なぜか、同期のモテ男に好かれてしまったのですが…

325号室の住人

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──俺の好きな人が、俺じゃない奴のために自分を変えたってのか?






「…………ないで…」

壁ドンされてる所為でいつもより近い島津から、小さな声が降ってきた。
背の高い島津の表情は見えない。

──《行かないで》って言ったのかしら?

「《行かない》なんてできたら良いんだけどね…」

空の反応に島津がパッとこちらを見た。

「残念ながら上司命令なの。私も困ってるんだけど、断れないから覚悟を決めたわ。」

言えば、丁度昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「そう。」

島津の返答に、《これで話はおしまい!》とばかりに彼の胸を押して脱出する。

──こんなところ、ネイラーズに見られたら最悪だわ。

「それじゃ、また。」

何やら考え事をしている島津は置いて、デスクに戻った。






気付くと目の前は壁で、スカイの姿は既に無かった。
善は急げと上階の部長室を目指した。

「遅いだろ、あかり。軽食1つで昼休みを潰すなんて。」

この部屋の主は俺の父の弟だ。
ただし、俺の父は母の家に婿に入っていて名字が違う。

「うん、ごめん。実はさ…」

我が物顔で来客用のソファに座れば、叔父は俺にもコーヒーを淹れて向かいに座った。
食堂の隅に昼にだけ来てるパン屋のメロンパンの袋を開けながら、叔父が口を開いた。

「で?」

いつものように促されて話し始める。
実際、俺は度々昼休みや就業後にここへ来ては、《本日のスカイ》を話して聞かせていた。

「……という訳でさ、スカイは仕事が終わったら《婚活パーティー》に行くんだって。
結婚なんて俺としてくれたら良いのに。なんで他の奴なんて探しに行くんだよ!
そしたらさ、何て言ったと思う?」
「さぁな。」
「上司の命令だから断れないって言ったんだ。」
「へぇ。」
「叔父さん!これは完全にパワハラだろ? 自分の部下くらい、ちゃんと手綱引いといてくれよ!!」

俺は、自分と叔父との間にあるローテーブルをドンと叩いた。
置いてあったコーヒーの器が揺れ、ガチャンッと音を立てた。
自分でも荒れていることに気付き、少し冷静になろうとその冷めつつあるコーヒーを一気に煽る。

「しかもさ。俺は一方的に迫られてるだけだって言うのに、俺には《遊び人》っていう噂があるんだって言われたんだ。
《休憩時間でもないのに資料室で、毎月社内の女の子をとっかえひっかえ》って。俺、全く心当たりないんだけど…?」

俺は、親戚だけあって顔の作りが似ている叔父を睨み付ける。
この目の前の男は昔からよく女にモテるのだが、決まった相手は居ない。

案の定、叔父はコーヒーを噴いた。

「やっぱり叔父さんだったんだな。」
「すまない、灯。みんなに《社内婚活パーティー》の需要があるのかマーケティングと、開催が決まってからは周知を頼もうと思って声を掛けて、資料室で聞き取りしてたら何故かみんな、私を《島津主任》って呼ぶんだよ。」
「だからって、訂正するチャンスはいくらでもあっただろ!」
「ごめんごめん。それでな、コレだ。」

叔父は立派なデスクの引き出しから、コースターサイズの丸い厚紙を出してきた。
算用数字で、《1》と《2》とあるそれの、《2》を灯に差し出した。

「私とお前とが同時に存在すれば、別の人間だと周知できる。
どうだ? お前も参加すれば。
それに、愛しのスカイちゃんに悪い虫が付くのも阻止できるぞ。」
「………………わかった、出るよ。」

了承し、《2》を受け取った。

「上の社員食堂に19時だ。」

少し叔父の噴いたコーヒーが掛かったので予備のスーツに着替えると、定時で退社できるように仕事に没頭した。


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