なぜか、同期のモテ男に好かれてしまったのですが…

325号室の住人

文字の大きさ
上 下
6 / 32

  6

しおりを挟む

──めんどくさ…

呟いたスカイは、化粧直しに溜め息を吐いた。

これまでは化粧の《け》の字もなかったので、昼休みは本屋をひやかしたり雑貨屋をひやかしたり、カフェで読書をしたりととても有意義だったのに。

ほんの10日前なのに、もう遠い昔に思えてしまう。

空は化粧ポーチのジッパーを閉めると、顔を左右に振りながらメイクのチェックをする。


就業後は就業後で、なんのトラブルも雑用もなく定時に仕事が終わる。

仕事上がりにすぐ上の上司に連れ回されるのは、エステにサロンにデパートにブティック。
プロのカラーコーディネーターにトップスタイリストにエステティシャンにリフレクソロジストにネイリストにメイクアップアーティストに…無理矢理のように会わされた、横文字職業の方々。

疲れ果てて夜はよく眠れるようになったけれど、代わりにアニメは全て録画になったし、それも溜まる一方の消化不良…
ストレスは溜まる一方だった。


けれど、それももう今日で終わる。
今日の就業後はいよいよ例の婚活パーティー。

神と崇める絵師様による推しのカレンダーの日付に雑誌の付録のシールを貼りまくって耐えた日々も、今日で終わる。


準備万端整えた空は、これまで持っていたお財布ポシェットよりも大きな化粧ポーチを抱えてトイレを出た。






食堂での噂話がどうにも気になって、俺はスカイを探した。

部署にも、席にも、いつも弁当を食べている屋上にも見当たらないので、今日は外に出たのかもしれないと考え、あまり人気ひとけの無い、資料室の向こうのトイレの前を通ろうとした時だった。

「ぶへ!」
「ごめっ」

前をきちんと見ていなかったのだろう俺は、トイレから出てきた女とぶつかった。

「大丈夫?」

俺の問いに眼鏡を外した女は、掛け直すと、

「大丈夫そうよ、心配ありがとう、島津くん。」
と、顔を上げた。

「え…斉藤さん?」

俺はそのまま言葉を失う。
だって、他の女みたいに化粧をしたスカイがそこに居たのだから。

厚く塗って隠しているけれど目の下は隈だし、右頬には吹出物も1つあるし、何だか疲れている。
けれど、階段を駆け上がるようなスピードで耳までも朱に染めるとスカイがかわいらしい声で言った。

「あぁ、メイク下手だからあんまり見ないで。」

体ごと顔を背けるのを見ると、俺の本能が噴き出しそうになる。

「いや。髪下ろしてるの初めて見たから。」

俺はスカイの髪に触れる。
予想より柔らかくて、残念なことに少し着色してある。

「イヤ!」

けれど、気付いたスカイによって手の中の髪は奪われてしまった。

「本当に島津くんは、噂通りね。」
「噂?」
「うん。就業中でも関係なく、資料室で月替りで社内の女の子とっかえひっかえしてるって。」
「え、心外だなぁ。…俺、そんなに遊んでないよ。」

──茶化して言うけど、ショックだ。俺は身奇麗だ。いつでも女に迫られるばかりなのに。

「今のすごく自然だったよ? 扱い慣れてそう。」
「そう…見える? じゃあ、俺と遊ぶ?」

俺はスカイを囲うように壁に手をついた。

「プライベートでは《俺》なんだね。意外。」

関係ない話をしながらも、スカイは細い首も少し開いた襟元も真っ赤だ。
コレは、意識してもらえてるのか?

「ねぇ、どうして最近変わったの?」

当たり障りないことを訊きながらスカイを見下ろせば、スカイは下から見上げてくる。

その上目遣い加減に心臓を鷲掴みされ、熱が下半身に集まりつつある。

「私ね、今日の就業後、婚活パーティーに行くの。」

俺はショックを受けた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話

春瀬湖子
恋愛
大手商社の受付として働く社会人四年目の久保美月は、ここ最近の同僚からの嫌がらせに辟易していた。 そんな日々のイライラのせいか、ある日熱を出してしまう。 意識朦朧としたままいつものように制服に着替えて持ち場へ行った美月だったのだが、おや、なんだか下半身がスースーする⋯? “こんな失態したことないんだけど!!” スカートを穿いていないことに気付いた美月を助けてくれたのは社会人二年目、営業部の水澄結翔で⋯。 助けられたことをキッカケに少しずつ親しくなる二人は-⋯ ※本編は全年齢、番外編のみR描写ありとなっております。 ※他サイト様でも投稿しております。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子
恋愛
「君といると曲のアイディアが湧くんだ」 昔から大ファンで、好きで好きでたまらない 憧れのミュージシャン藤崎東吾。 その人が作曲するには私が必要だと言う。 「それってほんと?」 藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。 「私がいればできるの?私を抱いたらできるの?」 絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないとわかっているのに、私は頷いてしまった……。 ********************************************** 仕事を頑張る希とカリスマミュージシャン藤崎の 体から始まるキュンとくるラブストーリー。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

起きられないモーニングコール、眠れない夜カフェ。

待鳥園子
恋愛
突然、夜に良く眠れなくなってしまった会社員のまゆ。 いろいろと試してみた結果、どうやらわずかな光でも気になって堪らなくて、浅い睡眠しか取れないようになってしまったらしい。 苦し紛れの解決策に洋式棺桶を購入し、その中で眠ることにしたまゆ。ある日、棺桶の蓋を開けると、見えたのは自室とは違う天井。 そして、なぜか顔見知り程度の関係のはずのカフェ店員もそこに居た。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...