やら考え事をしている島津は置いて、デスクに戻った。
気付くと目の前は壁で、スカイの姿は既に無かった。
善は急げと上階の部長室を目指した。
「遅いだろ、灯。軽食1つで昼休みを潰すなんて。」
この部屋の主は俺の父の弟だ。
ただし、俺の父は母の家に婿に入っていて名字が違う。
「うん、ごめん。実はさ…」
我が物顔で来客用のソファに座れば、叔父は俺にもコーヒーを淹れて向かいに座った。
食堂の隅に昼にだけ来てるパン屋のメロンパンの袋を開けながら、叔父が口を開いた。
「で?」
いつものように促されて話し始める。
実際、俺は度々昼休みや就業後にここへ来ては、《本日のスカイ》を話して聞かせていた。
「……という訳でさ、スカイは仕事が終わったら《婚活パーティー》に行くんだって。
結婚なんて俺としてくれたら良いのに。なんで他の奴なんて探しに行くんだよ!
そしたらさ、何て言ったと思う?」
「さぁな。」
「上司の命令だから断れないって言ったんだ。」
「へぇ。」
「叔父さん!これは完全にパワハラだろ? 自分の部下くらい、ちゃんと手綱引いといてくれよ!!」
俺は、自分と叔父との間にあるローテーブルをドンと叩いた。
置いてあったコーヒーの器が揺れ、ガチャンッと音を立てた。
自分でも荒れていることに気付き、少し冷静になろうとその冷めつつあるコーヒーを一気に煽る。
「しかもさ。俺は一方的に迫られてるだけだって言うのに、俺には《遊び人》っていう噂があるんだって言われたんだ。
《休憩時間でもないのに資料室で、毎月社内の女の子をとっかえひっかえ》って。俺、全く心当たりないんだけど…?」
俺は、親戚だけあって顔の作りが似ている叔父を睨み付ける。
この目の前の男は昔からよく女にモテるのだが、決まった相手は居ない。
案の定、叔父はコーヒーを噴いた。
「やっぱり叔父さんだったんだな。」
「すまない、灯。みんなに《社内婚活パーティー》の需要があるのかマーケティングと、開催が決まってからは周知を頼もうと思って声を掛けて、資料室で聞き取りしてたら何故かみんな、私を《島津主任》って呼ぶんだよ。」
「だからって、訂正するチャンスはいくらでもあっただろ!」
「ごめんごめん。それでな、コレだ。」
叔父は立派なデスクの引き出しから、コースターサイズの丸い厚紙を出してきた。
算用数字で、《1》と《2》とあるそれの、《2》を灯に差し出した。
「私とお前とが同時に存在すれば、別の人間だと周知できる。
どうだ? お前も参加すれば。
それに、愛しのスカイちゃんに悪い虫が付くのも阻止できるぞ。」
「………………わかった、出るよ。」
了承し、《2》を受け取った。
「上の社員食堂に19時だ。」
少し叔父の噴いたコーヒーが掛かったので予備のスーツに着替えると、定時で退社できるように仕事に没頭した。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
春瀬湖子
恋愛
大手商社の受付として働く社会人四年目の久保美月は、ここ最近の同僚からの嫌がらせに辟易していた。
そんな日々のイライラのせいか、ある日熱を出してしまう。
意識朦朧としたままいつものように制服に着替えて持ち場へ行った美月だったのだが、おや、なんだか下半身がスースーする⋯?
“こんな失態したことないんだけど!!”
スカートを穿いていないことに気付いた美月を助けてくれたのは社会人二年目、営業部の水澄結翔で⋯。
助けられたことをキッカケに少しずつ親しくなる二人は-⋯
※本編は全年齢、番外編のみR描写ありとなっております。
※他サイト様でも投稿しております。

冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜
入海月子
恋愛
「君といると曲のアイディアが湧くんだ」
昔から大ファンで、好きで好きでたまらない
憧れのミュージシャン藤崎東吾。
その人が作曲するには私が必要だと言う。
「それってほんと?」
藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。
「私がいればできるの?私を抱いたらできるの?」
絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないとわかっているのに、私は頷いてしまった……。
**********************************************
仕事を頑張る希とカリスマミュージシャン藤崎の
体から始まるキュンとくるラブストーリー。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

起きられないモーニングコール、眠れない夜カフェ。
待鳥園子
恋愛
突然、夜に良く眠れなくなってしまった会社員のまゆ。
いろいろと試してみた結果、どうやらわずかな光でも気になって堪らなくて、浅い睡眠しか取れないようになってしまったらしい。
苦し紛れの解決策に洋式棺桶を購入し、その中で眠ることにしたまゆ。ある日、棺桶の蓋を開けると、見えたのは自室とは違う天井。
そして、なぜか顔見知り程度の関係のはずのカフェ店員もそこに居た。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる